怪物とクロスファイト(3)
「距離が詰まってまいりました。チーム『ツインブレイカーズ』とヴァラージとの戦闘が開始されます。それでは、ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
まだ星間保安機構のアームドスキンによる包囲戦が行われている。ミュッセルは警告を発することなくヴァン・ブレイズを接近させ、いきなり攻撃した。
「リクモン流奥義『蓮華槍』」
急ブレーキで足場を固め、上にかかげた両腕を開いていく。勢いよく打ち合わせると中距離での奥義を放った。
「いきなりミュウ選手の必殺技が炸裂ー! これは強烈ー!」
突如、上半身に衝撃波を受けたヴァラージが跳ね転げる。数度、まくれ転げて倒れたところへアンチV弾頭が集中した。
「これで退治できる気さえするな」
「そんな甘い相手なら苦労しねえんだけどよぉ」
土煙と薬剤の霧、甲殻が溶解時に発する水蒸気を割って「キシャアー!」と鳴きつつ怪物は立ちあがる。まぶたが再生しつつある目が不気味な光を放っていた。
「許してくれないか」
「怒らせただけかもしんねえな。まあ、注意を引けたから良しとすっか」
黄色の鞘をまとった青い螺旋光が空間をのたうつ。すると土煙もなにもかも吹き払われてヴァラージの全身像が露わになった。
「なんだ、あれ?」
「スラストスパイラルだな。特有の推進器官。時空界面干渉力場らしいけど詳しくは判明してない」
グレオヌスが解説してくれる。
「前のはなかったぞ?」
「シュトロンの装甲被ってたからさ。発生器が生成されなかったみたいだ」
「こいつは完全体ってわけかよ」
のたくる螺旋力場が今度は集中するアンチV弾頭まで薙ぎ払う。それだけで分解されて、肝心の薬液は本体まで到達していない。
「こういう絡繰りか」
ダメージがあまりに小さいはずである。
「ミュウ、研究所の調査が進んで判明した事実があります」
「悪い事実っぽいな、マシュリ」
「はい。拘束し生命活動を抑止しつつも、栄養は十分に与えていた模様です。おそらく、身体器官を取り外して研究するためかと思われます」
完璧に実験動物扱いされていた。
「つまり?」
「かなりの再生能力を持っているとお思いください」
「いかれた研究者を俺の代わりに一発殴っといてくれ」
「現在は尋問中です。あとでご自分でどうぞ」
言われるまでもなく、みるみる回復していく甲殻。アンチVの耐性が高まっていきつつある実情、一気に焼き払うしか退治方法がなさそうである。
「勘弁しろよ」
「現実は直視しないとさ」
とはいえ、前回のようにぶっつけ本番ではない。こちら側もそれなりに準備ができている。警察機が包囲を広げる中、彼らは接近していく。
「いよぅ」
ゆったりと歩み寄りつつ声を掛ける。
「そんな気ぃしてたが再会できて嬉しいぜ」
「シャシャッ?」
「今度こそきっちり勝負つけようじゃねえか。別の奴かもしんねえが、前のはてめぇの劣化コピーみてえなもんだったんだろ?」
30m近い巨体なのに鳴き声や動きに知性の色が見られる。話し掛けるのも無駄だとは思えない。相手を飲んで掛かるのも勝負の綾を引くきっかけになる。
「んじゃ、おっぱじめっか?」
「ジャッ!」
いきなり白光が走ってくる。ヴァン・ブレイズの拳にナックルガードを下ろすと、力場スキンをまとわせて迎撃した。拳打は生体ビームを光の欠片に分解しながら突き抜ける。
「どうだ。ご自慢の武器も俺たちに当てるのは骨が折れんぜ?」
「シュー……」
「嫌になるくらい知性を感じさせてくれる。困ったもんだな」
ヴァラージがヴァン・ブレイズとレギ・ソウルを観察している。ブレードナックルやブレードスキンの意味をすぐに理解してしまうだろう。
「まずはてめぇの手の内さらけ出せ。そっから駆け引き始まんぜ!」
「シッ!」
同時に加速して中間位置で激突の気配。直前になって黄色い光の鞭が空中を舞う。力場鞭である。
「こんにゃろ! まずは一発殴り合ってからだろうが!」
「君の流儀は通用しないさ」
湾曲する力場器官は鋭い切削能力を秘めている。これを絡め取ろうとすれば腕ごと持っていかれる。ミュッセルはリフレクタで弾いて逸らした。
そのまま間合いを詰めて左の拳を飛ばす。脇腹にヒットさせると、軸足に芯を作って打撃力を高めた。烈波ほどの威力はないが、遅延式のリクモン流打撃である。
「フシャッ!」
時間差で襲う攻撃に駆体を浮かせつつ苦鳴らしき鳴き声を出す。
「こっちも面白えもん味わわせてやっからよ」
「シャアァー!」
「な?」
オーバーハンドフックが天に円弧を描いて頭に届く。首が跳ね、仰け反ったヴァラージは逃れようと身体を浮かせた。
「おっと、逃さねえ」
即座に足首を掴んで引き落とす。背中から落ちたところへ飛び掛かった。
「空把下門撃グラビノッツゼロ!」
突き刺さった拳が甲殻の破片を散らす。痛みを表すように痙攣するヴァラージ。そこへ駆け寄ったレギ・ソウルが逆手に持ったブレードを突き落とす。とてつもない反射神経で跳ねた駆体の脇腹が数十cm削れていた。
「外すなよ」
「君の一撃が浅かったんじゃないかい?」
耳を寝かせる相棒にミュッセルは失笑した。
次回『怪物とクロスファイト(4)』 「ちょっとね。あんまりいい印象がなくって」