表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
389/409

フラワーダンス共闘(6)

 カタストロフに噛みついたビビアンとサリエリ、レイミンが嘲笑うように離れていく。意図的に見せる背中を怒った怪物が追う気配。それに合わせてウルジーとユーリィも下がっている。


「ウル、ルート調整」

「うい」


 思ったより速い追撃スピードに誘導の必要を感じたエナミはウルジーに指示する。ブラストハウルの連発が建物を粉砕した。それを見てビビアンは曲がり角に入る。

 そこには棒術娘がひそんでいてすれ違う。ツイと出したスティックの先がカタストロフの足を引っ掛け転倒させた。角のビルに頭から突っ込んだ怪物の首筋に狙いを定める。


「スパイラル……撃?」

「迷うんなら技名言うのやめなさいよ!」

 メリルはもう義務的にツッコんでいる。

「この子、いつもこうなの?」

「こうとは?」

「命懸けの戦闘中に素っ頓狂なこと平気でするタイプだってーの」


 掌底撃がヒットし、ヴァラージは頭から路面に打ち付けられる。さすがにすぐには立ち上がれない様子だ。


「集中してるんですよ。言うことが軽いのはセルフコントロールしてるんです」

「自分でメンタル維持するタイプね。周りは気が抜けるけど」

「メンバーは慣れてますから」


 事実、ウルジーは非常に広く視野を取って対処している。このときも道路が狭くてスティックを振り回せないと見るや素早くユーリィと交代した。


「うっにぃ!」

 気合一閃、猫娘が斬り掛かる。


 一撃目が太ももを深く斬り裂くも、二撃目からはリフレクタを使われてしまった。無理と判断したウルジーが背中をコンコンと叩いて逃げると合図している。


「戦闘慣れしてるわけね」

「ウルの場合、格闘慣れっていうのが正しいんでしょうけど」


 フラワーダンス唯一の格闘技経験者は心強い存在である。アバウトな指示だけで効率的に動いてくれるのでエナミの負荷を軽くしてくれる。


「まあ、あれだけ攻められれば追うわよね」

「いい感じに足も止められました」


 雑に見えるユーリィも、あとの展開を見越して足を狙っていった。緩やかな追撃速度に合わせてメンバー全員が目指すポイントへと配置を進めていく。


「残り200。ここが勝負どころよ」

「いえ、もう決まってます」


 ユーリィとウルジーが交代でフォースウィップを打ち払いながら下がっていく。広い通りまで引っ張ったところで駆け出した。

 地道なダメージは生体ビームのレンズ器官の再生を遅めている。どうにか復活させた螺旋(スラスト)力場(スパイラル)で地面と平行に飛び始めた。二機の背中へと迫る。


「思ったより再生してるわよ!」

 メリルが警告してくる。

「なんとか想定内です」

「もう少しなのに」

「二人に止めさせるつもりじゃありません」


 疾走する二機が左右に分かれて横道に入り込む。どちらを追うか迷わせて視線を奪った。そこへビビアンのホライズンが真正面から飛び込んでいた。


「っけえ!」


 気づいたときにはもう遅い。反射的に振り回したフォースウィップは宙を掻いただけ。残像を刻んでスライディングに移った彼女は下をすり抜ける。立てたビームランチャーがカタストロフの正中線に連射を叩き込みながら。


「こっのぉー!」


 最後に蹴り上げた足が怪物の腹を捉える。ひっくり返しながら慣性のまま蹴り飛ばした。カタストロフは背中から路面に叩き付けられ大通りを滑っていく。


「サリ、ミン!」

「もらったぁー!」

「美味しいとこ!」


 そこが当初から決まっていた場所である。正面にはクロスファイトドームがメインゲートを大きく開いて待っていた。

 両サイドから二人は容赦なく連射を浴びせる。起き上がったビビアン機も膝立ちになると狙撃モードに入った。


「焼け落ちちゃえー!」

「指、おかしくなりそう」

「あとはいくらでも休めるからぁー!」


 蓄積したダメージはカタストロフをかなり痛めつけていたらしい。今度ばかりはリフレクタを展開する余裕もなく連射を受けている。飛び散る破片と蒸散する体液の中で、もがく様子しか確認できない。


「そこまで。ゲージ、ちょっとだけ残しといて」

 索敵ドローンからの視界も怪しい。

「はぁはぁ……、いくらなんでも効いたでしょ」

「死んでてくれない?」

「ちょっとしぶとすぎない、ミン?」


 むくりと起き上がる影。蒸気が徐々に晴れていく。そこには内部組織が剥き出しになり、人型を保つのも怪しくなった肉の塊。それでも蠢いているのが不気味でもあった。


「動けないんじゃない? トドメ刺すべきじゃ……」

「待って」


 そんな状態だというのに表面が泡立つようにのたくると少しずつ硬質化していく。外骨格を取り戻せばまた動き出しそうな気配だ。


「まだ力を残してる」

「ほんと、冗談にならないくらい怪物なのね」


 つい、ビームランチャーを出力100%で撃ち込みたい欲望に駆られる。だが、今の状態でそれをやれば一帯はずたずたになってしまう。


(現状の出力で集中攻撃してもイタチごっこ)

 撃滅までは持っていけないだろう。


「リクモン流奥義『蓮華槍(れんげそう)』」

 その声が意識の空隙を縫う。


 肉塊は狙いどおり広く開放されたメインゲートの中に跳ね飛んでいく。薄暗い内部に転がっていくとメインゲートが重い音を響かせながら閉じた。


「上出来だぜ」

「やったぁー!」


 フラワーダンスとツインブレイカーズの共闘でミッションを達成した瞬間だった。

次回『封じ込めるも(1)』 (ここはどういう状況か)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ