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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
モンスターブレイカーズ(前編)
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スター、輝け(3)

 フェチネのレトレウスが力場盾(リフレクタ)でヴァラージのフォースクローを受けとめる。強烈なパワーとウェイト差に姿勢を崩して転倒しそうになる彼女をレングレンは後ろから支えた。


「ごめん、レン」

「踏ん張れ、フェチネ」


 声に精彩はない。かなり疲労が蓄積してきているのは明白だ。


「反応速度、トップバック全体的に低下が認められます」

「ええ、遅れが出てきてるかしら」


 メリルが言うのはナビに対する動作である。指示に応じて実機の挙動が遅れるのは戦況パネルで実感してるはずだ。


「レン、交代タイミングを作ります。次のチームが距離を詰めるまでもって?」

 ダイレクトに訊かれる。

「もたせるよ。なんだったら居住ブロック突入ポイントまでね」

「強がりはおよしなさい。限界が近いはず」

「悲しいかな、それも本当かもね」


 機体の負荷も見過ごせないレベルになってきている。常に動きつづけ、全身を使った緊急回避が一分に数回も起こる状況が持続するなど想定を超える運用をしている。


(イオンスリーブ仕様に設計を見直されたレトレウスだからここまでやれた。前のフィックノスだったら途中でアラートが出たかもね)


 それ以上にパイロットに掛かる負荷が深刻である。類を見ない激しさで誰もがスタミナを削られていた。


「振りまわすとはよく言ったもんだよ」

「悪しからず。誰も死なせたくないわ」

「もっともだ」

 冷静沈着なコマンダーの顔の影にメリルの情が垣間見える。

「十分よ。あなたたちは距離にして約3000m。時間にして二十分も稼いでくれたんだもの」

「次は誰だい?」

「デオ・ガイステ。ハードになりそうよ」


 戦況は居住ブロックが近づいてくるほどにより厳しくなってくる。彼らのように距離を取っての戦闘は難しくなるだろう。


「俺も混ざんぞ。街区に入る前にもうちっと削っとかねえとな」

 ミュッセルが挟む。

「お疲れさんだ、レン。いい感じに休ませてもらって助かったぜ」

「報酬としては悪くない言葉だよ」

「あとは任せろ」


 最後の力を振り絞って戦闘は続く。メンバーの動きにも少し機敏さが戻ってきた。


「さあ、もう一息頑張ろう。素晴らしいデータが得られたはずだ。私から社にボーナスを申請しておく」

 発破を掛ける。

「ついでに休日もよろ。思いっきり羽目を外したい気分」

「もちろんさ。君たちはよくやった」

「武勇伝には持って来いでしょう。引退してから自慢します」

 シュバルが人生設計を披露する。


 そのシュバルに怪物が狙いを定めた。即座に気づいたレングレンは生体ビームの照準を奪うべく動く。視界に入って斬撃を走らせた。

 ビームを回避したところまではいい。しかし、ヴァラージはいつになく連撃を重ねて押してくる。それも決まった方向に。


(まさか、勘づいたか?)

 内心焦る。

(方向が違うからここは退けない。だったら押し切れると思ったか。こんな巨体でよくもまあ頭がまわるもんだね)


 強引な攻撃にブレードとフォースウィップで叩き合いになる。集中力を根こそぎ奪っていく猛攻に、死が頭をよぎっていった。


(死んで英雄になりたいタイプじゃないのにさ!)

 それでも耐えるしかない。


 力場の金線を打ち払ったときにはヴァラージが正面にいる。口を開いていて、ブラストハウルの警告が出ているが自動回避が間に合っていない。喰らってバイタルロストなどしようものなら命はない。


「レーン!」

 フェチネの悲痛な声。

「く……」

「お疲れだっつってんじゃん」

「ガシュ!」


 怪物の開いた口を真紅の裏拳が薙ぎ払う。赤いアームドスキンがターンしながら後ろ蹴りを放って突き放すと、別の機体が無数の斬線をその駆体に刻んでいく。


「空色のアームドスキン! これはチーム『デオ・ガイステ』のカラーだぁー!」

 フレディはここぞと吠える。

「しかし! しかし! 現れたのはなんとホライズンです! パイロットは『瞬殺のビューティクイーン』、ステファニー・ルニエ選手ー!」


(そうか。あの噂は本当だったのか)


 レングレンは納得してメンバーに撤収を告げた。


   ◇      ◇      ◇


 ステファニーはホライズンのコクピットで震えていた。それほどの素晴らしい機体だった。背筋がゾクゾクするほど反応がいい。


(慣熟訓練もしていたというのに、実戦ともなると怖ろしいほど実感させられる)


 ガイステニア社がヘーゲルとの提携を持ち掛けたのは炎星杯敗退直後だった。イオンスリーブを搭載したアームドスキン『ヨゼルカ』は他社に比べて見劣りする。新規に設計するにも企業規模で競争するのは困難だという判断。

 そこで持ち上がったのがマッスルスリングの技術。ヘーゲルに共同開発を持ち掛けると同時に、アームドスキンの総体的な設計技術の提供まで譲歩した。技術ベースの足りないヘーゲルはミュッセルの許可を得て提携が実現したのである。


(フルスペックホライズン。これは画期的なアームドスキン)

 主要駆動器が全てマッスルスリングになっているヘーゲルの製品である。

(これに乗ってたら女王杯の後期は取り返せたかもしれない)


 今さら言っても詮ないが、ライバル社にデータ取り用のテスト機とはいえフルスペックホライズンを提供するヘーゲルもヘーゲルである。メーカーとして底知れなさを覚える。


 そして、ステファニーの隣にはそれ以上のスペックの真紅のアームドスキンが立っていた。

次回『スター、輝け(4)』 「しびれるくれえ面白い敵だろ?」

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