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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
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フラワーダンス共闘(2)

 ビビアンの例えは本気ではなくとも全くの嘘でもない。カタストロフは30mの巨体のわりによく動くが、全力のヴァン・ブレイズほどの速さはないからだ。


「だったら仕留めてみやがれ!」

「言われなくたってやってやるわよ!」


 駆け寄る真紅のアームドスキンが旋回からの後ろ蹴り。凄まじいストロークから繰り出される一撃はどれほどの打撃力を伴っているか。

 対してビビアンのホライズンは低い姿勢から伸び上がりつつの逆袈裟斬り。危険だと判断したか躱した怪物はもろに蹴りを喰らう。ガードしたつもりがその腕ごと打ち抜かれて、くの字に折れた。


「ガシュッ!」

 苦鳴をもらしている。


(これは堪らないでしょうね)

 口喧嘩しつつ息はぴったりなのにエナミも苦笑する。

(ちゃんと逃げ道は作ってあげてるんだけど)


 目の前に開けていた通りに逃れるカタストロフ。しかし、そこにも戦力は配置してある。


「いらっしゃいなのにぃ!」

 ユーリィが待ち受けていた。


 彼女はビームランチャーを装備していない。いつもどおりの双剣だが、こちらは全く出力を絞っていないもの。それに猫系獣人パシモニアの回転力が乗っている。


「うーにににににぃ!」


 波打つフォースウィップの比ではない連撃が叩き付けられる。全身を覆うほどの巨大なリフレクタを生み出し防いでいるが、その表面に無数の干渉波の紫線が刻まれた。


「にににににににぃー!」


 しかも、手数が多いだけではない。ユーリィの斬撃は一つひとつがとてつもなく重い。反動でカタストロフはずり下がっていく。そこへ背後からヴァン・ブレイズとホライズンが迫りつつあった。


「スタンバイ?」

「うい」


 逃げ場に困って横道に逸れる。ほうぼうに駆体をぶつけながら路地を抜けると、そこには黒ストライプのホライズンが配置されている。


「やる?」

 小首をかしげて構えるウルジー。


 彼女のホライズンが持っているのは二つの節を持つだけのただの棒に見える。侮って襲い掛かるヴァラージ。しかし、無口少女にとっては最強の武器だった。


「ほい」


 無造作にフォースウィップがひるがえるも絡めて逸らした。両側の節から先端にかけて鋼棒の表面を青白い力場が覆っている。


「ブレードスティック、お披露目ー」


 つぶやく程度の音量だが、その内容は重要だ。ひた隠しにしていたウルジーの新装備はブレードどころかビームさえ弾くもの。もちろんフォースウィップの軌道も突き崩してしまう。間合いで匹敵するものだった。


(これがないとウルジーの参戦は断念してたかも。普通のスティックではカタストロフに通用しないもの)


 ただの鋼棒では容易に斬り裂かれてしまう。回避するにも限界があろう。必要だった防御手段を彼女は手に入れた。


(それだけじゃない)


 フォースウィップは弾かれるとわかるとリフレクタで受けてくる。同じ力場であるブレードスティックは干渉して止められた。ただし、そこから抜けてくる。力場をカットすればただの金属棒なのだ。カタストロフは横っ面を強かに打たれた。


(ここからがブレードスティックの本領)


 高速回転を始めたスティックが連続して顔面を叩く。さすがの怪物もよろけた。腕で遮ろうとするも角度を変えて打ちすえる。首から上が左右に跳ね、カタストロフはよろよろと下がっていく。


「ユーリィ・ユクル選手の豪快な連撃に続いて、ウルジー・ウルムカ選手の棒術が炸裂ー! カタストロフを攻め立てるぅー! 凄まじいまでの隙のない流れだぁー!」


 最も強力なのはこれからである。十分にダメージを重ねたとみるとウルジーはスティックを引いた。


「リクモン流掌底撃ー」

「グギャッ!」


 腹に突き立った一撃から内部へ浸透する衝撃系の打撃が決まる。これがヴァラージに対し、体力を奪うに最適の攻撃法なのだ。


「ググ……」


 しかし、カタストロフは底なしに思えるかの体力で持ち直す。身体の正面には復活したレンズ器官が光っていた。ウルジーの弱点ともいえるのは棒術の攻撃がほぼ立ち技であること。前後くらいしか足を使わないところを覚られたか。


「もらうわけにはいかないな」


 ウルジー機の前には金色のサークルディスクがかざされている。生体ビームはそこに吸い込まれて消えた。

 背後に控えていたレギ・ソウルが阻止している。グレオヌスには全体の防御を頼んであった。


「ありー」

「いいさ。続けるかい?」

「ぼくはトドメ刺せない」


 役目を果たしたウルジーが間合いを外すと、両サイドには青と緑のストライプを持つホライズンが中腰の姿勢になっていた。


「ここでヒットマンの登場ー! サリエリ・スリーヴァ選手とレイミン・ラーゼク選手の挟み撃ちにカタストロフは耐えられるのかぁー! いや、無理のはずです!」


 両腕を左右にかざしてリフレクタを生み出して防ぐ巨体。しかし、両側からのビームの連射で反動のサンドイッチになっている。釘付け状態だった。


「それでいいのかしら? 出力押さえてゲージリミット解除されてるビームランチャーはかなり連射利くんだけど」

「あんたの怖ーい天敵が追いついてきちゃうかもよ」


 ゆったりと現れたのは真紅の影。声もなく歩み寄ると前傾になり、背中に手の平を当てた。


烈波(れっぱ)

 カタストロフは路面を跳ねて通りの先へと転がっていく。


(あと1500)


 エナミは目標地点までのカウント表示に目を走らせた。

次回『フラワーダンス共闘(3)』 「器用な真似をするのね?」

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