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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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決着へ(2)

 ヴァリアントが手を突いて立ちあがる。レギ・クロウも仰け反っていたボディをどうにか立て直す。相打ちで両者とも即座には動けないような状態。


(なにこれ? クロスファイトのリングの光景じゃないの? ビームとかブレードを使って撃墜(ノック)判定(ダウン)を取り合う実機模擬戦をルール化したゲームじゃないの?)

 ビビアンは呆然と二人の戦いを見守る。

(まるでフルコンタクトの格闘技の試合みたいじゃない。殴って蹴って相手を動けなくする競技を泥臭くしたみたいな……、ううん、もっと野蛮で激しい)


 そこまで考えて気が付く。ミュッセルは最初からそれをやろうとしていた。スマートさなんか欠片も持ち合わせない。真剣な殴り合いを希望していた。だから『紅の破壊者』などと呼ばれているのだ。


(これがミュウの望んだ形。違う、グレイもだ)


 二人は再び構えを取ろうとしている。今起こったみたいな衝突をくり返すために。相手を動けなくして勝利者を決めるために。


(あ……れ? なにが正しいの? 間違ってない気がしてきたわ)

 頭が混乱する。

(ここはアームドスキンの開発競争の最前線で、色んな試みを実験している場所で、そのために実機同士で戦わせてる。ただ運営組織や施設を維持する目的でギャンブル要素も組み込まれていて選手は賞金を得られるよう制度化されてる。それだけじゃ、ないの?)


 全く違うものを見せられている。それなのにアームドスキンの正しい姿を見ているような気さえするのだ。その感覚の正体がわからない。


「すごい……」

「う、うん。すごい」


(あ、これが答えだった)


 エナミの一言で、ビビアンは単純に、ただ熱く楽しめばいいのだと気づいた。


   ◇      ◇      ◇


 同時に飛び出す。走った金線を躱しきれない。ミュッセルは軌道にガントレットを叩きつける。計ったように飛んできた半透明の力場がブレードスキンで盛大に紫色の火花を撒き散らす。

 力任せに弾き飛ばすも、今度はレギ・クロウの左の拳が迫っている。ヴァリアントの機体をねじって躱そうとするが胸をかすめて強めの衝撃。しかし、ミュッセルの放った右の拳もレギ・クロウの頭を跳ねさせている。


「ぐっ!」

「くはっ!」

 互いによろけて分かれるも軸足を踏んで立て直す。


 力の矯められたブレードグリップの動き出しの柄頭に左の掌底を叩き込んで止める。飛ばした右肘がレギ・クロウの鳩尾をえぐるように衝突する。

 ところがカウンターで放たれたグレオヌスの左がヴァリアントの顔面を捉えている。上半身ごと弾けて仰け反った。


「かふっ!」

「うぐぅ……」


 衝撃がコクピットまで届いてくる。シートを懸架している緩衝アームのサスペンションだけでは殺しきれない慣性力()がパイロットを襲う。内蔵を揺らし、血流を偏らせ、肉体をさいなむ。


(これだ。こいつがほんとの戦いってやつだぜ)

 苦しみながらも心は歓喜に包まれている。

(とはいえ、いつまでも続けてらんねえ。身体のほうがまいっちまう。動けなくなる前に決着つけねえと。いや、俺が動けなくなるより先にグレイを動けなくしねえと負けだ)


 突きを鼻先10cmで避ける。懐に入って肘をハッチの上あたりに突き立てる。凄まじい衝突音がして揺れるレギ・クロウの機体、そしてヴァリアントも浮くほどの衝撃を受ける。左の拳が鳩尾に突き刺さっていた。


「ぐふぅ……」

「おげぇ……」


 逆流してくる胃液を無理やり飲み込む。胸が焼ける痛みを無視して拳を握る。フィットバーのグリップがミュッセルの握力を感知してヴァリアントの手を強く握らせた。

 目の前の灰色の機体に叩きつけることしか考えられない。一撃必殺のつもりでいるが、徐々にパワーは落ちてきているだろう。彼自身に蓄積されるダメージとともにヴァリアントの機体ダメージも蓄積されてきている。


(我慢比べじゃ負ける。絶対に完成度じゃレギ・クロウには勝てねえ。先にぶっ壊れるのはヴァリアントのほう。そいつは困るってもんだ)


 後ろのプレートを蹴って芯を通す。反動も加えて放った左のパンチがレギ・クロウの脇を捉える。横滑りするほどの衝撃を受けているのにグレオヌスは引かない。


「うおーっ!」

「くそがぁ!」


 レギ・クロウの左拳が頭部を打つ。先ほどからダメージ表示が徐々に深刻度を増してきている。残された時間はあまりない。

 カウンターの拳が空振りしてしまった。意識の金線にギリギリ反応した身体が逆袈裟に跳ねてきた剣閃から機体を逃している。しかし、切っ先は数cmながら装甲をかすめていた。


(無理だ。もう勝負を懸けるしかねえ)

 決断する。


 右肩から飛び込むように密着する。ブレードを振る距離もないので柄頭で殴られた。頭部のダメージがとうとうレッドゾーンに入ってモニタにノイズが走る。

 左のガントレットを放り出してブレードグリップを握る手首を取った。無理矢理押し退けて機体を開かせる。そこに掌底を押し当てた。


「なにを!?」

「リクモン流奥義『烈波(れっぱ)』」


 ミュッセルはその最後の(・・・)一撃をレギ・クロウのボディに叩きつけた。

次回エピソード最終回『決着へ(3)』 「なんだ。動けんのかよ」

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