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四天王ナクラマー1(4)

 障害物(スティープル)の隙間を引っ掻くようにブレードが走る。グレオヌスはあきらめてレギ・ソウルを後退させた。嫌でも相手しろとデモリナスは言いたいらしい。


アゼルナ人(アゼルナン)は未だに誇りを糧にしているのだろうか? 星間管理局の配慮でスムースな経済復興ができたというのに)

 配慮というのは良い表現で、つまりはお目溢しである。

(悪名を轟かせながらも、母星文化を尊重するのならば同じ轍を踏む者が出てくるかもしれない。戦闘能力の高さで重宝されているが次はもうない。今度騒ぎを起こせば、国家解体をせねば種族の存続も危ぶまれように)


 二十五年という時は古い因習を流し去るには足りないか。そう考えると悲しくもある。同郷の戦士の言葉には拭いきれない文化の色が残っていた。


「あなたはなにを思ってここにいますか?」

 問い掛けてみる。

「求められたからだ。傭兵協会(ソルジャーズユニオン)にいた俺をナクラマーがスカウトした。力を買われたのならば意義もある」

「あなたの年齢(とし)ならば、戦後の厳しい時期も知っているはずです」

「ああ、偏見は強かった。同年代の中には捲土重来を願う者もいる。しかし、それでは生きてはいけまい。ならば力の継承者として道を歩むべきだと思う」


 デモリナスの剣は鋭く速い。閃光剣の異名を持つだけはある。グレオヌスは中途半端に合わせていくのは避け、間合いの取れる場所を模索した。

 出力を制限された力場刃(ブレード)はスティープルの鋼材を舐めるだけで振り抜ける。しかし、一度阻害された力場は再構成に少々タイムラグがある。手練れ相手では少しの時間でも短い剣で対峙するのはリスクを伴う。


「力は道具……、いえ技法でしかありませんか」

 落胆が含まれてしまう。

「他になにがある?」

「願いを乗せるのも可能だと思っています。例えば、アゼルナンだけのものではなく、星間銀河の秩序維持に貢献できる用いようはないかとは?」

「考えたこともない。力に優劣はあろうとも貴賤はない。技法以外のなにものでもないだろう」


 スティープルの間隔が広い場所へと誘導を果たし、緩く下段に構える。まだ会話に応える意思は見受けられた。


「父のやることに意味はないと?」

 やや婉曲だがそういうことだと言われた気がした。

「ザザの狼は尊敬に値する。愛国とはいかなくとも防波堤にはなってくれている。御仁の活躍がアゼルナンの威信回復に寄与しているのは認めよう」

「それは父の意図するものではありません。曲解です」

「どう思おうが、現実にそう作用している」


 跳ねてきた一閃を14mもの刃に乗せる。流して剣先を返すも、そのときには下がって間合いを取り直している。


(確かに巧い。剣闘技の深みを知っている人の技だ)

 グレオヌスはそう感じた。

(ただし、乗っているものがない。軽さを感じるのはその所為かも)


「だったら、僕が違う力をお見せしましょう」

 左拳を突きだして前後に足を広げる。

「受けて立とう」

「理念の剣の重さを味わってください」

「承知」

 右手の剣は肩の上で寝かせて相手を刺し貫かんばかり。


 対するデモリナスもそれまでとは違う動きを見せる。ヒップガードに動いた左手はもう一本のブレードグリップを抜いた。


「普段は味方をも近づけられないゆえ使わないのだがな」

「ええ、本気でなければ僕は抑えられませんよ」


 双剣を構える相手にも体勢は変えない。グレオヌスは自分のスタイルを磨いてきたからだ。そこに意思を乗せる方法も知っている。


「いざ」

「まいる」


 やはり左手を取りにくる。地を巻いてくる相手の左のブレードは機体を伸びあがらせて手首を打って止めた。

 同時に右の剣先は首筋へと一直線に走る。右のブレードで打ち払おうとするも、刃先を滑った剣身は頭部のすぐ横を通り過ぎていた。


「むぅ?」

「重いでしょう? この構えからの攻撃は全てが一擲(いってき)なのですよ」


 その一撃でさえミュッセルは払い除けて踏み込んできた。体技の巧みさと信じるものの強さが実現している。狭い常識に囚われたままの剣技に劣りはしない。


「受けきれるのであれば、アゼルナンの常識もまだ捨てたものではないと認めましょう」

「二言はないな?」


 左のブレードも併せて跳ね除けるデモリナス。長剣タイプの間合いの内側に入ったつもりであろう。しかし、そこも彼の間合いであった。


「ふっ!」

「なに!?」


 放った拳をグリップエンドで叩き落としに掛かる。しかし、左の拳は上からの打撃を弾き飛ばして真っ直ぐに進んだ。リクモン流の重心操作も取り入れた一撃なのである。


「がっ!」

「効くでしょう? そして、そこも僕の間合いです」

「んぐぅ!」


 ひるがえったグレオヌスのブレードが瞬速の斬撃を大上段から落とす。狼頭を持つ戦士は咄嗟に両手の剣身をクロスさせて必死で防いだ。両手の剣を自由にさせはしない。


(誤算だろうね。本当ならもっと優位に事を運べていた。援護を含めて戦ってきたんだろうし)

 心理を読む。

(ところが、枠はもう壊れているんだよ。アームドスキンは強化できても、チームごと常識を変えられなかったのは四天王として疎かだったとしかいえないな)


 グレオヌスは剣を引いて再び構えに戻った。

次回『ハードウェイ(6)』 「なにもかにもないさ。紅の破壊者対策だよ」

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