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四天王テンパリングスター(2)

「私はもっとスマートさを望んでいたのだが、悲しいかなここ最近のリングは競争心剥き出しの試合が当たり前になってしまっている。君の望んだものなんだろう」

「ここは競い合う場だ」

 レングレンがため息とともに吐きだした本心をミュッセルは認める。

「企業原理を持ち込むんじゃねえ。そいつは自分とこで仕上げてきて成果だけを出してきやがれ。企業としての大小なんて関係ねえんだよ」

「チーム運営にそんなつもりはなくとも企業力の大小はどうしても表れる。大手の開発力は無視できまい?」

「だからって資金力に飽かせて強者のカテゴリなんて作んなって言ってんだ。四天王? そいつが最たるもんだろ」


 レングレンも企業側も自然な成り行きだと考えているのだろう。人が社会を作りだすようにリングの中にもヒエラルキーは生まれる。それが固定化するのも自明の理だと。


「我々が制度化したんじゃない。エンタメとして生まれたものだ」

 それも嘘ではない。

「だろうよ。だがな、お前らは乗っかった。形として安定するのを良しとした。他の奴らの頭を押さえ込むのに都合が良かったんだろ?」

「そんなつもりは……」

「メジャートーナメントを大っぴらに企業力誇示のステージにしちまったんだ。力がなけりゃ下でもがいてろってな。そんなことしてりゃ、優秀でも運に恵まれてないと上はねえ。伸びしろを潰しちまってんだよ」

 現実はそうなのだ。

「見込みのある奴を見つけて大手が吸収(ヘッドハント)すんのに一役買ってんじゃねえか?」

「まさか」

「大企業が肥え太るためだけにクロスファイトを利用すんじゃねえ。そんな傲慢、たかがプライベーターと見くびってる俺が否定してやんぜ」


 本来は弱い立場の人間がビクトリーロードを突き進む。観衆の目には痛快に映るから耳目を引ける。一つのモデルケースとなるため。

 だから、開発にも携わらせてくれるなど条件がいいスカウトにもなびかなかった。新参のヘーゲルに手を貸すよう動いた。常に開けた場所であるよう立ち回った。全ては多様性を残すために他ならない。


「夢を残せよ。今のお前らは俺の目に大企業の走狗にしか映ってねえぜ?」

 わざと耳に突き刺さる意見をぶつける。

「大人の世界を知らない子供の遠吠えに付き合う義理はないよ、レン。所詮は社会のルールに縛られたくない言い訳でしかないっての。この年頃には少なくないタイプ」

「否めないが……」

「アームドスキンは子供のオモチャじゃないの。国の勃興にさえ関わる兵器という人の生みだした道具。作れて器用に動かせるだけの子供には過ぎたもの」

 フェチネは我慢ならなかったらしい。

「んじゃ、子供の遊びかどうか試してみろ。勝って証明できたら耳貸してやる」

「ほら、教育的指導が必要でしょ」

「そうだな。難しい話は試合のあとにしよう」


 ミュッセルを子供と嘲笑うが、彼にはしがらみから逃れられない大人の言い訳にしか聞こえない。結果だけがものを言う。そういう場所であるのには賛成だ。


「らしくないパフォーマンスは終わりでしょうか?」

「らしくねえは余計だ、フレディ。誰かさんが説教くせえこと言いだしやがるからだぜ」

 珍しく反論したくなってしまった。

「それでは開始しましょう。ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 静かな立ち上がりになってしまう。アリーナも盛り上がりに欠けたまま、戸惑いの空気が流れていた。


(ま、華々しい表舞台だけじゃねえってくらいは知れたろ。ったく、大人ってなどこにでも泥々とした上下関係を持ち込みたがるからな。足の引っ張り合いなんぞしてたら、いつまで経ったって技術開発は進まねえんだよ)

 自由な場でなくてはならないとミュッセルは思っている。


「思い知れ、ミュッセル・ブーゲンベルク!」

「でかいこと言って引くのかよ!」


 前衛(トップ)のレトレウスが左右に分かれる。中央を割いて三機のフィックノスが前進してきた。その所為でレングレンとフェチネが引いたように見えてしまう。


「なんだ?」

「わからないが、意表を突くだけのシフトじゃなさそうだ」


 前衛二人は実際には両サイドを固めたまま後衛の前進に合わせて攻めてきている。センタースペースで砲撃による前哨戦という、まるで実戦のような戦術だった。


「落とされてえのか?」

「そう甘くもなさそうだけどさ」


 守られるべき後衛が丸裸のまま迫ってくる。以前なら勝負を捨てているとしか思えない戦法。しかし、直近のアームドスキン性能を思えば無謀ともいえない。


「そのまま来やがるか」

「二枚、いや三枚ある。注意が必要だな」


 後衛が押してきているように見えてシュバルのフィックノスだけ一機分間隔を空けている。そこに時間差が生じていた。


「スルーするのも気に入らねえが、こうも厚いとよ」

「本命は一枚目か三枚目か。君はどっちを選ぶんだい?」

「抜く」

「じゃあ、僕は後ろか」


 一枚目であるレトレウス二機が両サイドを駆け抜けていく。二枚目に弾幕で足留めしてきたワイズとゼドのフィックノスがビームランチャー撃ち止めで左右に分かれた。三枚目のシュバル機がスライディングしつつ照準してくる。


「だろうよ!」


 と同時に、両側からレトレウスが締めてくる。一時的に挟撃を作りだす作戦だった。前からはビーム、後ろからは斬撃が迫る。


「っらぁ!」


 ミュッセルはヴァン・ブレイズを踏み込ませた。

次回『四天王テンパリングスター(3)』 「面白いことを考えるもんですね」

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