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四天王ゾニカル・カスタム(6)

 後衛(バック)を失い援護のない状態となるとほぼパイロットスキルの勝負になる。コンビネーションに関して大きく差があるとは思えない。


(完全にそこを狙っていたな)

 シラオファも今思えば気づく点がある。


 コマンダーと申し合わせた、撹乱して隙を作る作戦は見事に裏をかかれた。残った戦力は剣士(フェンサー)の彼とセーウェン、ショートレンジシューターのビストミア。彼女を援護にまわすのは愚策だろう。


「セーウェンならばレギ・ソウルを一定時間抑えきれるな?」

 集結し、最後の手段の接触回線を使う。

「パワー分析では少しではあるが勝っている。どうにかなろう」

「その間にミーアと俺でヴァン・ブレイズ撃破を狙う。好機があれば落としに行け」

「了解した」

 マッチアップを決める。

「ミーア、お前はヒートゲージの消耗を抑えて数撃に制限した離脱戦法を取れ。機を見て俺が動きを止めに入る。そこで仕留めに行け。いいな?」

「はいな」

「決して無理はするな」


 戦術パネルに目を走らせればツインブレイカーズの二機も肩を並べている。機動速度の時間差を用いて赤いアームドスキンを切り離しに掛かるべく走った。


「ヴァン・ブレイズが動いたぞ」

 コマンダーからの報告。

「ミーア、牽制」

「最初はばら撒くから時間稼ぎよろしく」

「それでいい。が、どこだ?」

 距離は詰まっているのに姿が見えない。

「上だ!」

「なに!?」

「げ!」


 平地を本気で走れば100mを二秒で踏破する。障害物(スティープル)の中でも三、四秒というところ。彼我の距離からして接触まで十秒あまりだと計算していたが高低差を使われた。


「く!」

 ビストミアがブレーキを掛けつつ姿勢を安定させて上に向け連射。

「ぬるい照準だぜ」

「だったら!」

「ほらよ、もうゲージが赤いぜ」


 躱すまでもないという姿勢で横向きにプレート型スティープルに掴まっているミュッセルが跳ね渡っていく。無視された彼女は筒先を巡らせるがシラオファは止める。


「追えば思うツボだ。それよりも」

「もうレギ・ソウルが?」


 銀灰色に鈍る光が障害を縫って接近してくる。その速度は平地の最高速に迫ろうかというものだった。


「ヤバ」

「ゲージ回復に努めろ。俺が抑える」

「ごめん」


(ミュッセルの暴走なら挟撃をと考えたが、そこまで甘くない。これは……)

 シラオファは自分の思い違いを知る。

(四天王チームとの対戦だと思え。そのくらいのつもりでなければここで敗退だ)


 運営を含めたチームブリーフィングで電子戦を選択したのは、次のテンパリングスター戦を睨んでのこと。できるだけ消耗を抑えて次週の試合に向けた練習へと円滑に移行したかったのだ。


「つまらん目論見など無駄か」

「ええ、見え透いてますよ。ミュウが言い当てたとおりの展開になってますのでね」

 相手からの答えが返ってしまう。

「グレオヌス、貴様は」

「囮はもう終わりです。本気で行っていいとうちの姫から許しが出ましたから」

「むぅ」

 オープン回線の向こうで「誰が姫だ、このクソ狼野郎」と聞こえる。


 直接でないということは彼ら独自の回線が存在するという意味。赤毛の少年が言っていたのは決してブラフでもなんでもない。最初から翻弄されていたのは自チームのほうだった。


「ならば実力で下すまで」

「最初からそうすべきでしたよ。だったらミュウも小細工無しで正面から挑んだものを」

「そういうことか」


 正面衝突せざるを得ない状況を作られてしまったのだ。しかも、マッチアップさえ裏切られている。


(逆に好都合か? 剣闘技はともかく、動きでは少し劣ると分析されていたが。落とせるか?)

 レギ・ソウルと斬り結びつつ考える。


 三合目の斬撃が両者を分けたところでグレオヌスはバックステップしていく。ゲージの回復したビストミアの牽制砲撃はスティープルに食われて拡散。再び現れたところで狙いすましたビームが走るも、予期していたかのようにブレードの腹でガードしてしまう。


「そんな冗談みたいな!」

 反射神経の域を超えている。

「どのタイミングでどこを狙ってくるか。予想してブレードを置いておけば難しいものではありません」

「手練れが言うようなこと」

「経験値はそれなりに。実機シミュレータが数少ない娯楽だったんですよ」


 幼少期の環境としてはお世辞にも褒められたものではない。しかし、リングに身を置くならば助け以外のなにものでもない。


「全力で行け、ミーア。あれは容易には落とせん」

「そうかもぉ!」


 ジーゴソアの速度が一段階上がる。彼女の異名たるダブルブーストを使うつもりなのだ。見せれば見せるほどに対策を打たれようが構ってなどいられない模様。


「行っけぇ!」


 一直線に突進する。ビームの弾速に機動速度を乗せて射出する技だ。弾速が比較にならないくらい速いのでわずかに加速される程度だが、そのわずかが目測を誤らせる。走行時の安定が命になる難しい戦法だ。


「落ちろ!」

「斬る!」


 加速された青光が瞬時に襲い掛かる。ところが上段から振りおろされた瞬速のブレードが正面から真っ二つにする。左右に分散されたエネルギー光の向こうには手首を返したレギ・ソウルが待っている。


「うっそぉ!」

 簡単には止まれない。

「これで決まりです」

「させんよ」


 シラオファは跳ねる剣を上から叩き落としていた。

次回『四天王ゾニカル・カスタム(7)』 「貴様、力比べで負けんと言うか」

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更新有難う御座います。 真っ向勝負。
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