四天王ゾニカル・カスタム(1)
南サイドゲートのカウントがゼロになる。ミュッセルは通信パネル越しにグレオヌスに目配せをすると、ヴァン・ブレイズをレギ・ソウルの隣に並ばせた。
「炎星杯五回戦第二試合に登場したのはお馴染みチーム『ツインブレイカーズ』! AAクラスにしてメジャーの本トーナメント常連なのは快挙か暴挙か!? 誰がこの二人を止められるぅー!」
フレディの名調子に適度にツッコミながら歩みを進める。アリーナの声援に応えるふりをしつつ、ほうぼうにカメラアイを走らせた。バックアップにマシュリがいるので、すでにスティープル配置を解析中であろう。
「さあ、バトルフィールドを焦がす烈火の赤と斬り裂く銀灰が現れた! 今日のリングも熱い戦いが予想されます!」
歓声をバックに吠える。
「次のメインゲームは華々しい女王杯決勝! あまり荒らされたくないタイミングでの彼らの登場にクロスファイト運営の不運は拭えません!」
「うるせ! てめぇ、嫁にバラすぞ、うちの専属メカニックに惚れてやがるのを」
「ぐ、脅迫には屈しません! このリングに命散らそうとも!」
強気の姿勢で返してきた。
「格好いいこと抜かしやがって」
「それに、推しへの愛と妻への愛は別物です!」
「メシとスイーツは別腹みたいな例えすんな!」
「お? 上手い!」
変なところで褒められても嬉しくない。喧々諤々といきたいところだが北サイドからの入場が始まったので控えた。
「対するはチーム『ゾニカル・カスタム』! 四天王からの刺客が連続で襲い掛かるぅー! さすがの暴れん坊もここまでかぁー!」
青ベースに黄色の縁取りを施された機体が列をなしてやってくる。ゾニカル社のアームドスキン『ジーゴソア』のカスタム機だ。
「リーダーはこの人! 『斬空の魔剣』シラオファ・バークモン選手ー! 今日もまばたきも許さない剣技が冴えわたるかぁー!」
剣士が先頭に立つ。
「次は前衛ガンナー! 疾走する『ダブルブースト』ビストミア・バラン選手ー! 彼女の光条からは逃れられないー!」
ショートレンジシューター転向組の砲撃手が続く。
「そしてチームの屋台骨たる力持ちぃー! 『パワースラッシャー』セーウェン・チャルコッタ選手ー! 地面に叩きつけられるのは誰なのかぁー!」
二機は軽量化および高速機動を主眼としたエアロカスタムを施されていたが、三機目は明らかにパワー特化したカスタマイズがされている。防御はもちろん、攻撃にも重さを乗せるためか装甲もかなり厚めだ。
(あん?)
ミュッセルは目を細める。
残る二機がこれまで以上に気になるカスタマイズだったからだ。素人目にはわからないかもしれない。しかし、確実にセンサー系が強化されている。背中に突きでたユニコーンアンテナが目を引いた。
「バックを固めるは『スナイピングビューティ』パシャ・マーミル選手ー! 美技とも呼べる一射が今日も決まるのかぁー!」
もう一機も同じカスタマイズだった。
「最後を飾るは『ブルーシャドウ』スニル・クーデシカ選手ー! 青き影が背後に忍び寄るぅー!」
ゾニカル・カスタムというチームは名前のとおり、ゾニカル社のそのときの最新鋭機を用いて、さらにカスタマイズバージョンを試用する運営方針である。ゆえにネイキッドのノーマル機体より高性能である。
しかも、カスタマイズには様々なバージョンが試みられ、かなりの数が認められる。今回はその中でも初めて見られるバージョンだった。
「おいおい、こいつら、仕掛けてくる気だぜ?」
「あれはやはり?」
「おう。見るからに電子戦仕様じゃん」
後衛の砲撃手二機は確実といっていいほど電子戦用の強化がなされている。電子戦といっても古代に見られたハッキングによる機体制御奪取手法ではない。アームドスキンのような兵器のベースシステムはスタンドアローンになっている。
行うのは、無線傍受による情報奪取と介入による指揮系統の混乱、およびセンサージャミングによる認識阻害がメインである。クロスファイトでは砲撃時のターゲットロックが禁止されている以上、ロック外しなどの戦術電子攻撃は含まれない。
「認識阻害っつったってそんな距離じゃねえ。光学センサーはジャミングできねえかんな。残るはなんだ?」
「チーム回線の傍受・妨害と相互リンクの阻害」
「正解だ。どうやら連中は俺たちが密接な相互リンクを張ってるのがわかってて妨害したいらしい。邪魔でしょうがねえんだろうな」
どのチームも様々な戦術を用いてヴァン・ブレイズとレギ・ソウルを分断、各個撃破しようと画策してきた。しかし、実際には上手くいっているとは言いがたい。いつの間にか裏を取られて撃破されているのを問題視したようだ。
なので、情報的な意味でも分断し確実な各個撃破を目論んでいるらしい。そのために電子線カスタマイズのジーゴソアを投入してきたものと思われる。
「涙ぐましい努力じゃん」
「愚かです。戦術の要たる相互リンクを強化しているとは考えなかったのでしょうか?」
「言ってやるなよ、マシュリ。可哀想じゃん」
メイド服のメカニックは普通に会話に参加してくる。
ミュッセルたちのアームドスキンがそういう構造をしているのを相手チームは知る由もなかった。
次回『四天王ゾニカル・カスタム(2)』 「いやらしい仕掛けしてきたんだから、こっちもいやらしく相手してやっか」