ドームへの長き道のり(6)
「ガヒート……、ゴー!」
ミッション開始の合図とともにヘヴィーファングがビルの影から飛び出す。照準が甘いのは置いておいて、カタストロフの背後から振り向かせる暇を与えずアンチVを浴びせかける。
最強圧でストレート噴射する薬液は螺旋力場で一部が弾かれるも駆体に到達し甲殻を変質させた。しかし、溶け落ちるには至らない。
(ここまで効力が落ちて。与えてしまった時間が痛い)
メリルは敵に耐性強化させる貴重な時間を作ってしまったのだ。
それでも、せめて生体ビームの発射レンズ器官だけは破壊しておかねばならない。もう、ギャザリングフォースだけでクロスファイトドームまで誘導するのはあきらめている。
「これだとフラワーダンスがアンチVランチャーを使ってもそんなには……」
「気にせず集中してください。そっちはすでに手配していますから」
「わかったわ。必ずレンズは潰す」
コマンダーで手一杯の彼女に代わってエナミが総合的な判断をしてくれている。後先考えず、少女の情報処理能力に頼るしかない。それくらいには信用する気になっている。
(2000近く引っ張った。ノルマはほぼ達成しているといってもね)
悔しい気持ちが腹の奥のほうでチリチリと燻る。
カタストロフが振り向きかけたところでユーゲルに狙撃させる。同時にバーネラにも突っ込ませた。意識を分散させて狙いを絞らせない。
中距離で発射したストレートノズルのアンチVは散弾のように飛散している。飛沫を追い掛けてバーネラの斬撃。敵が展開したリフレクタを叩いて紫線を刻む。一撃目は抜いたフェイント。二撃目を意識の隙間に滑り込ませる。
「いい加減、当たんなさいよー!」
バーネラは焦れている。
「当ててくれないと、こっちがヤバいって!」
「あんたはどうでもいいの!」
「マジかよ! もうタンクが空だってのによ!」
ガヒートは後退させてバーネラに一点集中する。ユーゲルには連射制限のないアンチVランチャーを全て放出させた。
「残量30%切りました」
エナミが警告してくれる。
大きめタンクを搭載しているユーゲル機にも限界がある。両機にナビスフィアで後退を指示して橋梁上へ。そのまま通過させた。
(ガヒートを逃がしたから撃ってくる。ここで)
立体交差道路の橋梁上に達したカタストロフ。動きの少ないユーゲル機が狙われるのは予測済み。生体ビームの発射挙動を認めたところでゴトリと落下音がする。生体ビームは咄嗟に音がした場所を照準して発射された。
「ばっちり!」
それは橋梁下から横合いにパージされたウィーゲン機の右腕の残りである。真っ二つにされても痛くも痒くもない。タイミングを合わせてバーネラが攻撃に移る。そして、橋梁下の両サイドからウィーゲンとマルナのヘヴィーファングも飛び出した。
「いただきですわ!」
「確実に行け!」
インターバルに入った生体ビームの一門に正面からマルナがブレードを突き立てる。転げ込んだウィーゲンは絶え間ないアンチVの連射を浴びせた。バーネラも一門のレンズを斬り裂く。
「よしっ!」
四門全てを沈黙させて生体ビームを封じるのに成功。片腕を失っているウィーゲンも再び攻勢に移るつもりだったのだろう。一瞬の油断が三機を包んでいた。
「なっ!?」
カタストロフが腕を振る。フォースウィップが来ると予測したマルナはリフレクタをかかげた。しかし、カタストロフの手首から放出されたのは一直線の力場だった。糸のように伸びた力場がリフレクタの隙間を縫ってマルナ機の頭部を貫いていた。
「ブラックアウト!」
視界を失ったと報告するマルナ。
離脱しようとするもジャンプしたところで足を掴まれる。背中から落ちてしまった。
「逃げろ! ブラストハウルのインターバルが終わるぞ!」
「外れませんわ! どうなってますの?」
フォースクローが足に食い込み外れなくなっている。
「腕ぇ!」
「駄目か!」
「マルナぁ!」
バーネラの斬撃は虚しく弾かれ、マルナ機の胸を狙って衝撃波が発射される。躊躇もなしに差し入れられたウィーゲンのアンチVランチャーが遮った。どうにか被弾は阻止できたもののランチャーはへし折れてしまう。今度はウィーゲン機が武装もなしにカタストロフの前にいる。
「く!」
左腕で胴を掴まれた。
「ごっ! かはっ!」
副腕のブラストハウルを連続して浴びせられる。意識が飛び掛けるがなんとか耐えた。しかし、右腕がブレストプレートに掛かってミシミシと鳴り始める。
「こ、このっ!」
「逃げなさい、ウィーゲン! 逃げて、食われる!」
「ああああぁー!」
左腕一本しかないウィーゲン機は何度も何度も打ち付ける。だが、拘束は外れない。バーネラの斬撃もリフレクタに弾かれている。
「やめてぇー!」
メリルは思わず絶叫していた。
「遅えよ! 交代だ」
一直線に伸びた真紅の足がカタストロフを打ち抜いている。どれほどのパワーが込められていたのか駆体は50m以上も吹き飛んでいた。
「いいとこ全部持ってこうとすんじゃねえ。俺たちにも美味しいとこ残しとけ」
白いアームドスキンが次々と現れる。その向こうには薄墨色のレギ・ソウルも控えていた。ヴァラージは彼らの包囲の中に放り込まれている。
「フラワーダンスの登場だぁー! なんと、ツインブレイカーズとの夢のコラボレーション開幕ー!」
フレディが煽り立てる。
「引き継ぎます」
エナミの言葉でメリルは自分が滂沱の涙を流しているのに気づいた。
次回『フラワーダンス共闘(1)』 「フラワーダンスとツインブレイカーズが躍動するぅー!」