表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/409

クイーンの証(2)

 ヘーゲル社のガードに守られながらスタッフルームに入ったエナミは数多くの視線を感じる。メジャー二連覇を果たし、炎星杯も有望視されたまま本トーナメントまで勝ち進めば意識もされよう。


(どこのスカウトにもライバル視されてしまう。トップチームはいつもこんなプレッシャーの中で戦っているのね)


 周りをガードが囲んで隠してくれているが、口唇を解析される読話術を警戒してコマンダー卓に着くまでは会話を控える。集音マイク対策としてキャンセラーが起動される。様々な対策が施されてスタッフルームの空気が生まれていた。


(それでも色々ともれるもの。それも含めて駆け引きなのね)


 他チームのスカウトが彼らの動向を観察すると同時に、ヘーゲルのスカウトも他チームがどこに着目しているかを観察している。それぞれのチームの傾向が読み取れるからだ。競争心を煽るべく意図的に演出されている空気なのである。


「コマンダー卓にデータインストール完了しました。始めます」

 エナミが告げると、各々のコンソールスティックを有線接続したラヴィアーナとジアーノが頷く。

「構成は……? やはり同じか」

「ラズ・ガイステはデオ・ガイステと違って、完全に方針転換しましたわ。チームスタッフは丸っきり別だからわからなくもないのですけれど」

「女子チームは汎用性重視のまま。男子チームは駆動力効率化を目指してってとこでしょうね。どちらが正解ともいえない」


 同じガイステニア社であれど、どこに注力して調整しているかは異なる。社の意向がワークス運営にどれだけ影響しているかがわかる。ガイステニアは有用なデータが上がってくるかぎり自由なほうなのだろう。


(2チームでも競わせてるのかも。考え方次第)


 エナミやラヴィアーナたちにしてみれば一貫性があったほうが助かる。なにせ、女王杯・夢のほうには当然としてデオ・ガイステがエントリして勝ちあがってきている。そちらの対策も必要なのだ。


「作戦も変わらなければ対策も有効なんですけどね」

 ジアーノが懸念を口にする。

「おそらく変えませんでしょう。ここまでの試合であのシフトは有効に機能しています。かなりの自信を持っているのはエナも私も同意見ですので」

「だとすればこちらの作戦も変わらないと?」

「ええ、フラワーダンス(うち)は相手に合わせて柔軟なシフトを組むチームです。汎用性を売りにしているのはパイロットのほうですからね」


 柔軟性の高い作戦を用いるフラワーダンス。対してラズ・ガイステは必勝パターンを作りだすタイプである。

 どちらが優秀か一概にはいえない。フラワーダンスが効率いいと見えてパイロットの作戦実行性に依存する。必勝パターンを持つチームはパイロット各々が作戦に慣れ、コマンド無しでスピーディーかつスムースにアドリブが効く利点もある。


「まずは様子見しますけど、対策シフトは変えません」

 エナミは断言する。

「ええ、お任せしますわ」

「もちろんさ。フラワーダンスの活かし方を一番知っているのは君だ。今、一番必要なものを知ってるのも」

「はい。できるだけスピーディーに終わらせたいです」


 話しているうちに両チームのコールは終わっている。試合開始に向けて盛りあがっていく場面である。


「まあ、言われてるほどじゃないけど、女子チームが女王座を奪われたのは社内でも問題視されてる。タイトルってのはやっぱり大きい」

 ラズ・ガイステのリーダー、バモンが煽りにくる。

「具体的に売れ行きの数字にも表れてくるようじゃ窮屈になるから、仇は討たせてもらおうか」

「どう考えるも結構。返り討ちにしてあげる」

「血気盛んだ。案外怖い。たまに交流戦するんだけど、うちの女性陣も目の色変えて襲ってくるからね」

 ライバル関係を吐露する。

「だったら、あたしたちの実力も推して知るべしでしょ? 嘗めて掛かっていい相手じゃなくない?」

「当然わかってる。そのつもりでいかせてもらう」

「じゃ、どちらが上か勝負ね」


 ビビアンがバモンとのオーソドックスなアバントークを済ませた。取って付けたようになってしまったのは初対戦だからである。言葉尻で相手の作戦を読むのは無理であろう。


「口ではああ言ってきたけど対策とってきてると思う?」

 チーム回線でビビアンが訊いてくる。

「研究はされてると思う。デオ・ガイステの意見も入れてるかな。でも、簡単に作戦に手を入れるタイプじゃないって考えてるからそのつもりでお願い」

「エナの言うとおり。あれはなんというか……、普通のチームじゃ対処に困る作戦だもんね」

「ええ、スピード感に撹乱されてしまう。でも、うちの常套手段でもあるでしょう? ということは?」

 逆に問い掛ける。

「あたしたちが一番勝手を知ってる。問題なくいなしてあげられるわ。そうでしょ?」

「承り」

「大丈夫ー」

「決めてやるにー」


(この試合はリィとウルの働き如何で決まる。ビビはちょっと重いけど、耐えてくれれば短時間で勝てるはず)


 エナミの立てた作戦は試合相手合わせのかなり大胆なものだった。

次回『クイーンの証(3)』 「どっかの誰かさんみたいにビームを斬ったり殴ったりできないんだもん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ