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四天王ナクラマー1(7)

 拳撃の反動を力点にするリクモン流空把下門撃(くうはかもんげき)。その名のとおり、ミュッセルの駆るヴァン・ブレイズが(くう)を掴んで放った一撃はフェレッツェンのルーメットの背中を叩いた。


「ぶふっ」

 衝撃はコクピットまで通っている。しかし……。

「レッツェ!」

「だよな」


 チェインの横薙ぎにミュッセルは飛び退く。踏みとどまれば下からの反撃もあり得る。油断はしていなかった。


「無事かい?」

「大丈夫、なんとか」

 息は苦しげながらも起きあがる。

「思ったほどじゃない」

「やっぱり、あんな無理やりな攻撃じゃ威力は大したことない。ダウン戦法はリクモン流の攻略法として有効だよ」

「当たりだぜ。空把下門撃(くうはかもんげき)そのものの威力はそんなにねえ。特に俺みてえな身体の小さいやつにはよ」


 まだ脳を揺すられた衝撃波から抜けていないフェレッツェン機を庇ってチェインが前に出る。下がれない相手を攻め立てて強引に踏み込むと、やむなく再び後ろへとダウンした。


「だから俺もあんまり使わなかった。慣れねえかんな」

 跳ねたヴァン・ブレイズがルーメットの胸に手を置く。

「でもよ、アームドスキンじゃ違うんだぜ」

「嘘っしょ! 待っ……!」

空把下門撃(くうはかもんげき)グラビノッツゼロ」


 半ば逆立ちの体勢で左拳を放って生みだした螺旋の応力が両肩を通っていく。そこにヴァン・ブレイズの全重量というパワーを積算させて。


「ぐぉはぁ!」


 仰向けのルーメット。その機体が地面に沈む。人型を模すようにリングに敷き詰められた人口土が舞いあがり土埃の中に消える。

 空調の風が土埃をさらっていくと大の字に寝転がったアームドスキンが残る。そのボディはピクリとも動かなかった。


「バイタルロストぉー! チェイン・ガーリラ撃沈!」

 リングアナがデモリナスに続いてチェインの撃墜(ノック)判定(ダウン)も宣言した。


 フェレッツェン機の前には彼のヴァン・ブレイズ。そして、ゆっくりとレギ・ソウルも近づいてきた。


「とんでもない坊やたちだね。ギブアップよ」

「賢明な判断です」

 グレオヌスが引き取る。


「ここで『ナクラマー1』がギブアップ宣言! チーム『ツインブレイカーズ』五回戦、準々決勝進出ぅー!」


 アリーナがドッと湧く。ミュッセルはグレオヌスと二度グータッチを交わすと腕を天に突き勝利を示した。


「どうだぁー! 強化した四天王だろうが怖くねえぜ!」

「それはフリになってしまわないかい、ミュウ?」


 興を削ぐグレオヌスの言葉にミュッセルはレギ・ソウルを小突いた。


   ◇      ◇      ◇


 場所に似つかわしくない、クロスファイトの試合中継映像の投影パネルが閉じられる。集中していたでもない視聴者もそれぞれの作業に戻った。

 責任者である彼スロト・スラダイトに隣の男が話し掛ける。補佐に置いている男だが、本当に補助的な役割しか与えられない無能である。


「あの性能、馬鹿にできませんな、所長?」

「以前よりわかっていたことだ」


 副所長を任じられている彼の言ったとおり、スロトはこの研究開発所の所長。類似した発明品に着目できていないようでは成り立たない。


「我らが開発中の資材より高性能な可能性があるのではありませんか?」

「否定はせん。が、開発者本人である小僧の言っていたとおり、製造には難があろう」

「ですな。それに比べて、あれの製品化がなされれば自由度は高いのは間違いありません。しかも、培養するだけで製造できますし」


 彼らが開発中の人工筋肉(・・・・)もかなりのパワーを秘めている。それも、宇宙空間のような真空中でも機能し、培養液に浸しておく必要などない。そのままで使用できるのだ。


「量産に向け、分化操作の解明を確実にすればいい」

「分化プロセスの解明と命令物質の生産が可能になれば安全な(・・・)生産および運用ができるようになります。そうなれば、二百年も前に発明されて我が社を潤してきた完全反磁性粉体関節など及びもつかない儲け頭になりましょう。なにしろ、駆動部を持つどんな機器にも転用可能なのです」

「言わずもがなだ。人類の生活は新たなステージへと変革される。その立役者になるのだ」

 副所長は「歴史に名が刻まれますな」と媚びを売ってくる。


(勝馬に乗ってくるつもりか? そうはいかん。貴様のような役立たずに譲ってやる名誉などない)

 表情を動かさず黙殺する。


 スロト所長は幾重にも施された透明金属板の向こうの研究対象(・・・・)を見た。


   ◇      ◇      ◇


「以上がマグナトラン社の調査状況です」

 副局長のアレン・アイザックが口頭で説明してきた。

「その研究所の副所長の男、核心研究に携わっているのですね?」

「はい、ユナミ局長。無論、普段は口を閉ざしておりますが、常連のバーでの妙な発言が記録に残っていました。調査と噛み合います」

「進めて」


 ユナミが促すとアレンは首肯した。計画書を彼女のブースへと転送してくる。


「ところで局長、エナミお嬢様の次の対戦相手はガイステニア社のワークスでしたかね?」

 世間話を振ってきた。

「ええ、男子チームの『ラズ・ガイステ』のほう。初対戦だと言ってました」

「あのメーカーとは因縁ですな」

「そうね。同じリミテッド。四天王に数えられるほどではないようですけど?」


 微妙な面持ちで伝えてきた孫娘のことを思う。ツインブレイカーズの試合状況のついでに訊いたのが気に入らなかったか。


(それでも、まめにミュウ君の近況を報告してくるあたりが微笑ましいけど)


 ユナミは思いだしてくすりと笑った。

次回『クイーンの証(1)』 (あれ? あたし、大人になっても選手やる気になってる)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 各方面の思惑様々。
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