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四天王フローデア・メクス(1)

 メルケーシンの一日は26時間。一年は三十日の十ヶ月。年度替わりは秋の九月となる。

 クロスファイトもシーズン最終の八月半ば、週末レーネの日。炎星杯はその決勝を迎えた。年度末休暇を目前に控え、メジャー最終戦ともなるとアリーナは大賑わいである。


(サウス)サイドからの入場は、とうとうここまでやってきました、チーム『ツインブレイカーズ』! 最強と誉れ高い四天王チームを敵にまわし、勝利をもぎ取れるのかぁー!」

 リングアナのフレディ・カラビニオも絶好調である。


 ゲートのカウントダウンを合図に足を踏みだしたヴァン・ブレイズがリングの照明の下に姿を現す。目を射るような真紅が観客を虜にした。


「あいかわらず落ち着き払って。腹立つ」

 ビビアンは入場の様子に文句を言った。

「決勝だからって入れ込むタイプじゃないもの。基本は熱めのマイペース」

「エナの言うとおりだとしてもねぇ」

「四天王の四枚目ともなれば浮足立ったところくらい見せろって話」

 エナミの言にサリエリもレイミンも苦笑する。

「ホントはテンション高いかもしれないのにー」

「ないない」

「平常心」

 ユーリィの読みはウルジー含め皆に否定された。


 正念場ともなるとフラワーダンスメンバーも応援に駆けつける。私服とはいえ目立つ女子メンバーは一時アリーナを賑わわせてしまったが、ファンたちもマナーを守ってすぐに控えてくれた。


「まずはこの人、『天使の仮面を持つ悪魔』『紅の破壊者』『震撼の剛拳』、ミュッセル・ブーゲンベルク選手ー!」

「たまには目の前で抜かしてみやがれ!」

「自ら死刑台に登る趣味はございません!」

 お馴染みの掛け合いが始まる。

「乗機は『血塗られたスレッジハンマー』『唸る灼炎』、ヴァン・ブレイズ!」

「お前の血で染めてみっか?」

「『吸血の拳』も付け加えましょう!」

「余計なことすんじゃねえ!」


 揚げ足を取られている。掛け合いをするから二つ名が増えていくのだが一向に改めない。本人はこれもファンサービスだと思っているので無駄だろう。ビビアンも人のことは言えない傾向がある。


「並ぶはもう一人!」


 タイミングを合わせてゲートをくぐった灰色のアームドスキンが照明に鈍く光る。威風堂々としたボディデザインがアリーナの男たちの子供心をくすぐる。


「『狼頭の貴公子』『ブレードの牙持つウルフガイ』『無双の神剣』、グレオヌス・アーフ選手ー!」

 力場刃(ブレード)を展開するとひと振り。

「乗機は『剣と拳(ブレードフィスト)』『闘魂の化身』、レギ・ソウル!」

「それで十分です」

「ご遠慮なさらず、主に女性の心まで奪う『覇剣』とでも呼びましょうかぁー!」

「よりによってそこですか!」


 泣きが入っている。狼頭にそのつもりがなくとも、彼女の周りの若い女子たちはグレオヌスの映った投影パネルに黄色い声援を送っているのは事実。マスコットじみた甘い風貌に鋭い眼光がウケる要因だろう。


「リングに双子の嵐が吹き荒れるぅー!」


 センターのオープンスペースまで歩いた二機はそこで待機する。いよいよ昨シーズンの炎星杯チャンピオンチームが入場してくる番だ。


(ノース)サイドからはカップ保持者、チーム『フローデア・メクス』! 暴風をものともせず弾き返すか、冷徹なる覇者ー!」

 北側のゲートからは両脇に離れて二機のアームドスキンが入場してくる。

「先んじるは両翼の銃士! 『エアハンター』、サラ・シクレン選手ー! 『レッグハンター』ベス・オブリガータ選手ー!」


 両機ともビームランチャー装備である。二人の女子選手はどちらも砲撃手(ガンナー)であった。


「ここの登場スタイルは独特なのよね」

 ビビアンは述懐する。

「この前は全然余裕なかったから眺められなかったもんね」

「私も。サリにテンポ合わせるのでいっぱいいっぱいだった」

「同じトップスター方式なのにテンパリングスターとは違うから」


 声援にランチャーをかかげて応えつつも黙々と歩む。なのでコールも流れるように進んでいく。


「次なる両翼の剣士! 『ソードダンサー』、ボズマ・グテナー選手ー! そして『ナイトブレード』エイクリン・ヌージット選手ー!」


 今度は少し近づいてブレードグリップを握る剣士(フェンサー)が入場する。正面にブレードを立てて、まるで警護の騎士(ナイト)を気取るかのような登場スタイルだった。


「最後を飾るはこのお方、『女帝』ユーシカ・アイナル選手ー!」


 グレオヌスに負けず劣らずの女性ファンが声援を送る。彼女は私設のファンクラブが多数存在するくらいの人気女子選手である。噂では男子禁制のファンクラブもあるとか。


「これぞ帝王の風格! 王者の気品を備えた入場です!」

 中央を淡々と歩いてきた。

「乗機は『レイ・ソラニア』! ドルステン社の誇る近接系高機動アームドスキン! リングを駆けめぐり、華麗に撃破する黄緑のボディが目に鮮やかだぁー!」


 逆三角形のフォーメーションでそのままセンタースペースまで到達。ツインブレイカーズの二機と対峙する。


「こうしてみると対照的よね」

 居並ぶ揃った編隊と機種さえ異なるわずか二機。

「でも、どっちもパイロットスキルメインのストレングスチームなのにゃ」

「激突必至」

「うちみたいなタクティカルチームとは対極のスタイルとは思えない揃い具合なのが不気味だわ」


 ビビアンは今後の対戦も踏まえて注視した。

次回『四天王フローデア・メクス(2)』 「俺たちは身体も心も作り方を学んできた武術家なんだよ。チューニングは完璧だぜ」

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