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四天王テンパリングスター(1)

 ツインブレイカーズはすでに入場コントを終えてセンタースペース。アリーナも十分に温まったところでチャンピオンサイドから四天王チームの登場である。折りに触れ、浅からぬ縁の相手でもある。


(ノース)サイドからの入場はチーム『テンパリングスター』! 四天王チームに脱落組も出る中、勝ち残っていくのは誰なのかぁー!」


 薄灰色で鈍い銀光を放つ『フィックノス』がトレードマークだったが、正面を飾る二機が黄味がかったクリーム色をしている。イメージカラーなのかもしれない。


(来やがったか)

 ミュッセルは目を細める。


「エースはこの人、如何なる相手も封じ込める技巧派『シャットフラッシュ』、レングレン・ソクラ選手ー!」

 女性ファンが多く、甲高い声援が耳に突き刺さる。

「そして、なんとレッチモン社は新型も投入ー! イオンスリーブ搭載機として設計された試作アームドスキン『レトレウス』を操っての登場でーす!」


 リングアナに情報提供までして自慢するだけあってレトレウスの足運びは安定している。全体にほっそりとしていて足音も静かだ。


(足跡が浅い。かなり軽量化したな)

 他の者であれば気にしない部分にも注目する。


「情報あったか?」

 今日もリングまで来ているマシュリに確認する。

「同時にカンパニーページで広報されました。完成品ではありますが、クロスファイトでブラッシュアップ後に発売予定となっております」

「ライブ配信なら無料(ただ)だからって、でけえ企業が宣伝費ケチるんじゃねえよ」

「勝敗如何で宣伝になるかどうかが決まりますが」

 彼女らしい皮肉も交じる。

「潰してやれってか? 上等だ」

「邪念はやめなよ。どうせ勝たなければいけない相手なんだから」

「目じゃねえってことじゃん、グレイ」

 揚げ足をとる。


 相棒の弁明を聞き流しているうちにコールも続く。新型の投入は二機が限界だったらしい。


「同じくレトレウスで登場は、激しき淑女『スクランブルレディ』、フェチネ・シュミル選手ー!」

 アナウンスに耳を貸さず、敵視の視線が飛んでくる。

「改修型ではありますがお馴染みのフィックノスで後衛を務める三機が続くぅー! 先頭は堅実なまとめ役『クールボス』、ゼド・ビバイン選手ー!」


 足跡を見れば、こちらも軽量化がなされているのはわかるフィックノスだが若干のぎこちなさがある。レッチモン社はイオンスリーブのアンマッチを見越して早々にレトレウスに切り替える目算なのだと読み取れた。


「脇を固めるは、勇猛なる光条『バッシュヒット』、ワイズ・オークネー選手ー!」

 足取りは雑だが力強い。

「最後に若くして冷徹『コールドスナイプ』、シュバル・ボッカ選手ー! 頂点の座は譲らないと五人の勇姿が暴れん坊二人組に立ちはだかるぅー!」

「暴れん坊は余計だ、こら」

「言葉尻を責められるわたくしの思いも乗せて立ちはだかるぅー!」

「追加すんじゃねえ」


 グレオヌスの失笑を背に一歩前に出る。向こうからもレングレンが前口上(パフォーマンス)をすべく前進してきたからだ。


「さて、どちらの実力が上なのか条件も整ってきた頃合い。そろそろ決着をつけようではないか」

 余裕の笑みが黄色い声援を呼ぶ。

「いいのかよ。お前の格好悪いとこ、アリーナに見せつけることになんぜ?」

「大した自信だ。それが虚勢だと証明してあげよう。そろそろ手札も尽きてきたことだろうしね」

「抜かしやがる。ま、大体んとこは披露したがよ」

 簡単に認めると彼は眉をひそめている。

「まさか敗北の予防線を君が張るとは思わなかったな」

「ばーか、単発では見せてやったっつってんだよ。格闘技の真髄ってのはな、それぞれの技をどういう組み立てで使うかに懸かってんだ。次に俺様が何をしようとしてんのかわかんのか?」

「確かにね。まったく、ビックリ箱みたいな君にはいつも驚かされてる。終わりにしたいとこだ」


 遠回しに決戦を匂わせる。一つの区切りと考えるほどに内心では入れ込んでるようだ。十分に研究されていると思っていい。


「我々はテンパリングスターの名を冠してる。鍛錬による、折れぬ心と実力を兼ね備えたメンバーの集まりであるのを自認する意味でだ」

 彼らのファンページにもそう記されている。

「それとともに、調整者であるとも自負している。クロスファイトのリングをルール無用の荒事場としないため、整然としたチャレンジの場とするため、乱れの原因となる挑戦者を退けてきた」

「俺がお前の理想を崩してるって言いてえんだな?」

「私が厭うところの乱れじゃない。君はクロスファイトの流儀に従っている。しかし、しかしだ。あまりに激しい。君はまるで真っ赤な嵐だ。クロスファイトを我々の制御の効かない場所にしてしまいそうで怖ろしいのだよ」

 荒らされていると感じているらしい。

「その感覚は間違ってねえ。俺はチーム戦カテゴリが硬直すんのが気に入らなくて仕方なかったんだよ。それっぽい序列ができて、受け入れてんのに腹が立ってな。だから、ぶっ壊しにやってきた」

「遠慮してもらいたいんだよね」

「いーや、認めねえ。許さねえっつんなら俺たちをぶっ壊してみやがれ」


 ミュッセルは轟然と言い放った。

次回『四天王テンパリングスター(2)』 「ほら、教育的指導が必要でしょ」

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