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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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決着へ(1)

 ブレードグリップは後ろに下がっていく。右腕は肘を上に立て上半身を傾がせて背中あたりまで引かれた。そこで展開した力場の刃は頭の横を通って顔の前に切っ先を置いている。

 逆に突き出された左の拳がヴァリアントを照準する。剣を両手で待たず、双剣でもなく、左拳はそのまま打撃に用いる姿勢。


(やっぱりな)

 ミュッセルにニヤニヤが止まらない。


「君の読みどおり、僕は普通の剣士じゃない。打撃融合型なんだ」

「今更だぜ。さっきから左手を捌きに使いまくりじゃん」

「だよな。バレても仕方ない。なぜか知らないけど昔からこのスタイルが合っててね。父上に嫌な顔をされたものだよ」


 父ブレアリウスは正統派の剣士だ。グレオヌスの亜流に近いものを良しとしない。だが、矯正もされなかった。


「間抜け。そいつはお前のスタイルにピッタリ合ってて対処が難しくなるからだろうが」

「そうかもな。薄々は感じてたんだけどさ」


(実際に難しくなってんだよ)

 ミュッセルはニヤリと笑う。


 自然な立ち姿のときも威圧感はあったが、今の構えに変わってからのものは数倍に上がっている。しかも、低い姿勢なので目標は小さい。攻め手は狭まってしまう。


「ここに来てグレイ選手が本領発揮かぁー!? さらに混迷の様相を見せはじめる金華杯ソロ決勝ぉー! どんな決着が待っているぅー?」


 両の拳を握って腰の高さに。脚を大きく開いて視線の高さを合わせる。ちりちりと突き刺さるような気当たりが来る。それだけではない。ブレードの切っ先から真っ直ぐに攻撃の金線が走っている。それなのにいつまで待っても突いてこない。


(わかっちゃいたんだがよ、こいつは生粋の戦士だ。自分の闘気、マシュリの言ってた戦気ってやつか、完璧にコントロールしてやがる)

 タイミングが読めず、迂闊に動けなくなった。


「どうしたぁー! ここで睨み合いかぁー?」

 リングアナは煽り立てるが後の先の流れ。


 互いの足が土を喰む音だけが小さく鳴る。わずかずつ間合いを詰めているのである。決壊の瞬間に向けて。


(もうちょい。だが、こいつは……)

 おそらくグレオヌスの間合いのほうが長い。


 構えがどうあろうが打撃も使おうがメイン武器が剣であることに変わりない。急に間合いが短くなるわけがない。足を止めれば不利になるばかりだとわかっているのに動けない。


「とことん厄介なやつだ」

「僕は楽しくて仕方ないな」

「同じくに決まってんじゃねえか」


 金線の軌道上を突撃が走ってくる。ところが達する前に別の攻撃線まで出現した。ブレードスキンで滑らせた一撃のあとに、即座に引かれた二撃目が軌道を貫いてきた。どうにか反応していた身体が紙一重で避ける。


(信じてなかったら終わってた。やっぱり戦気眼(こいつ)抜きでグレイとやり合うのは無理じゃん)

 間合いの差を埋めてくれるものは、もうそれだけになってしまった。


 残り少なくなってきたビームコートを犠牲にしてでも詰めた間合い。使わない手はない。だが、レギ・クロウの姿勢も低いだけ急所が捉えにくい。かち上げた肘は顎へと迫っている。


「はっ!」


 気合一閃、首だけで躱された。がら空きになった脇腹に左の拳が突き刺さろうとしている。


「るぅあっ!」


 吠えて右肘を引く。どうにか拳を撃墜。左手は、刈りにきている横薙ぎを避けるために大地に掌底で叩きつける。浮かせた機体の下をブレードの描く円弧が通り過ぎていった。

 ペダルを床まで蹴る。全身のパルスジェットが咳き込んで上へ。背後のプレートに背中を着けると両手で端を握って機体ごと逆立ち姿勢に持ちあげる。


「器用だな」

「今のお前から逃げるためならなんでもすっぜ?」


 逆さになったまま会話する。レギ・クロウの照準が上に向いただけで構えは変わっていない。なに一つ油断していい状況ではない。


(受けにまわったらどこかで崩される。攻め続けるしかねえとは情けねえ)


 数合の攻防で察した。戦気を読んでいるだけでは間に合わない鋭さの攻撃が来る。待つのではなく出させるくらいの攻撃でないと避け続けられない。


「んじゃ、続けっか」

「ああ、楽しい拳の会話をね」


 膝を折りたたんでプレートとの間に挟む。鋼材表面を蹴ってほぼ真下に跳ぶ。待ち受けているのは必殺の突きである。唇を噛んで腕をクロスさせながら擦りあげた。

 そのままでは顔面から地面に突っ込む。空中で足を曲げてレギ・クロウの肩に引っ掛けた。手を突いてひねりながら引き倒す。グレオヌスはもがくのではなく別の選択をした。


「お前は!」

「君だけの技じゃないだろう?」


 自ら跳んで、最前に彼がいたプレートに足を着けている。そこで止まらず蹴りつけた。左手を右手に添えた強化斬撃が落ちてくる。


「ぬおぁっ!」


 両腕を立てるのが精一杯だった。ブレードスキンを叩いた一撃はそれだけに留まらずヴァリアントをも浮かす。大きく弾かれた機体がもんどり打って倒れた。耐えるのは悪手と覚ってそのまま転がって距離を取る。


「痛って。内蔵吐くかと思ったぞ?」

「僕もだよ」


 ミュッセルがカウンターで放った前蹴りがレギ・クロウのボディに決まっていた。

次回『決着へ(2)』 「う、うん。すごい」

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― 新着の感想 ―
[一言] ふたりとも、楽しそう……! これは、私もずっと見ていたい戦いです。 それにしてもブレアリウスさん、子どもの特性を受け入れてくれる良いお父さん! (嫌な顔はしてるけど)笑
[一言] 更新有難う御座います。 そう言えば大会のグレード的にはどんな感じですか?
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