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四天王ナクラマー1(6)

 デモリナスの剣はアゼルナン剣術として十分に練られているといえよう。速さはもちろん、鋭さもあるし剣筋も見事に立っている。心得のない人間が受け流しつづけるのは困難である。


(慣れなければの話だけどさ)

 グレオヌスには経験がある。父ブレアリウスの剣というお手本が身近にあった。


 剣筋が立っているということは力の方向が安定しているということ。鍛錬が足りていれば読むのも可能。

 剣筋のブレと違って本人に跳ね返ってしまう心配はないだけ。受け流す技術は剣闘技の中に含まれている。


(父の剣のような重さはない)

 ブレードスキンで流しつつ思う。

(あの未来への壁を斬り裂いて前に進む意思を感じさせるような重さは)


 子供の小さな身体には難関どころではなかった。だが、身体ができあがりつつある今ならわかる。身に染み付いた流しや抜きの技術はおそらく命絶える瞬間まで彼を助けるであろうことが。


「鳴り物入りで参入してきた頃はまだ実戦臭さしかなかったが試合慣れしてきたか」

 デモリナスが評する。

「あなたも傭兵上がりでしたね。武器を制限されるスタイルを掴むのに時間が掛かりました。ビームランチャーを持たない左手が寂しくて」

「あくまでストロングスタイルか」

「僕のベースは変わりません。接近戦にこそ真価を発揮するアームドスキン乗りになにが必要かは言わずもがな」

 剣闘技も不可欠と考えている。

「魅せる剣技を堕落と思うか?」

「一撃必殺なんて力量差があってのこと。受けにまわられると行き詰まるなんて愚かです。組み立てる力、それと剣に語らせる力がなければ」

「語ってみせよ」


 最終的にはそこに行き着く。デモリナスはクロスファイトをショービジネスと考えて魅せる技に特化したようだ。それが彼の剣闘技の形で、アゼルナン剣術の生き残る術と据えたのだろう。

 しかし、グレオヌスの考えは違う。剣がなにも語らねば観客を熱狂させることも適うまい。意味持つ剣こそ魅力を孕むと思っている。


「違いますよ。語るのは剣同士なのです」

「…………」


 理解は得られないらしい。戦役を経て、星間管理局統制下の本国(アゼルナ)は道を失ったと捉えたか。種族の誇りを取り戻そうと必死に模索した結果が今と思っているようだ。


(誇りなんていらない。必要なのは、圧倒的多数の人類種(サピエンテクス)の中にあっても自分を見失わないで融和姿勢を保てる信念なのに)


 種族の壁が戦争を生み、また種族の壁に抗おうとしている。人の中にあって人であればいい。そんなに難しいことだろうか。


「僕はあなたと戦って結果を出すことはできる。でも、あなたの壁を壊せるのは僕ではないんですよ」

「外見はそう寛容ではない」


(それを強調しているのはあなたなのに)

 悲しい現実。


 唸るグレオヌスのブレードが左の剣に受けられる。しかし、それでは止められない。右の剣まで動員して防ごうとするも拮抗を作れたのは一瞬だけ。


「くうぅ」

「はっ!」


 右下から逆袈裟に振り抜いた一撃はデモリナスの両のブレードを弾きあげている。そこには開いた胴体が残されていた。


「ふん!」


 上空でひるがえったブレードは勢いよく右の肩口へ。綺麗にルーメットを両断するように駆け抜けた。


「改修型ルーメットをしても敵わないか」

 クロスファイトプログラムに従い機動停止するデモリナス機。

「どうしてそうまで強い。機体性能で大きく劣っているとは思えないのに」

「勝ちたいからです。勝って認められたい。僕のこの外見などわずかの躊躇もなく受け止めてくれた大切な友人のために。その思いが原動力です」

「そうか。お前たちは……」


 身体能力の差など取るに足らないこと。彼が感じている壁などないのだ。それを教えてくれた相棒がいる。


 グレオヌスは撃墜(ノック)判定(ダウン)のコールを耳に、親友に思いを馳せた。


   ◇      ◇      ◇


「ないない。物理的に不可能じゃないか、重力波(グラビティ)フィンを使わなければ」

 チェインが一言(いちげん)に否定する。

「ブラフさ」

「試してみろよ。ねえと思うんなら寝っ転がってりゃいい」

「美少女の顔で言われるとそそるんだけど遠慮しておこうかな」


 下品な冗談まで交えてくる。ミュッセルはそれを不安の表れと受け取った。


「んじゃ、転がす」

「やってみせてよ!」


 黙っていたフェレッツェンが撃発する。静かだったのは腹を立てていたかららしい。長広舌は好みではなかったか。


(どっちでもいいけどよ)


 変幻自在の曲線を描くブレードが襲ってくる。戦気眼(せんきがん)に見慣れない軌道の金線を感じておかしさが込みあげるが鼻息に抜いた。

 手首に指を掛けてひねる。ジェルシリンダであれば硬さから各部に負荷が増大するのみなのだが、イオンスリーブの緩衝性能がルーメットを踊らせる。まるで人体のようにひるがえって前のめりに転んだ。


「リクモン流空把下門撃(くうはかもんげき)


 左の掌底を背中に添える。そして、右の拳で宙を打った。ほぼ絶風(ぜっぷう)の音速を超えんばかりの拳だ。その反動は十分にあり、コークスクリューで生みだした螺旋の応力は腕から腕へと伝わって相手に注ぎ込まれる。


「な?」

「ぶっ!」


 確かめるまでもなく、ミュッセルのリクモン流打撃はフェレッツェンを叩いていた。 

次回『ハードウェイ(8)』 「思ったほどじゃない」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 流派の意地?
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