ドームへの長き道のり(4)
入れ代わり立ち代わりに陽動させ、カタストロフの注意を散漫にしながら各機にアンチVタンクへのチャージをさせた。建物に合わせて流動的ながらもフォーメーションを維持して千m以上も誘導する。
(順調。あと三千m弱、このままドームまで導いてしまえば公務科の十六、七の少女を命懸けの実戦に駆り出さなくてもいい)
メリルは可能なら避けたかった。
学年で二つしか違わないといえばそれまで。だが、非凡な経験を持つ彼女に、普段から実戦を想定した厳しい訓練を積んでいるチームメンバーとは異なる。フラワーダンスの少女たちはいつも試合としてアームドスキンに乗っているのだ。
(使わないに越したことはない)
待機していただけでも面目は立つ。
「気もそぞろになってきた感じね」
ヴァラージの様子をつぶさに見る。
「すこし目先を変えますか?」
「ええ、ウィーゲン。ガヒートと交代しましょう。隙があるくらいが追いかけやすいかもしれないわ」
「どういう意味だよ、メリル」
苦言は聞き流す。
ガヒートを正面に入れてフォローにユーゲル、バックアップにバーネラを置いた。ウィーゲンは代わって右側へ、マルナは左担当でそのまま。
カタストロフはガヒートの一転して雑な足運びに食いつく。接近して誘っては逃げるというくり返しにも釘付けだった。
「右肩、そろそろ生まれそうだぜ」
表皮に蠢動が見られ、生体ビーム発射器官が再生する気配がある。
「ほら、行って。あんたが引き付けてる間にわたしが当てるから」
「気軽に言うなよ。めっちゃ睨まれてるんだって」
「だから囮になんな」
蹴り出されたガヒート機にフォースウィップが閃く。リフレクタで押し込みつつ顔面に向けてスプレーノズルの砲口を突き出した。
目潰しをしている間にバーネラ機が前へ。右肩に押し当てるようにしたアンチVランチャーからストレートノズルの噴射が飛び出し、軟化した表皮を溶かした。
「上手い。が、ヤバい」
蹴り離れながらガヒートが言う。
「なんでよ。きっちり成功してるじゃない」
「違うって。なにすんのか、しっかり読まれてる気がしたんだよ」
「まさか。なにがあるってのよ」
現場の意見を戯言と流すメリルではない。すぐさま直近の交錯状態の映像を再生させる。確かに、時間差で踏み込んだはずのバーネラのアンチVランチャーの筒先へ指を伸ばす動作が認められた。
(見えてなかったのに?)
偶然と切って捨てられない。
「本当に読まれているかもしれません」
エナミがマイクを切って伝えてくる。
「確証はないのね?」
「そんな気がします」
「でも、このフォーメーションでの初めての接触なのに?」
パターンは変わっている。
「いえ、読まれたのは攻撃パターンではなくて狙い所です」
「レンズ器官の再生だけは防いでいるのを?」
「はい」
あり得る話だ。それだけに終始していたわけではないが徹底はしている。しかも、あまり意識して迷彩は掛けていない。
「気をつけたほうがよさそうね」
「そう思います」
見た目に引っ張られて知能レベルを見誤ってしまいがちだ。闘争本能が強いからといって、いや逆に強いゆえに相手の意図をも洞察しているのかもしれない。
「バックアップパターンを都度変えます。ユーゲル、能動的に牽制砲撃を挟んで」
接近戦のパターンに変化をつける。さらに集中を乱す。そういう対処法を選ぶ。
「マルナ、あなたから仕掛けてみるわ」
「わかりましたわ」
それまでになかったパターンも交える。横合いからの攻撃に合わせて正面からも攻めると迷う様子も見せる。それを認め、背中からウィーゲンにも攻撃させたりもした。カタストロフは戸惑いからかレンズ器官の防御をする素振りを見せない。
(意識を乱したわね。一遍にでなく徐々にバリエーションを増やしていったほうがよさそう)
時間稼ぎができる。
狙撃手も能動的に動き、ブラインドショットだけでなく側面からビルの隙間を縫う一撃を使うようになった。ルートにブレは出るものの、やむを得ない措置だと考える。
「実に多彩ー! チーム『ギャザリングフォース』の攻撃はまるでパズルゲームを見ているかのよう! 動きは変わっているのに最後は綺麗に揃います! 美しささえ感じさせるタクティクスぅー!」
フレディの実況は気分をよくさせてくれる。
だからといって油断していたわけではない。細心の注意を払っているつもりだった。なのに、その瞬間はやってくる。
「タイミング合わせ。来い、ガヒート」
「あいよ、リーダー」
呼吸も素晴らしかった。
ウィーゲンが陽動の一撃を加え、ガヒートが側撃を仕掛ける。ブレードの突きが肩口を削っていた。そこへ生まれかかっている左右の胸のレンズを狙って両者がアンチVランチャーを突き出した。
「あっ!」
エナミが小さくもらす。
副腕が動いて開口している。放ったストレートの薬液は衝撃波で吹き飛ばされてしまった。顔を出したレンズ器官から白光が生まれ、ウィーゲンのヘヴィーファングの左腕を根元から切り落としてしまう。
「く、下がりなさい!」
「違う! 攻めて! みんなで!」
エナミが言うも、チームメンバーはメリルのナビスフィア指示に慣れすぎていて従ってしまった。
次回『ドームへの長き道のり(5)』 (わたしとしたことが……)