四天王テンパリングスター(4)
再度逆鏃フォーメーションでテンパリングスターは攻撃を開始する。迎え撃つかと思われたツインブレイカーズは、今度は両腕の楕円形の光盾を前面に掲げて防御に入る。
(亀戦法だと? 弱小チームが打つような手を)
レングレンは目を疑う。
しかし、フェイントという感じでもなく誘いでもない。集中するビームが力場を叩き、紫色の干渉光が二機のアームドスキンを覆って隠していく。ただそれだけのはずなのに、どれだけ歩を進めようとも近づいてこない。
(なぜ距離が詰まらない? 下がっているのか? らしくもない)
疑惑が胸に宿る。
「まさか?」
あまりに距離が変わらなさすぎる。
「待て! 撃ち方やめ!」
「手応えないな」
「変ですね」
干渉光が徐々に薄れるとツインブレイカーズの様子がわかる。二人はなんと足を着けていなかった。反重力端子で重量をゼロにし、ビーム直撃の反動のままに押し下げられていっている。
「しまった!」
しかも、すぐ真後ろは障害物の林。
「逃げられた」
「マズいじゃないの!」
「ち、コマンダー、ドローン、光学ロック」
「間に合わない!」
二機はそのままするするとスティープルを縫って中へと消えていく。一瞬にして視界から外れてしまった。これまでに見られなかった少年たちの対応にメンバーは動揺する。
「なんで今日に限ってガチンコで来ないのよ!」
フェチネも泡を食う。
「お前らだって普通じゃねえことしてんじゃん。俺たちだけ真っ向から受け止めなきゃなんねえのか?」
「いや、そうだけども!」
「なぁに、逃げまわったりしねえぜ。ただし、背中に気ぃつけろ」
オープン回線で伝わってくる音声はどこからのものかわからない。急激に体温が下がって、嫌な汗が全身からにじみ出てくる。
(そうだ。彼らは逃げの一手はない。どこからか来る。まずは受け止めろ)
レングレンは警戒レベルを最大にする。
(次に現れたらコマンダーの目が付く。二度と逃したりしない。一度かぎりの幻惑作戦だ)
ただ、その一度かぎりが怖い。一つ二つ落とされてもおかしくない状況。そこまでいかずとも大破を取られると今後の展開が厳しくる。
「一度でいい。一度だけ堪えきってくれ。そうしたらまた優勢に持ち込める」
「そうだな、レン。黙ってても食いついてくる。そういう奴らだ」
ザドもそう言うが気が気ではないだろう。意表を突くのについては折り紙付きの連中である。張りつめた緊張の糸が今にも切れそうでならない。
「食いついてくる。一番弱そうなところにだ。それははっきりしている!」
「わかっていればこそ!」
弾けるようにスティープル群から飛びだしてきたヴァン・ブレイズが足を滑らせつつブレーキを掛けてピタリと止まる。そこは三段目に位置するシュバル機の後ろ。フォーメーションの要という意味で読みは間違っていない。
「間違わないからこそ読みやすい」
レングレンは即座に捉えている。
「言うじゃん」
「私のチームなら誰でもできることなんだ」
「思い知れ」
位置的に両サイドの剣士は間に合わない。しかし、前面に置いている砲撃手は別。ミュッセルの放つ拳打を倒れ込むようにしてシュバルは躱した。
そして、入れ替わりにゼドとワイズが至近距離から畳み掛ける。照準を散らしたビームであるがゆえに全てを避けきれず少年は腕の力場で弾く。さらに彼とフェチネが加勢できる状況で過負荷の状態にできた。
「君がいくら凄まじい体術の使い手でも限界を超える」
すでに間合いに補足するところ。
「背中ががら空きだぜ?」
「わかっている。シュバルを引かせている」
「いつでも迎え撃ちますよ。この状態でならヒートゲージを気にしなくていい」
入れ替わったシュバル機は瞬時に後方警戒態勢に入っている。グレオヌスならばそこを突くとわかっているからだ。ミュッセルの脅しは動揺を誘い戦力を分散させる話術攻撃だがそれも計算のうち。
(そして、狙い目がそこじゃないのも計算済み。この場面をしのげれば戦局は圧倒的優位になる)
砲撃手二機が一歩引いてフェチネと二人で赤いアームドスキンに攻撃を仕掛ける。それもフェイントでしかない。
コマンダーの合図で自分の後ろにレギ・ソウルが出現したと知った。意識を分散させていたお陰で即座にターンできる。斜め下から放たれた斬撃にブレードを叩きつけて潰した。
「これで!」
「仕方ない。一つでいいから落としたいところなんですが」
フェチネに仕掛けてくるようなら彼女の側のザドも援護に。レングレンに仕掛けてくるようなら彼とシュバルで押し返そうという作戦。
仕掛けは読みきった。あとは跳ね返すだけ。難儀ではあるものの不可能ではない。シュバルも反応してくれている。
「この私相手に豪語するならやってみせるがいい! テンパリングスターも進化していると教えてやるさ!」
「侮ってなどいませんよ」
グレオヌスの引き戻したブレードが宙でひるがえる。ぎりぎりで躱しつつ、斜め後ろのシュバルからの射線を空けようとした。ところがその剣先が異常に伸びて肩口を捉えようとしている。
「おおおっ!」
レングレンはフィードペダルを踏み抜かんばかりにつま先を叩きつけた。
次回『四天王テンパリングスター(5)』 「掴んでる。あとはいかに勝負に持ち込むかだ」