雪辱を期す
「皆のお陰で今シーズンのリミテッドクラス維持ポイントは満たしている」
レングレン・ソクラはメンバーを前に説く。
「しかし、我々は彼らに一度もまともに勝っていない。言うまでもない、準決勝の相手のツインブレイカーズに、だ」
チーム『テンパリングスター』は週末に向けてのブリーフィングの最中である。リーダーの彼はメンバーに訓示じみた説明をしていた。
「彼らが途中棄権した翠華杯を獲った。間接的な意味で勝ってると言えなくもないが、それで満足か?」
レングレンは問う。
「冗談じゃない。満足なわけないじゃないのさ」
「君ならそう言うだろう、フェチネ。私もそうだ。十分に準備して臨んだつもりの碧星杯でさえ土を付けられた」
「ミュウのやつ、手札を隠してやがったんだもん」
彼女は相当悔しかったようだ。
「ミュウ君の持っている必殺技はそれだけではないときてる。試合では使わない技まで含めれば恐るべき戦闘能力といえよう」
「まともじゃない。リクモン流ってのはなんなんだい?」
「興味深いが今はさておき、マイナス材料ばかりではない」
答えの出ない疑問は趣旨と外れるので話を進める。士気を挫きたいのではない。
「機体性能の差もあった。彼らはマッスルスリングというとんでもない隠し玉も有していたんだ」
駆動性能に開きがあった。
「それはある程度解消されたと思っていい。フィックノスにもイオンスリーブ駆動機が搭載された」
「かなり違う出来になってるぜ」
「そうだな、ゼド。そして、運営するレッチモン社は我々にアームドスキン『レトレウス』を預けてくれた。これは大きい」
フィックノスの駆動系もイオンスリーブ型シリンダロッドに換装されている。それだけでなく突貫で設計変更された新型機、イオンスリーブ仕様に設計まで見直された試作アームドスキン『レトレウス』二機が前衛に配置されている。
「機体性能はそう劣らない。ならば勝敗に影響するとしたらなんだ? そう、彼らも示してきたようにパイロットスキル」
強調する。
「我らは発足二年目からずっとリミテッドクラスを維持し、四天王とまで呼ばれるテンパリングスターだ。パイロットスキルで彼らに劣るか?」
「個々ではあれだ。だが、チームの総合力でなら劣ってはないぜ」
「ワイズの言うとおり。マシンが同等の力を持っているならチーム力が物を言うはず。ここが最も重要な点だ」
どう戦うかの話になる。
「ナクラマー1は機動戦を仕掛けて彼らの連携の前に散った。ゾニカル・カスタムは電子戦で連携を断とうとして逆に出し抜かれた。正攻法も策略もことごとく打ち破ってくる。ではどうすればいい?」
「うちのチームの構成から最も有効なのは消耗戦だと思います」
「ふむふむ」
一番若いシュバルが意見するのは悪くない。気掛かりな表現ではあるが聞いてみる気にはさせる。
「接近戦を避けて距離を取っての砲撃戦に終始しましょう。焦れて突進してくるならばリーダーとフェチネで迎撃し、その間に押し戻してしまえば。強豪と連戦中の二人が一番嫌う展開だと思われます」
長期戦もやむ無しと唱える。
「砲撃手が三機いる利点を最大限に活かすと?」
「はい。くり返しているうちに、ほぼ確実に消耗していきます。強引に突破を掛けてくる頃合いが隙を突くタイミングでもあります」
「確かにな。悪くない。かなりローリスクな戦術だと思う」
後衛のまとめ役のゼドも納得している。
「わかる。が、まだ彼らを侮っていると思える。なにせ、前提は私とフェチネで二人の攻撃を跳ね返せる前提で語っている」
「無理なんですか? だって、リーダーもフィチネもここまでの慣熟訓練でレトレウスをものにしている。可能なはずです」
「いや、それは彼らの目論見にハマっているだろう。接近戦には接近戦で応じるしかないと思わされている。抜かれれば作戦は破綻する」
どうあろうと前衛同士が激突すれば後衛の支援は限定される。有用に思えて、実は総合力を消される局面がどうしてもできてしまう。レングレンはそう説いた。
「唯一のリスクといっていい。そして、それを見逃すほどツインブレイカーズは甘くない」
積極的に仕掛けてくると予想する。
「二人で我らと同格の力があると考えて対策すべきだ。そうでなければ四天王が2チームも連続して撃破されることはない」
「そこまで評価してるんですか」
「過大とは思わない。他に説明する術がない」
四天王はトップチームの牙城として協力してきたのではない。常にしのぎを削ってきたライバル同士である。だからこそ互いを知り抜いている。
「だから、全員が一丸となって二人に当たってこそ勝機がある」
明言した。
「ですが、役割の違う剣士と砲撃手。入り混じっての戦闘はかなり無理があると考えます」
「うむ、俺もハイリスクな選択だと思う」
「リスクを冒さねば勝利はないと思ってくれ」
勝ち抜いてこそ道がある。
「要望もある。レトレウスの評価をしなくてはならない。しかし、それはフローデア・メクスとの対戦でもいい」
「そこまでかい、リーダー」
「ああ、ツインブレイカーズを打ち破るには真っ当な方法では難しい。それくらいに型破りだ。そう思うからこそ、君たちもあの訓練をしてきたのだろう? ならば勝負するときだ」
リーダーとしての決断が必要なとき。
「では、今回の作戦を説明する」
レングレンは大胆な戦術をメンバーに示した。
次回『四天王テンパリングスター(1)』 「そろそろ手札も尽きてきたことだろうしね」