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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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グレイvsミュウ(2)

 チュニセルが持たせてくれたランチボックスをしっかり平らげてからミュッセルが立ちあがる。拳を突き出してきた。


「んじゃ、俺は(ノース)サイドに行く。後悔しねえよう全力でやり合おうぜ」

 グレオヌスも立ちあがって拳を合わせた。

「もちろん。君がチャンピオンサイドだけど、リミテッドとビギナーの違いなんて無粋なものは僕たちの間にはないからな」

「ったりめぇだ。最初っからほんもんの本気で行くから覚悟しろよ?」

「ああ、あのときの決着をつけよう。失恋より、本当の勝負ができてないのが無念なんだ。ここなら誤魔化しようがないくらいの証人がいる」

 すでに前座の試合で盛りあがっている歓声がここまで聞こえる。

「オッズも面白えくらいになってる。若干俺のほうが上程度だぜ。もうお前の実力は認められてる」

「僕が認められたいのは君だけだよ。勝って証明する」

「抜かしやがる。吠え面かかせてやんぜ」


 自然と拳が行き違う。肘同士を打ち合わせてクロスした。最後に片手ハイタッチして別れる。パイロットシートがヴァリアントの操縦殻(コクピットシェル)に飲み込まれると真紅の後ろ姿が小さくなっていく。


(せめて同等のスペックを持つアームドスキンで勝負したかったな。それとも君はパイロットスキルだけでなにもかもを埋めてくるのかい?)

 口にできなかった心の声だ。


 レギ・クロウはほぼ協定機だといっていい。グレオヌスの能力に合わせて調整されているとはいえ、ベース設計はレギシリーズのそれである。

 対するヴァリアントの基礎設計はミュッセル本人がしたもの。マシュリが手を入れていても限界があるだろう。それだけが惜しい。


(まだ機会はある。結果がどうあろうと、君は決してクロスファイトをやめたりはしないだろうからね)

 純粋なパイロットスキルで勝負できる日が来ると信じている。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調成功シンクロンコンプリート

 機体システムのアナウンスでスイッチが入る。

対消滅炉(エンジン)出力……、今日は120%で」

『出力を120%に設定します。機体稼働時間はマイナス40%となります』

「かまわない。各部の、特に駆動系の過熱状況は注意して。よろしく頼む」

『承りました。ベストパフォーマンスを提供いたします』


 つまらない後悔はしたくない。彼自身もベストパフォーマンスでの結果を望んでいる。逆にいえば結果なんてどうでもいいような気さえしてきた。


「それでは本日のメインゲーム! 金華杯ソロトーナメント決勝をお送りいたします!」

 ゲート表示はカウントダウンを開始していた。

「オープントーナメントとはいえ前代未聞の番狂わせ! なんとリミテッドクラスとビギナークラスの試合となりました! それだけではない運命の巡り合わせ!」


 リングアナのフレディの煽り文句は熱を帯びていく。それに合わせて観客の歓声のボルテージも否応なく上がっていく。


「両選手は公務官(オフィサーズ)学校(スクール)の同じクラスで、ホストファミリーとして同居中! しかも親友同士での決戦となります!」

 伝え聞いたのであろう情報を開陳する。

「なんという運命! なんというドラマ! クロスファイトにこれほどの熱い展開が待っているとは、この私も思ってはおりませんでした! 今日お集まりの皆様は歴史の証人となるでしょう! 最高に熱いドラマの観客として!」


 カウントがゼロになった。グレオヌスはレギ・クロウにゲートを抜けさせて、眩しい照明の下にその姿をさらす。爆音といっていい歓声が浴びせられた。


(サウス)サイドからの入場は『狼頭の貴公子ぃー』! 『ブレードの牙持つウルフガぁーイ』! グぅーレオヌぅース・アぁーっフ選手ぅー!」

 煽りも最高潮だ。

「乗機は、レぇーギ・クロぉーおウー!」


 右手を上げると低い声に混じって黄色い歓声も聞こえてくる。普通の生活ができているのが変に感じる瞬間だった。


(客層の良さには驚くよね。これほどなのに、ブーゲンベルクリペアに押しかけてくるような人はいないんだからさ)

 配慮がありがたく、ここぞとばかりに精一杯の愛想をする。


「対する(ノース)サイドは『天っ使の仮面を持つ悪魔ぁー』! 『紅のぉー破壊者ぁー』! ミュぅーッセぇールっ・ブぅーゲンベルぅーク選手ぅー!」

「今日だけは勘弁してやる。てめぇの相手なんてしてる余裕はねえ」

「おーっと控えめだぁー! 乗機はヴァぁーリアーっントっ!」


 淡々と歩んできたアームドスキンはオープンスペースに入ったところで立ち止まる。拳を握って両腕を自然に開くと、震えながら気合いを放つ。


「うぅおおあぁー!」

 ソプラノの吠え声にファンの声が重なった。

「来いやぁー!」


 ガツンガツンと胸を叩いたかと思うとヒップガードのガントレットに手を差し入れて装着した。ラッチのクリック音が不思議と耳に入ってくる。ミュッセルは拳同士を打ち合わせて火花を散らした。


(気合十分だな。応えないわけにはいかない)


 ブレードグリップを抜くと切っ先に足元をなぞらせる。一転して風切り音を立てて正面で十字を切って、ブレードの先にヴァリアントを置いた。


「さあ始めよう、楽しい時間を」

「最高の一撃を食らわしてやんぜ」

「両者ともゴングを待ちきれない! これはマズいぞ、運営! 急ぎ準備を! ゴースタンバイ? エントリ! ファーイっ!」


 グレオヌスは静かに息を吐いた。

次回『グレイvsミュウ(3)』 「ミュウの距離!」

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