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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(後編)
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ドームへの長き道のり(1)

「生体ビームのレンズを潰します。もう少し付き合ってくださる、狼頭?」

 メリルは要請する。

「ええ、しばらくなら」

「そう手間は掛けさせないわ」


 当初よりの作戦である。居住ブロックに入ってからは最低でも生体ビームは使わせない。そのためには発生器であるレンズ器官を破壊する。再生するだろうが随時破壊しつつ誘導していく手順。


(彼が空間エネルギー変換(コンバータ)システムを使えるのなら話は簡単)


 後退するチーム『フローデア・メクス』と入れ替わりに『ギャザリングフォース』がカタストロフの意識を惹きつけるように姿を現す。その手にはランチャーが握られている。


「ギャザリングフォースはフル装備だぁー! 彼らは本来選手ではなく軍務科スクール生! 当然といえば当然ですが使い慣れているー!」

 フレディが理由を説明してくれようとしている。

「ただし、見慣れない装備です! これはもしかしてぇー!?」


 五機が一斉射する。ランチャーの砲口からは霧のような液体が噴射された。それを浴びたヴァラージは顔面を押さえて後ずさる。


「やはり、アンチVランチャーです! それも物理弾頭タイプではなく新方式の噴射タイプぅー! これはカタストロフも堪らないー!」


 指摘されたように、ギャザリングフォースメンバーが握るランチャーは自在ホースが腰に伸びているという奇妙な方式。腰の裏にはタンクがラッチされてそこに接続されていた。


「総員、ノズルをストレートに。レンズを狙え」

「了解!」


 視界を奪われ、苦し紛れに生体ビームで相手を遠ざけようとするヴァラージ。乱射された白光はレギ・ソウルのサークルディスクに吸い込まれる。逆にレンズの位置が明確になるという悪手であった。


(Cシステムがあるとこれができる。ずいぶんと楽だわ)


 彼女のチームメンバーは一斉に飛び出し、光の発生源であるレンズを狙う。今度の攻撃はアンチVをストレートノズルで射出する。当然、濃度と効果は高い。

 直撃したアンチVは周辺の組織ごと壊死させ、溶け落ちさせる。最も周囲に被害を及ぼすカタストロフの攻撃を封じられた。


「ご苦労さま、グレイ。下がって補給を」

「いえ、なにほどでも」


 言うほど楽ではあるまい。初めて起動させた惑星規模破壊兵器(リューグ)システムは彼の精神を著しく消耗させているだろう。今後のためにも十分な休憩が必須である。


「さあ、あなたたち。未来の星間銀河圏の守護者の力を皆に見せつけなさい」

「仰せのままに!」


 索敵ドローンで見ていても再生のほうが上回ってきている。前提として、アンチV薬による壊死効果が薄くなり、範囲が狭まっていっている所為もあろう。


(不意を打ったからレンズを潰せたけど、だんだんと効かなくなってくると思う)

 カタストロフは発生段階からアンチVを使用したという情報があり、耐性が上がりやすくなっているとの話。

(このままではクロスファイトドームに叩き込んだとしても誰が討てる? ビームの集中砲火で焼き尽くすしかなくなった個体なんて手に負えない。やっぱり、あの二人しか……)


 考えても仕方ないので悪い予想は振り払う。可能ならアンチVが効いているうちに撃滅したい。チームメンバーは元よりそのつもりの鼻息だったが、果たせるかなというところ。


「管理局より情報です! この特殊なアンチVランチャーは試験的に製作したもので数はあまり揃えてないそうです。最初から使えという、わたくしも思いついたツッコミは不発です!」

 フレディも苦笑交じりの声音。

「そもそも、至近距離でしか用いられない仕様となっております。物理弾頭よりかなり弾速も落ちており、それこそ遮蔽物なしには使用者を守れないような代物です。そこに志願した彼らギャザリングフォースの勇気こそを称えましょう!」


 復活したカタストロフの黄玉の眼球がメンバーを睨みすえる。再生の間に合わない生体ビームを捨ててブラストハウルを連射してきた。建造物を大きくえぐり取るほどの威力の衝撃波を躱してアームドスキン『ヘヴィーファング』は散っていく。


「街中じゃ自動回避もそんなに当てにならないわ。基本的にヒット&アウェイ」

 厳しい指示を下すしかない。

「ブラストハウルのインターバルを利用してレンズ器官の再生を阻止。別の場所に発生する可能性を考慮しつつ広範に展開してしっかり観察、直ちに報告。よろし?」

「了解!」


 砲撃手(ガンナー)のユーゲルが狙撃を試みるも、ストレートノズルの一射は空気抵抗で大きく勢いを削がれる。それだけに留まらず、大きな粒の水滴に分散してしまい効果はダウン。散弾的な使い方はできても牽制くらいにしかならない。


「これほど使いにくいなんて。試験的な製作しかしなかったのも頷ける」

 弱音を吐いている。

「詰めるしかないぞ、ユーゲル。貴様とて通常カリキュラムをこなし、平均以上の成績を収めている。ブレードが使えんとは言わさん」

「わかりましたよ。ウィーゲンこそ、ノーマルスタイルで挑むとか、飛び込めるんでしょうね?」

「やってみせる」


 ガヒートやバーネラ、マルナが右手にブレードグリップのストロングスタイルで出ているのに対し、ウィーゲンは左手がブレードのノーマルスタイルだった。彼は今回もショートレンジシューターをするつもりなのである。


(危険な任務。それもとびきりの。頑張って)


 祈りは内心に押し込め、メリルは冷徹に指を運んだ。

次回『ドームへの長き道のり(2)』 「ここでお報せいたします!」

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