四天王ナクラマー1(3)
ナクラマー1の前衛は射線を空けていたつもりなのだろうが、ミュッセルたちにとっては道でしかない。反転から即座に疾走に移った二人をチェイン含めた三機は追える体勢になかった。
(コマンダーは型にはめた気でいやがったな。いや……)
それほど単純でもないかと思いなおす。
(同士討ちは怖えから下手に裏を固めるのを嫌ったか。かといって、抑え役を孤立させるのも俺たちには通用しねえのがわかってっか)
結果的にツインブレイカーズを半包囲しつつ狙撃の的にする選択をした。ブラインドを挟みつつであれば効果的だと考える。ミュッセルとグレオヌスがそれを苦にしなかっただけの話。
「退避だ、チマ!」
リーダーは慌てている。
「やはり狙いにくるか。了解だ」
「予定どおりスライド作戦実行」
チームメンバーもコマンダーも二人を研究している。どういう状況下でどう動くか。それも想定していたのだろう。おそらく相対位置をキープしつつ、同じ戦術をくり返す戦略である。
「想定が甘えんだよ」
「げ!」
疾走に入ったヴァン・ブレイズとレギ・ソウルはナクラマー1のルーメットを置き去りにする。逆に後衛の二機は距離を詰められる道理だ。
「スティープルに逃げ込んで上手く躱す気だったんだろうがよ、そんな時間はくれてやらねえ」
「計算ミスだったな」
グレオヌスはチマ機へ、ミュッセルはシーヴァ機へと迫る。わずかにスティープルエリアへと逃げることには成功したが、彼らはその程度では止まらない。
「少しくらいノックバックしろ」
「希望的観測に期待するようでは負けが決まってしまいますよ」
チマの砲撃をレギ・ソウルはブレードガードしている。無闇に跳ねず、小刻みな足運びで受けているのでまったくノックバックしない。
やむを得ない連射で遠ざけようとするもゲージが限界を迎える。ビームインターバルに入った砲撃手など丸裸も同然。
「くうぅ!」
「スピード感を読み違えるとは、フラワーダンス戦と同じ過ちをしています」
グレオヌスのブレードはビームランチャーを舐める。接触判定で使用停止させられたランチャーは意味を失った。仕方なく放り捨てて拳を固めるも狼頭の少年相手に通用するはずもなく。
「ノックダウぅーン! ここでチマ・ドゴイネスが脱落だぁー!」
機械判定をリングアナが伝達する。
彼の二つ名である「ショットガン」を利用してシーヴァ機はいち早くスティープルに潜っていた。それは一瞬で照準を散らしながら三、四射のビームを放つ技法だ。
大きく避けるしか回避法のない連射がミュッセルの足を遅らせたのである。シーヴァはどうにか逃げおおせたと思っただろう。
(オープンスペースで見せると本気で逃げに掛かりやがるだろうからよ)
彼は意図的に遅らせたのだ。
障害物エリアだとさすがの砲撃手も速度が落ちる。例えリミテッドの凄腕であろうが限度はあるのだ。
ミュッセルはそれを逆手に取る。スティープルを縫い、ときに殴りつつ強引な転進をするヴァン・ブレイズは速度を落とさない。
「馬鹿な真似を!」
「誰が馬鹿だ、こんにゃろー」
砲口が向けられる。ブレたかに見えた筒先からビームが放たれ面攻撃を加えてくる。だが、彼は拳で応じた。
ブレードナックルで全てを叩き潰し迫る。そうなるとヒートゲージ管理などできない。制限なく連射を重ねたシーヴァ機はビームインターバルに。
「おしまいだ。喰らいやがれ」
「はぅっ!」
殴りつけようとするビームランチャーの砲身を掴むと下から銃床を掌底で叩いた。跳ねたグリップがルーメットの顔面を強打して半壊させる。
旋回した真紅のアームドスキンは軸足から蹴り足まで綺麗に芯を通す。リクモン流のキックがハッチに直撃すると機体が浮いた。
「かふぉっ!」
肺の中の空気を全部吐きださせる。
「うらうらぁー!」
「が! ご! ぎ!」
三連蹴撃で横っ飛びしたアームドスキンはプレート型スティープルに叩きつけられた。それで意識を保っていられるタフなパイロットはいるまい。
「またもノックダウーン! 今度はシーヴァ・モモイネンが落ちたぁー! ナクラマー1、バックを剥ぎ取られるぅー!」
合流してきたレギ・ソウルと軽くハイタッチ。目論見どおりの状態である。
「じゃあ、落ち着いてトップチームと腕比べといこうか」
「おう、余計な邪魔は入んねえから思う存分だぜ」
ようやく追いついてきたナクラマー1の前衛陣。判定は伝わっていたはずだが、現実を見るのはメンタルに来るらしい。
「よくもやってくれたものだ」
デモリナスが怒気を孕む声音で言ってくる。
「しゃーねーだろ? これも作戦ってやつだ」
「確かにねぇ。でも、面白くはないものだよ」
「仇は討ってあげるから休んでいてね、二人とも」
後衛を失えば普通は戦術崩壊である。コマンダーは仕事ができなくなる。しかし、相手がツインブレイカーズなら別と考えてもおかしくはない。なにせ、それでも数的有利は確保している。
「狼野郎はグレイに任すとして、チェインとフェレッツェン、どっちが俺とやる気なんだ? どっちでもかまわないぜ?」
「遠慮するなよ。ちゃんと二人で相手してあげるからさぁ!」
ミュッセルは獰猛な笑みを浮かべて迎え撃った。
次回『ハードウェイ(5)』 「父のやることに意味はないと?」