ドームへの長き道のり(3)
「非常に巧みな攻撃です、ギャザリングフォース! まるで都市戦闘にも精通した熟練パイロットの戦闘を見ているかのよう!」
フレディも絶賛する。
(彼らの上達の早さは目を見張るものがあったわ。プロチームのこなれた選手では感じられなかったもの。若さもあると思うけど、飲み込みの早さとか勘の良さとかは天性かしら。そうでないと軍務科のトップは張れないわね)
メリルは思う。
メルケーシンの軍務科だけでも四千人はいる在校生のトップクラスである。努力はもちろん、並外れた才能も要求される。
「カウンターのアンチVショットを浴びたカタストロフにバーネラ選手とマルナ選手が襲い掛かるぅー! ブレードの一閃が脅威を斬り刻むかぁー! ああーっと、フォースウィップと呼ばれる力場の鞭が舞って受け止めたぁー! 怪物もまだ負けておりません!」
ブレードに巻き付いた力場の金線が引き寄せられる。危険を察した二人は刃を解除して代わりにアンチVランチャーを向けた。ところが、発射した薬剤は副腕のブラストハウルに押し返され自ら浴びる羽目になる。
「しぶとい!」
「どんだけ余力あんのよ」
膝立ちでさらに追い打ちを狙っていたユーゲルも開口した頭部に回避姿勢を取る、しかし、その狙いは横の建造物であり、破砕された瓦礫が石つぶてとなって襲い掛かった。後退を余儀なくされてしまう。
「敵もさるものぉー! 立地を利用してきます!」
実況も悲鳴混じり。
「そこへ走り込む影ー! 待ちわびたのは『静かなる闘志』ウィーゲン・オルトラム選手の登場でーす!」
ユーゲルの脇をすり抜け、アンチVランチャーをスプレーノズルで連続噴射しつつ接近する。迫りくるブラストハウルの衝撃波を霧の動きで覚って避け、ブレードでフォースウィップを弾き飛ばし、落としきれないスピードをカタストロフに足を蹴り下ろして止まった。
「密着だぁー! なんという度胸ー!」
フレディも驚愕している。
「これが軍務科とはいえスクール生の姿かと目を疑います! 命懸けで市民を守ろうとしているぅー! 星間軍幹部は彼らの闘志を目に焼き付けておくべきだとわたくしは思いますが、皆様はどうお感じでしょうかぁー!」
振り下ろされるフォースクローをリフレクタで止め、ほぼゼロ距離でアンチVを胴体に連射する。カタストロフも苦鳴を上げつつ引き下がる。ウィーゲンは逃さないとばかりに左手のブレードを弱った甲殻に突き立てた。
「無理に押し込まない。追わせなさい」
「わかりました」
ウィーゲンのヘヴィーファングをユーゲル機とともに下げさせる。同時に復帰したガヒートとバーネラ、マルナを広く展開させつつ追随。危険視させたリーダーを中心にフォーメーションを完成させた。
(言わなくても自分の役割を理解してくれるようになってきたわ。これならフラワーダンスのチームワークに負けない試合ができるはず。とくと味わいなさい、カタストロフ)
メリルは戦況パネル上の怪物のアイコンに笑い掛ける。
「ミュウみたいな笑い方してますよ、先輩」
エナミがくすりと笑う。
「あら、そう? わたしも本質的には凶暴なのかもね」
「ええ、狡猾な獣のそれです」
「言ってくれるじゃないの」
大股で歩いていたカタストロフが螺旋力場をひるがえして飛び立とうとする。現状に危機感を抱いただろうか。しかし、即座にバーネラたちを低層建造物の屋上に飛び上がらせて背中を狙撃。飛翔力を失った駆体が落下する。
「グルル……」
「アタック」
身を起こそうとするヴァラージにウィーゲン機が肉薄。首を刎ねようとした斬撃はリフレクタで阻まれ腕を掴まれてしまう。顔面にアンチVを浴びせるが放さず振り回された。
「リーダー!」
「かまわん! 撃て!」
ウィーゲンのヘヴィーファングはビルに叩きつけられ転がる。そこへアンチVの噴射が集中するも、のたくったスラストスパイラルがかなりの量をふるい落としてしまった。
「遠間では当たらなくなってきたわ。立て直します」
「ラジャー」
「ウィーゲン、OK?」
「烈波に比べればなんてことありませんよ」
すぐさま立ち上がり走り始める男。心強い言葉だが、バイタルはまだ目眩を感じている状態を示している。
(タフね。でも、アンチVが徐々に効かなくなってきてる現状も問題。補給よりは武装変更を考えたほうがいいかもしれないわ)
当初からバルカンランチャーを持たせるかアンチVランチャーを持たせるか悩みどころだった。ウィーゲンたちは彼女の指示に従うと言い、都市戦闘の難しさからアンチVランチャーを選択したが間違っていたかもしれない。
「ミュウ、行けそう?」
エナミが察して確認している。
「持ち替えか? 繋ぐくれえは平気だぜ。先輩たちは面白くねえかもしんねえがよ」
「いえ、このままで行くわ。順次、補給の手筈を整えなさい」
「スピードチャージャー、予定位置に配置済みです」
(タンク容量が小さいのが難点。だけど、彼らが気後れせず思いっきり戦える状況を作るのが先決。周りを気にしつつトリガーを躊躇うようじゃ活きないわ)
メリルは安全策を選んだ。
次回『ドームへの長き道のり(4)』 「気軽に言うなよ。めっちゃ睨まれてるんだって」