四天王ゾニカル・カスタム(2)
ヴァン・ブレイズやレギ・ソウルなどのいわゆる協定機とされるアームドスキンにはフレニオン受容器という特殊機能が搭載されている。これは電波回線を介さず、時空外媒質通信と同じ理論で機能する超光速無線である。
本来ならミュッセルが当然の知識としているように、超光速通信には質量と容量を必要とする。しかし、特殊な構造をしたこのフレニオン受容器はその二つとも必要としないのだった。
(こいつばかりはぜってーにオープンにできねえ特殊機能だがよ)
実際のところ、フレニオン受容器の機能はゼムナの遺志が協定者のアームドスキンの状態を確実に把握するために搭載している。相互を繋ぐリンク機能なのだ。
なので本来の超光速通信および電波やレーザー回線ほどの通信密度はない。密度的には低いが、会話や相対位置情報、機体状態を伝えるのに問題はないレベルである。
(現代電子戦技術じゃ太刀打ちできねえ代物だ)
それが制御部内に収められているという。ミュッセルも一度探してみたが、どこがその機能を有しているのか判別できなかった。そもそもアームドスキンに搭載されている有機コンピュータはどこがどんな働きをしているかわかりにくい構造をしている。
(わかっても、とてもじゃねえが手ぇ出せねえだろうしよ)
なんと、ヒューマンインターフェイスであるマシュリの生体端末の身体。その頭蓋内にもフレニオン受容器が搭載されているという。つまり、彼女はいつでもヴァン・ブレイズやレギ・ソウルにアクセス可能なのだ。普段は黙って見ているだけで、その気になればいつでも会話くらいできる。アバターを飛ばしてきたこともあった。
「なんの意味もねえ仕掛けってわけだぜ」
「もしかして、インストールされてるクロスファイトプログラムの機能停止信号を送ってくる可能性は? そこを突かれたら一発じゃないかい?」
「機能停止コードは厳重に管理されておりますし、タッチ禁止のルールになっております。使用を認められたら即座にルール違反で敗北判定となりますが」
グレオヌスは瞬間停止など巧妙に使ってくる可能性を危惧したようだが、それさえもクロスファイト運営はキャッチするだろう。それくらい重要な部分であると説明する。
「戦闘用アームドスキンは外部からの制御でぜってーに動かなくならねえよう設計されてんだろ? その滅茶苦茶デリケートなところに手ぇ付けるとは思えねえな」
ミュッセルはまずないと考えている。
「とすれば、主に傍受? こっちの作戦を抜きたいのかもしれないな」
「作戦抜かれると手足もがれたようなもんだもんな。合図一つ聞かれるだけでも影響はある」
「全部無意味だけどさ」
両機の間に聞き耳は立てられない。
「無視してぶっ潰してやってもいいんだけどよ」
「よからぬことを考えてそうだな」
「いやらしい仕掛けしてきたんだから、こっちもいやらしく相手してやっか」
グレオヌスが失笑している。相当悪そうな笑いがもれていたかもしれない。
「マシュリ、こんなんできっか?」
「可能ですが、意地が悪いにもほどがありますね」
「二度と同じ仕掛けしてこねえよう木っ端微塵にしてやんねえとな」
ミュッセルが思考イメージで伝えた作戦をマシュリが準備しはじめた。
◇ ◇ ◇
「残念だがちょっと暴れ過ぎだ、ツインブレイカーズの諸君」
ゾニカル・カスタムリーダーのシラオファ・バークモンはセンタースペースで対峙してから告げる。
「出る杭は打たれるものだよ」
「わかんねえぜ。不用意に近づきゃ、出る杭に顎かち上げられてバイタルロストする羽目になったりしてな?」
「慢心も若さゆえのものと思おう。それを今日知ることになる」
ツインブレイカーズの二人の活躍は派手だ。スクール生男子なら鼻が伸びるのも仕方ないというもの。しかし、世の中はそう甘くはない。
「大人の怖さを教えてやろう」
「そうかよ。勉強させてくれよ」
「学ぼうという姿勢は評価できる」
本心ではなかろう。単なる言葉の綾だ。不遜な態度は崩れていない。赤いアームドスキンは腕組みをし、並行三連カメラアイで睥睨してきている。
(アームドスキンの知識に精通しているのは周知の事実。パシャとスニルの機体が電子戦用なのは見抜いているだろう。ただし、なにをしてくるかまでは見抜けていまい)
一見豪胆に思えて、ツインブレイカーズの緻密な連携は侮れない。それは彼らのコマンダーも認めるところ。だからこそ、そこを突く作戦が採用されたのである。
ゾニカル社が蓄積した技術が全て詰め込まれた電子戦用ジーゴソア。それがこの試合の鍵を握っていると思って間違いない。
「開始と同時に解読および撹乱を始める。各機、手順どおりに両機の分断に努めよ」
全機に指示した。
「それでよいか、コマンダー?」
「解析はすでに開始されている。ツインブレイカーズの使用回線は推定された。把握し次第行動指示および作戦に反映させる。チーム回線に傾注してくれ」
「すでにミッションは進行中だそうだ。では、思い上がりな少年を狩るとしよう」
ブレードグリップを手にし構える。ビストミアもビームランチャーを両手で支え前傾姿勢。開始のゴングを待った。
「両者、激突姿勢だぁー! 熱い戦いが期待されるぅー! では、ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
ゴングと同時にシラオファは配置へと走りだした。
次回『四天王ゾニカル・カスタム(3)』 「これほど速やかに情報遮断されるとまでは思っていなかったのだろうな」