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四天王ゾニカル・カスタム(5)

 ひと睨みでスニルは動けなくなってしまっている。シラオファもヴァン・ブレイズの放つ威圧感に飲まれていた。


「電子戦だと? そんな生易しいものでは……」

 味方からの情報と見せかける欺瞞情報など諜報戦に近い。

「試合前から俺たちの回線探ってたろ? 見え透いてんだぜ」

「むぅ」

「だから同じことしたんだよ。てめぇらのチーム回線覗いて音声サンプリングした。あとは合成して流すだけだ」

 いとも簡単に言う。

「どこにそんな電子戦能力が」

「うちの優秀なメカニックは情報戦も得意中の得意だからよ。提案だけすりゃ、きっちり仕事してくれたぜ」

「バックアップスタッフだと?」


 ツインブレイカーズがコマンダーも置いていないのは周知の事実だ。だから試合中に複雑な戦術など用いてこないと高をくくっていた。


(以前、どこかのコンテンツで注目されていたメイド服のメカニックか。まるで見栄えの良さを買っているような人材だと思っていたが)

 大変な勘違いをしていたらしい。


「それでも、しかし……」

 異常なまでに幻惑された。

「さすがにスタンドアローンの機体制御までは奪えねえ。だから、情報管制のほうに悪戯してやったんだ。てめぇんとこみてえなコマンダーを置いて指揮管制してるチームはリンクが太えかんな。一度侵入したら深めに潜れる」

「嘘だろ?」

「嘘じゃねえよ、坊っちゃん。お前が気づかねえうちに接近して、レーザー回線で管制部分だけ乗っ取った。システムは騙されてチーム回線にジャミング喰らってるって言ったろ? ほんとは生きてんのによ」

 表層部分だけハッキングされていたのだ。

「そんなことが可能なのか」

「あとはチーム回線ミュートして迷わせときゃいい。その間に俺は包囲してるつもりのてめぇらの外側から噛みついた」

「汚いぞ」

「だから、先に仕掛けてきたのはてめぇらだって言ってんじゃん」


 簡単に言っているが非常に難しいことをしたはずだ。システムがハッキングを検知する前に侵入して管制を奪ったという意味。しかし、現実に成功しているのだから事実なのだろう。


「もしかしてコマンダーが聞いた貴様らの交信も?」

 行動と食い違いが見られる。

「ありゃダミーを聞かせてやったんだよ。俺たちのほんとの打ち合わせは別系統(・・・)でしてある。レギ・ソウルの位置や戦闘状況は今も把握してんぜ。いいのかよ。お仲間は苦戦してんぞ?」

「このまま貴様を放置して行けるか。索敵ドローンはヴァン・ブレイズを光学ロックした。もう同じ手は通用しない」

「勝手にしろ。こんなん続ける気もねえ。条件付きの上、視界の悪いリングでしか使えねえような電子戦なんかよ」

 肩をすくめて嘯く。

「それより、てめぇの澄まし顔を実力で剥ぎ取ってやるほうが楽しいじゃん」

「言うか!」

「やらせない!」


 ミュッセルが腕を一振りしたことでスニルの呪縛も解ける。シラオファが突進して死角を作ったタイミングで下がって狙撃できる距離を測った。


「まずは目ぇ潰してやる。そうしねえと分厚い面の皮はもっちまいそうだしな」

 彼の一閃はかがんだヴァン・ブレイズの上を通り過ぎる。

「他の四天王とやるときみてえな荒々しい本性を見せろよ。出し惜しみしてんじゃねえ」


 続く連撃も赤いアームドスキンを捉えられない。それどころか間合いを離されていく。


「まだハッキングされてはいないだろうな、スニル」

「再起動しましたよ」

 後衛(バック)が追われている。

「コマンダー、ヴァン・ブレイズの正確な位置を伝えてくれ。スニルが逃げられるように」

「了解だが……、どうしてこうも正確に追っていける?」

「引き離せないか」

 障害物(スティープル)の隙間を縫って走るミュッセルに追いつけない。

「俺の動体視力と機体親和性嘗めんな。一度ロックオンした相手は簡単にゃ逃さねえぜ」

「こうなったら、ラオ、誘導するので攻撃を」

「わかる。わかるが……!」


 疑心暗鬼になっている。会話からしてチーム回線は筒抜けだと思うべきだ。彼の指示も、コマンダーの指揮もやりとり全てが丸見えである可能性が高い。


(どうやって裏をかく? いや、電子戦を仕掛けようとしたのが間違いだというのか? 正面から当たったほうが勝機があったか?)

 違う意味で幻惑されていると頭を振る。


 それがツインブレイカーズの作戦なのだ。騙したつもりが騙されている。そうすると次の行動が正しいのかさえ怪しんでしまう。結果、どうすべきかわからなくなってしまう。


(フェイントや言葉で混乱させる手管は俺でも使う。だが、こんなにも巧妙な仕掛けをされては……)


 実力の拮抗する四天王同士であれば、そんな駆け引き一つが勝敗の天秤を傾けることがある。しかし格下相手に、それもたった二機に翻弄されるとは思ってもみなかった。


(迂闊だったか)


 すでにヴァン・ブレイズの姿は見えない。スニルが放っているビームが時折りスティープルの間を抜けていくのが見えるだけ。誘導も上手くいっていない。むしろ、動かされているか。


「貴様ぁ!」

「うるせ。寝てろ」


 衝撃音が彼の耳に届く。見えていなくとも想像に足る。次に聞こえるのは……。


「さらにスニル選手がノックダウーン! ゾニカル・カスタム、後衛(バック)を失ってしまったぁー!」

 リングアナの声。


「当初の作戦は中止する。全機、攻撃を中断して集結しろ」


 シラオファは決断する以外に道はなかった。

次回『四天王ゾニカル・カスタム(6)」 「本気で行っていいとうちの姫から許しが出ましたから」

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