四天王ゾニカル・カスタム(7)
セーウェンの大上段からの斬撃はヴァン・ブレイズのかざした左腕を叩く。普通ならばそのまま押し潰してしまうのに赤い機体は悠々と持ち堪えている。
「馬鹿な」
「なんでもねえって。相棒の斬撃はもっと重いぜ?」
「ありえん」
杭を打つが如く何度も打ちおろす。しかし、細身に見えるアームドスキンはびくともしない。
「一つ覚えじゃん。仲間のフォロー無しじゃ通用しねえだろ」
逆にアッパーカットが腹に刺さる。
「ぐふぅ」
「お、さすがに一段上か」
「この程度で」
ダメージを浴びても打つ手は止まらない。それこそが彼の戦い方である。そして奥行きがないわけでもない。
「むぅん!」
「っだらぁ!」
上からと下からの叩き合いになる。両者とも譲らない。まるで我慢比べで負けたほうが流れを握るかのように打ち合う。
「貴様、力比べで負けんと言うか」
「そうじゃねえと面白みがねえ」
同意見だった。パワータイプのセーウェンからすれば面白い相手である。しかし、これはチームでの試合。勝たなければ意味がない。彼のジーゴソアのカスタマイズの優秀さを示す意味でも。
「はあぁ!」
「んあ?」
一転してブレードが横に走る。横薙ぎと化した猛撃がヴァン・ブレイズの右側面から襲い掛かった。上からの斬撃に耐える姿勢だった相手からしてみれば対処できる攻撃ではないはず。
「っらぁ!」
「うおっ!」
アッパーから変化した拳打が斬撃を迎撃する。刃を叩いたのはナックルガードがまとった力場だった。驚いたことにブレードのほうが弾かれてしまう。
「ありえんぞ!」
「認めろよ!」
それでは終わらない。背中を向けたミュッセルは旋回スピードまで乗せた後ろ蹴りを放ち、咄嗟にガードした左腕ごと打ち抜いてくる。セーウェンは耐えきれずにたたらを踏んだ。
「ぐほぉ」
「まだまだぁ!」
頭を振った赤い機体は懐の中、腕が脇へとまわされる。気合い一閃、持ち上げて仰け反り頭から地面へと叩きつけられた。
上下逆さまになった視界ではヴァン・ブレイズも逆のまま、つまり、反動を利用して立ち上がっていた。
「うっぐ!」
「これで詰みだ! 烈波!」
耐えることも受け身を取ることもできない状態で危険な必殺技を受けた。とてつもない衝撃がコクピットを襲う。
「馬……鹿な……」
ゾニカルの粋を集めたセーウェンの重装甲ジーゴソアが宙に舞ったまま気を失った。
◇ ◇ ◇
「簡単ではないと?」
「言うまでもない。でなければ四天王など名乗れん」
シラオファのプライドがそう言わせる。
ブレードが下と上からの状態で拮抗する。ところが不利なはずの斬りあげる力のほうが増してくる。
「むぅ」
レギ・ソウルは踏み込み足を滑らせて低い姿勢になっている。左手が柄頭に添えられ、テコの力まで加わると拮抗は崩れる。彼のブレードが弾かれる形で。
「ひゃう!」
そのときにはどうにか制動の間にあったビストミアの機体が軌道から逃げおおせた。後ろに跳ねつつビームを挟むも、グレオヌスはすでに見切りをつけて避けている。
「次の脱落者はセーウェン選手だぁー! とうとう同数まで持ち込まれるぅー! どうするゾニカル・カスタムぅー!」
リングアナのアナウンスが響き渡る。
「まさか、こんなに早く?」
「ミュウ相手にパワータイプが単機で耐えられると? 足を止めての打ち合いで勝てるわけないでしょう」
揺るぎない声音だ。
「急がねばならんか」
「ミーア、来るぞ。せめて時間を稼げ」
「これの相手しながら? 冗談はよしてよ、コマンダー」
迷っている暇などなかった。反応する時間もなくビストミア機の横に真紅が出現する。地面を鳴らした足は影を踏んでいた。
「なんでぇ! 超光速航法でもしたぁ?」
「なかなか面白えこと言うじゃん」
スクリューしながら走るオーバーハンドフックが突き刺さる。かなり強化したはずのジーゴソアの頭部が破片を撒き散らしながら吹き飛ぶ。一回転して地面に叩きつけられた。
「空把下門撃グラビノッツゼロ」
「はぐぁ……」
今度は肘が胸部に。ダメージはコクピット内部まで通ったか。ビストミアの声はそれっきり聞こえなくなった。
「せめて一矢なりとも!」
「その覚悟、受けましょう」
渾身の一撃はレギ・ソウルのブレードに吸い込まれる。くるりと絡め取られると次の瞬間にはグリップごと手から離れスティープルの表面で音を立てていた。次を抜く間もなく剣先が胸先数cmのところへ。
「ここまでか。ギブアップだ」
「ありがとうございます」
宣言すると狼頭の少年は礼を言い素直に引いた。追い打ちで恥をかかせることなく試合は終わる。
「ゾニカル・カスタムまでもが屈するぅー! これで四天王二枚が打ち破られてしまったぁー! チーム『ツインブレイカーズ』、炎星杯準決勝進出ー!」
轟々とアリーナが湧いている。
シラオファは長い息を吐いて下唇を噛んだ。
◇ ◇ ◇
「ありがとよ」
北サイドからまわってリフトトレーラーのところまで戻ったミュッセルは、そこで待っていた美貌のメカニックとハイタッチ。
「なにほどでも」
「まあ、そう言うな。手間掛けた分、礼はする。なにか考えとけ」
「高くつきますよ?」
肩をすくめて振り向く。そこには今から試合のライバルの姿。
「決めてきてやったぜ。今度はお前らの番だ」
「任せときなさいよ」
無線越しのビビアンの応えにミュッセルは心の中でエールを贈った。
次はエピソード『赤い嵐』『花、散る(1)』 (いけない。無断外泊しちゃった?)