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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
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ドームへの長き道のり(5)

 以前の方式のアームドスキンであれば、腕が斬り離されただけでもプラズマが噴出して派手に光を放つ。機体各部に姿勢制御推進機(パルスジェット)が配置されていたからだ。

 しかし、ヘヴィーファングの姿勢制御は端子突起(ターミナルエッジ)、駆動機はイオン方式のもの。電力ラインが繋がっているだけなのでほぼ発光を伴わない。それだけにボトリと落ちた腕がリアルに感じられた。


(狙われた……)


 生体ビームを怖れるあまり、発射レンズ器官の再生阻止が第一条件。徹底するがゆえにどこを狙うか読まれ、そして逆手に取られて大破機を出してしまった。


「駄目です、先輩! レンズ器官はまだ完全に再生していません! する前に叩かないと!」

「え?」

 メリルは一瞬なにを言われているのかわからない。

「出力が上がっていないうちにもう一度破壊してください!」

「あ、そういう……」

「しまった」


 しかし、一度退かせたギャザリングフォースのヘヴィーファングはカタストロフから距離が離れてしまっている。再び攻撃しようとするも、そのときにはレンズ器官が本格的にギョロリと目玉のように顔をのぞかせていた。


「く……」

「手遅れです。組み直しましょう」

「ごめん」


 そうとしか言えない。隣でサポートしてくれていたエナミには勝負どころが見えていた。なのに彼女は無理してでも攻め立てねばならなかった局面で反射的に後退指示を出している。判断ミスだった。


(わたしとしたことが……)

 覆水不返とはこのこと。

(安全策を執ろうとするあまり……、いえ、誰かが死んでしまうかもしれないのを怖がって手が動いてしまった)


「信じてくださるのならば忠実な駒となりましょう」

 ウィーゲンの忠誠は心地よかった。


「メリルなら命預けてもいいって思えるからよ」

 ガヒートの信頼は自尊心を満足さてくれた。


「わたしを一番上手く使ってくれそうだし」

 バーネラの屈託のない笑顔が癒しになっていた。


「今、役立てるのを証明できれば、将来あなたはわたくしを重用してくださるでしょうし」

 マルナが冗談めかして言うのは力量を高く評価してくれているからだった。


「目立たない自分を正しく見極めてくれたのはメリルだけだ」

 無口なユーゲルがそこまで言ってくれたのが嬉しかった。


(馬鹿ね。彼らの信頼を勝ち得ていたというのに)

 肝心なところでミスをした。

(「情を捨ててはいけない。でも、流されてもいけない」ってジュリアの言葉が今こそ実感できる。わたしは感情だけで攻めどころを誤ったんだわ)


 以前ミュッセルが、エナミの勝負の綾の見極めは絶妙だと評価していた。それを炎星杯の準決勝敗北で思い知らされたというのに咄嗟に聞き入れられなかったのは失態である。


(まだまだなのね)

 尊敬するファイヤーバードには遠く及ばない。


「幸い、視界が良いとはいえません。カタストロフは私たちと違って俯瞰で状況を掴めません。死角を利用してもう一度レンズを破壊しましょう」

 エナミが正確な進言をしてくる。

「それしかないわね」

「設定します。少し時間稼ぎを」

「ええ、任せるわ」


 飛行させないよう指示を送る。が、言わずもがな敵に飛び立つ気配はない。カタストロフも視界が悪いのを警戒して、集中攻撃されかねない建物より上を避けているらしい。


「ウィーゲン、残った上腕のパージは待って」

 口頭で伝える。

「アンチVランチャーは拾いましたよ。ブレードグリップは捨てましたが」

「それでいいわ。大きな音を立てる動作は禁じます。腕はあとで使いますから」

「パージ音を陽動にですか? さすがはメリルです」


 互いに警戒して静かに行動している状態。不用意に音を立てれば居場所を察知される。逆に音そのものを利用できる。


(このまま包囲状態で)


 エナミが有用なポイントを割り出すまで現状維持をする。建造物とカタストロフの視界との相対位置に留意しつつ、静かにフォーメーションをずらしていく。神経を使う作業だった。


「緊迫した状態が続くぅ。これはヒヤヒヤします」

 ヴァラージに聞こえているわけでもないのにフレディも声をひそめる。


 本当ならレギ・ソウルの救援を求めるのが正解だろう。しかし、グレオヌスは彼女の決めた次の配置に着いている。ミュッセルもだ。彼らを呼び寄せている時間はない。


「どうぞ」

「ありがと」


 エナミが静かにポイントを流してくる。そこは大きな通りを次に控えた広いロータリー交差点。先の大型交差点は立体交差になっている。ひそませるには絶好のポジションだ。


(状況を読み取るのも上手い。エナの情報処理能力は非凡だわ)


 条件付けでポイントを絞り込むとこまではマシュリのサポートを受けるにしても、最適な判断を下すのは少女の能力。そこは彼女好みの戦術を組み立てるにも絶好のポジショニングだった。


「ウィーゲンとマルナは下にもぐって待機。ユーゲルとバーネラは橋梁手前に。ガヒート、合図したらタンクの中身全部吐き出すつもりで連続噴射を浴びせなさい」

「了解」


(大丈夫、もうミスはしない。全力を傾けてでも生体ビームを潰す)


 メリルは最大の集中力をこのミッションに注いだ。

次回『ドームへの長き道のり(6)』 「いただきですわ!」

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