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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
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フラワーダンス共闘(1)

 放り出されたウィーゲンはしばし呆然としていた。なにかに取り憑かれたかのような熱狂の残滓が身体を炙っている。直前にしたことを思い出すと羞恥心が湧いてきた。


(私は、怖ろしかったのか。死ぬのが怖くてあんな無様な足掻きを)


 軍人を目指す以上、割り切っているし覚悟もできていると思っていた。それがどうだ。現実に直面すると怖ろしくてどうしようもなかった。

 過呼吸気味で胸が苦しい。そして、緊張の途切れと恐怖を克服できなかった悔しさが混じり、目から大粒の涙がこぼれていた。


「すみません、醜態を」

 一番見せたくない相手に見られている。

「いいの……。いいの、生きていてくれるならどんな姿だって」

「メリル……」

「わたしだって同じだもの」

 隠しようもない涙声が伝わってくる。


(ああ、この方にもこれほどの……)

 負わせてしまった。

(いや、私はもっと強くあらねばならないのだ。この方を不安にさせないほど強く)


 我が身を振り返ってようやく気づく。自分たちがどれほど危険な敵に対していたのかを。


「メリル、危険です! ほとんどアンチVが効かなくなった状態でフラワーダンスにあとを任せるなど!」

「いいえ、問題なかったみたい。彼女たちはもっと真剣に事態と向き合ってた」

「それは……?」


 ウィーゲンが改めて確認すると、フラワーダンスのホライズンはビームランチャー(・・・・・・・・)を装備していた。


    ◇      ◇      ◇


「リスキーではありますが非常に妥当な選択でもあります」

 副局長アレン・アイザックも眉根が少々歪んでいる。

「悩みどころよね。でも、こちらから提示する他の選択肢もないのではなくて?」

「はい、私には思い付けません」

「だったら信じましょう、フラワーダンスの少女たちなら市街地でも上手にビームランチャーを使ってくれると」

 ユナミ・ネストレル本部局長は判断する。

「そして、お孫さんなら彼女たちを見事にナビしてくださると」

「そうね。妙に悟ったような面持ちだったのが少し気になるけど」

「いざとなると非常にクレバーな性質みたいですね?」

 わずかに笑みさえ浮かべている。


(エナ、あなたはこれほどの試練を自ら背負う覚悟をしたとわかっているでしょう。大切な友人を死なせないためにどれほどの批判を浴びようと構わないと)


 ユナミは孫娘の急速な成長が嬉しくもあり悲しくもあった。


   ◇      ◇      ◇


「フラワーダンスとツインブレイカーズが躍動するぅー!」

 フレディが絶叫する。

「こんなシーンが実現するとは思ってもいませんでしたぁー! わたくし、実況冥利に尽きます! 市民の皆様もご期待ください!」


 起き上がったカタストロフは現状の把握が難しい様子。最初の一射を放ったのはサリエリだった。咄嗟に駆体を傾けたが、擦過したビームが甲殻を焼きえぐっていく。


「OK、サリ」

 エナミは肯定する。

「出力50%に制限されているとしても、水平もしくは上方への発射でなくては付近一帯をクレーターにしてしまう。そのつもりで」

「ラジャ!」


 倒れているカタストロフに集中砲火を浴びせられなかったのはその所為。いくら撃滅を目的とし、その一帯がすでに避難済みだとしても被害は最低限にしたい。ビームランチャーを使うということはその配慮が不可欠だということ。


「飛ぶぞぉ!」


 極度の危機感からかカタストロフが螺旋(スラスト)力場(スパイラル)をのたうたせて飛行しようとしている。サリエリたちはするに任せた。そして、建物より高い位置まで達したタイミングで集中攻撃する。


「キシャアー!」


 狙っているのはサリエリとレイミン、グレオヌス。三機のビームランチャーが同時に青光を吐き出す。

 空中で巧みに駆体をひるがえして直撃は避けるも全てが至近弾だった。擦過したビームの熱と質量が赤褐色の甲殻を一部粉砕して抜けていく。


「いいタイミング。飛んだら狙われるって思わせて」

 エナミの方針はこうだ。

「そろそろアンチV弾頭もあまり効果がないって本部も警務部も思ってる。もし、ルートから逃がすようなら、この避難区画一帯を焦土にしても撃滅しようとする。それだけは避けたいの。だから飛ばせないで接近戦でドームまで。よろしく」

「承り!」


 上空から配置を確認したカタストロフも狙いを絞れないだろう。なにせフラワーダンスメンバーはずっと動き続けている。次弾を喰らわないよう隙間を探して降りようとしたと思われるが、それを読めない彼ではない。


「おかえり。待ってたぜ」

「シュシュッ!」


 着地間際を襲うヴァン・ブレイズ。綺麗に芯の通ったリクモン流の拳打を避ける回避力はない。駆体を浮かして衝撃を緩めるしかなかった。結果、真横に吹き飛ばされて転倒する。


「来たぁー!」


 立ち上がる暇も与えず曲がり角を通過してきた赤いストライプを持つ白いアームドスキン。狙いすまして攻撃を加える。


「右手にブレード、左手にビームランチャーのストロングスタイルぅー! これぞ本物の二刀流(デュアルウエポン)、ビビアン・ベラーネ選手ー!」


 脇腹を断ちつつ駆け抜ける。スライディングすると低い姿勢から頭部を狙ってビームランチャーを一射。ぎりぎりでリフレクタに阻まれる。


「お前、なんで怪物相手に怖がりもせず突っ込んでんだよ!」

「この世にあんたのシゴキより怖ろしいものなんてないのよ!」

「人聞きの悪ぃこと言ってんじゃねえ!」


 あいかわらずの緊張感の乏しいやり取りにエナミはため息がこぼれた。

次回『フラワーダンス共闘(2)』 「もらうわけにはいかないな」

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