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四天王テンパリングスター(7)

 リングにそびえ立つ100mの尖塔、スティープル。日々変わる種類と配置。伴って変化する離隔。縫って移動するには試合開始後のマッピングは重要。それもツインブレイカーズの二人に不利に働く。


(たった二機、それもドローン不使用であれば集積するデータ量はどうしても少なくなるのに)

 それも決定的な差だとレングレンは思っている。


 彼らがリスクを上まわる空間認識力を持っているのも事実だ。瞬時に判断してアドリブで回避や利用もしている。しかし、素早いマッピングとコマンダーのナビゲーションを受けられるメリットは極めて大きい。


(フラワーダンスをそれを利用してパイロットスキルの差を克服したんだ。五分に持ち込み、さらには凌駕して勝利した。彼女らにできたことなら我らにもできる)


 オープンスペースならオープンなりの特質を、障害物(スティープル)の中なら狭所の特質を。全てを網羅すれば負けることはない。状況別のそれぞれの役割をメンバーに周知徹底した。


「組織力と統率力、君らに欠けているものをとことん利用する。それが勝利への道筋だ」

 精神的にもプレッシャーを掛ける。

「もちろん攻撃密度でミュウ君の一撃必殺も封じたうえでの話だがね」

「それだけ揃えりゃ勝てるってか?」

「もちろんそれだけじゃない」


 足りないのはわかっている。列挙したものくらい、四天王を冠さないワークスのトップチームなら備えているもの。さらにプラスしなくてはならない。


「恐怖の克服だね」

「ほーう?」


 ヴァン・ブレイズにはフェチネが主導ではあるがシュバルも食い下がっている。至近距離にショートレンジシューターがいればそうそう必殺技を放つ時間的余裕は与えない。

 それはレギ・ソウルも同様で、大振りできない詰め方をすることで斬撃を限定できる。スティープルとの距離、各機の位置取りをコントロールすれば攻撃は予測しやすい。彼のパンチやキックは崩しのテクニックと割りきるのも可能。


「ガンナーにとっては怖ろしい距離感なのは否めない」

 分析するまでもない。

「当たり前じゃん」

「それ以上に克服しなければならないのがトリガーを押したくなる衝動だ」

「ガンナー唯一の武器だかんな」


 距離があれば状況に応じたマネジメントができる。隠れたまま一射に懸けるなり、ブラインドを使って隙間を狙うなり、連射して突き放すなり、色々と選択肢がある。ただし、接近戦にはそれがない。


「至近距離ではどうしても連射したくなる。うちの皆も口を揃えて言った」

 最初に確認した。

「接近戦で一番我慢しなくてはならないのはトリガーを押し込みたくなる衝動。それをどうにかしないと致命的な距離でヒートゲージをリミットまで使ってしまう。終わりさ。ビームインターバルで確実に落とされる」

「言うまでもねえな」

「ところがフラワーダンスメンバーはほぼ完璧といえるゲージマネジメントができていた。常に数射分、最低でも一射分は残せるようトリガーや間合いのマネジメントをしていたんだ。それを真似できれば同じ条件で戦えるだろう?」

 大変な訓練の末の技能だろうと思われる。

「へっ」

「合同訓練の結果なんだろうな。子どもの遊びだなんて言わないさ」

「んで、ゲージマネジメントができるようになったから俺達に勝てるって?」


 ミュッセルは決して足を止めずにビームもブレードも回避しつづけている。まるで無駄と言わんばかりだが、虚勢の一つだと思えた。事実、反撃の糸口を掴んでいるふうではない。


「違うかな?」

 プレッシャーを強めるように重ねる。

「理屈は間違ってねえ」

「だろう?」

「が、全部じゃねえ。まだ足りねえな」

 一瞬固まりそうな身体を鼓舞して攻撃を続ける。

「お前たちの言うゲージマネジメントとやらも叩き込んだぜ。ショートレンジシューターには必須のテクだからよ」

「それだけじゃないとでも?」

「おう。もっと大事なもんが身に付くまで、優しーく小突きまわしてやったぜ」


 単なる軽口ではなさそうだ。声音に自信がうかがい見られる。


「いったいなにを……」

「知りてえか。教えてやんぜ。なあ、グレイ?」

「これだけ引き付けられればそろそろ頃合いかな」


 二人ともが気づいている口振りだ。レングレンは否が応にも緊張せざるを得ない。彼らはなにをしようとしているのか。


「間合いを外したくとも外せなくなってるんじゃありませんか? 距離を取ればまた元に戻ってしまう。お互い危険な間合いだからこそ僕たちを抑え込めてるんだと」

 グレオヌスに内心を突かれる。

「そんなとき、こんなふうにすると……」

「なっ!」

「簡単です」


 レギ・ソウル相手に詰めていたワイズ機が見事に転倒する。あっという間に彼の視界から消えていった。残ったザドのフィックノスが間を埋めるが一転して厳しくなる。


「あーっと、押していたと思われたテンパリングスター、ワイズ選手があえなく転倒ー! どうしたのでしょう!? 長引く戦闘に疲れの色を隠せないのかぁー! それともミュッセル選手が指摘したように、なにか重大な見落としがあったのかぁー! 試合のすう勢はころころと変わっていくぅー!」

 リングアナも吠える。


 レングレンはレギ・ソウルがなにをしたのかを直近で目にしていた。

次回『四天王テンパリングスター(8)』 「あの試合はそんな高度なものだったのか」

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更新有り難うございます。 次回、種明かしが?
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