四天王ナクラマー1(5)
(なんだ?)
ミュッセルは不審に感じる。
(妙に気持ちよく下がりやがるな。どういうつもりだ?)
連続突きを迎撃して一気に踏み込む。ところが、チェイン・ガーリラのルーメットは即座にステップアウトして間合いの外へ。フェレッツェン・ケインタランの機体も傍にいるので追撃までは難しいが、連携するには薄い気がする。
(時間稼ぎか? そんな馬鹿はねえな)
グレオヌスと対峙しているのはデモリナス・ハーザの一機だけ。
(奴が単機でグレイを落とせると思ってんのか? そいつは甘いどころじゃねえ)
あり得ないだろう。楽観的すぎる目算を立てるようでは、いつまでもリミテッドでいられるわけもない。二機をこちらに振り向けてきた以上、彼を落としに来ているはずだった。
「持久戦とかいわねえよな、大将?」
「それも考えたんだけどさぁ、君らを見てると底無しのスタミナがありそうで怖いんだ」
嘘ではなかろう。持久戦にしても穴だらけである。
(仕掛けてみっか)
両機をうかがいつつ考える。
前後からの同時攻撃。背後のフェレッツェンの斬撃は単発なので、そこに攻略点がありそうな気がする。しかし、ミュッセルはあえてチェインに向かっていった。突きの連射をブレードナックルで相殺し、密着するほど踏み込む。
「っとぉ!」
「お!」
今度はステップアウトするだけに収まらなかった。十分な距離が取れないと判断したのか、ルーメットを後ろ向きに転倒させる。仰向けのままブレードを指し向けてきた。
「なんの真似だ、そいつは?」
「なにもかにもないさ。紅の破壊者対策だよ」
輪をかけた不審感で足を止めたので背後からの斬撃に対処する。その間にチェインは起きあがっていた。そのくり返しをするつもりだろうか。
(仰向けに寝っ転がるのが俺対策だと?)
奇妙な話だった。
試しに反転してフェレッツェンに矛先を向ける。攻撃を弾きながら間合いを詰めていくと彼女も後ろ向きに転倒して避けてきた。やはりチェインが迫ってきたので追撃には及ばない。
「こんなん、くり返すのか?」
「君の一撃必殺の技をすり抜けようとすると、これが有効だと思ってねぇ」
つまり、地に伏す姿勢を烈波や絶風はもちろん、リクモン流の最大威力の攻撃を避ける方法だと考えている。確かに芯を作らねば使えない攻撃は立ち技として水平より上、主に斜め上方向にしか放ってこなかった。
(そこにしか出せねえって思わせちまったか)
あまり見せてこなかったが別の方法もある。
二機からの斬撃を捌きながら機をうかがう。鋭い蹴撃でフェレッツェン機を跳ね飛ばし、背後からの攻撃はブレードスキンで受け止めながら振り向き、右拳を溜めながら踏み込んだ。
チェイン機はすかさず後ろ向きに転倒して足を向けてくる。飛び乗るように拳を落とすが転がって躱した。さらに踏み込み、掌底を当てて重力波フィンを発生させる。
「いただけないねぇ」
チェインは大胆に転がって機体を逃がすと跳ね起きる。重力波フィンによる重力場を力軸にしたリクモン流の攻撃も想定に入っているらしい。
「それも前に見させてもらってる」
「喰らう気はねえってか?」
「無論さ。なにより一番躱しやすい。重力波フィンを展開するって予備動作が必要だよね? だから、このダウン戦法は通用するって判断して作戦に組み込んだんだよ」
ミュッセル対策として十分に練られた戦法のつもりだという。ダウン戦法を取るかぎりリクモン流の決定打は受けない。ノックダウンさせられずにブレードで攻めつづければ、一撃でも入れば自分たちの勝ちという寸法なのだ。
「なるほど」
「理に適ってるだろう? 今後、君の対策として主流になるんじゃないかと思ってるんだけどさぁ」
「立ち技相手なら悪くはねえな」
二機を前において足場を整えながら間合いを取る。構えも警戒も解かないまま睨みつけた。
「あきらめた?」
勝ち誇った言葉が届く。
「しゃーねえ。教えてやろう」
「この期に及んでなにを?」
「リクモン流がなんでリクモン流っていうかをな」
リクモン流そのものが門戸が狭く世に知られていない。なので、その名前の由来なんて門下以外は誰も知らないと思われる。門下生でさえ、ある程度の技術を修めなければ由来の意味を理解もできないはずだ。
「リクモン流は六つの門を表してんだ」
由来を開陳する。
「人名じゃなかったのか」
「おう、開祖の名前じゃねえ。教えを示す道でもねえ。武道じゃねえから六つも教えなんてねえ。ただ、六つの門、攻撃門があるだけだ」
「攻撃門?」
造語の域だから知るはずもない。
「リクモン流打撃には力点から作用点に至る芯が要る。主に力点は床に置くから、作用点はどうしても水平面から上に向くな。お前の推理は正しい」
「だろう? 完全な攻略法だよ」
「んで、話を戻す。六つの門ってのは上向きの上門、前向きの前門、後ろの後門、左右の右門左門」
一つひとつ挙げていく。チェインとフェレッツェンは警戒しながらも聞く気になっている様子。
「攻撃門ってのはつまりその方向へ開く門だ。ここまで五つだよな?」
「ちょっと待ってよ、ミュウ君。まさか、違うよねぇ?」
「リクモン流には下門も存在するって言ったらどうするよ」
ミュッセルが言葉で突きつけるとチェインたちは動揺していた。
次回『ハードウェイ(7)』 「魅せる剣技を堕落と思うか?」