四天王ナクラマー1(2)
ブレードの切っ先を地にこすらせつつ轟然と突進するレギ・ソウル。それに動揺してくれるほどヌルいチームなら苦労はない。
(どう出る?)
ミュッセルはヴァン・ブレイズをやや遅らせて追従させている。
デモリナスが受けてその他の剣士が絞りに来るなら分断策。三機が広がって射線を空けてくるなら包囲策。彼まで迎撃に来るならオープンスペースで真正面から受けて立つ構え。
(下がるだと?)
狼頭剣士は動かず、両サイドのチェインとフェレッツェンは一歩引いている。むしろ、向こうのほうがミュッセルの出方をうかがっているかの如く。
(どれでもねえ。なに狙ってやがる?)
横に飛びだしてデモリナスに側撃を掛けて一気に落としにいくか。サイドのフォローを潰しにいくか。あるいは、もう一つ。
(んじゃ、抜いてやろうじゃん)
前衛を無視して後衛を攻めにいく。もし、成功すると勝負は早い。援護を失った前衛は彼らとパイロットスキルのみを競うしかなくなる。
(願ったり叶ったりだぜ)
グレオヌスがデモリナスのルーメットと斬り結んだ脇をターンしてすり抜けようとする。ところが、その動きを見てヴァン・ブレイズの前にはチェインが詰めに来た。
あからさまな突きのバックモーションから連撃が来る。ブレードナックルを装備していたミュッセルは全てを拳で打ち返す。
「それは欲張り過ぎだね」
「行かせらんねえってか?」
行き足の緩んだところへフェレッツェンも仕掛けてきた。ぬるりと動くブレードの切っ先が死角へと忍び込もうとしている。幻惑されず、出元の手首を刈って逸らす。
「うげ」
瞬時に二機を割ってその向こうへ前飛び込みをする。地面で前転してすぐさま振り返る。
「グレイ?」
「すまない。まさか斬り結んだ状態から下がるとは思わなかった」
レギ・ソウルの機体情報と戦気眼の金線で背後からの斬撃を予測した彼は転がって逃げるしかなかった。それは当然、相棒とマッチアップしていたはずのデモリナスの攻撃。
「これが目論見か?」
「いや、違う。単なる偶然みたいだ」
追撃するグレオヌスの斬撃を大きく避けてフェレッツェン機の隣へと位置を変える狼頭の剣士。ヴァン・ブレイズとレギ・ソウルは合流を果たすも横殴りのビームの雨が浴びせられた。
「分断でも包囲でもねえ。こいつはなんだ?」
「読めないな。スペースに固執する気もなさそうだし」
ビームを一部弾き飛ばした彼らは砲撃手を狙って駆けだす。そこへ三機の剣士が並走する気配を見せてきた。狙撃はじきに止むと思っていい。
(釣られてるってほどじゃねえ)
後衛を餌にしているふうはない。実際、前衛のチェインたちは射線を阻害するにも関わらず、間に機体を入れてきている。砲撃手も障害物を遮蔽物にしつつも、その奥へ逃げようとはしていない。
「すごくセオリーどおりな戦型に持っていこうとしてるかい?」
「それにしちゃトップの当たりが弱えじゃん」
剣士の攻撃に合わせて隙を突いた、あるいはブラインドを使った狙撃で決めようとするには仕掛けが弱い。誘いのポイントが見えず、動かされている感覚は気持ちが悪かった。
「ナクラマー1のコマンダーはなにを狙ってるんだろう?」
「見えね。様子見は面白くねえな」
当たりに来ないなら自ら当たりにいく。並走するチェインたちに一気に接近すると連続突きが襲ってきた。低く躱して抜きにいくとデモリナスが上段からブレードを落としてくる。
「はっきりしねえな」
間合いを詰めて右手を踊らせる。手首同士を絡めて巻き落とし、機体を旋回させながら芯を作る。弾丸の如く打ちだした足刀はルーメットの顔面を捉えた。
受けた左手ごと打ち抜いた分だけダメージは抑えられたか。体勢が完全に崩れたところへグレオヌスが忍び込む。下から跳ねたブレードはフェレッツェンが身を挺して止めに入った。
「少しでも隙間を与えると痛烈なのもらっちゃうねぇ」
「受け流しに徹してるつもりだろうが、俺たちはそんなん貫いちまうぜ?」
「もういいよ。なんとか準備はできたみたいだからさぁ」
「はん。スティープル挟めればスペースを殺せるとでも思ってんのか?」
並走しつつスティープルエリアに走り込んでいる。彼もグレオヌスも気づいてはいたが、その意味まで解していない。どうやらナクラマー1のコマンダーはこの戦型に持ち込みたかったらしいが。
(稼いだ時間でせっせとスティープル配置の解析に励んでいたか? そのためにチェインにヌルい仕掛けをさせてたのか)
だとすれば、ここからが本番。若干の既視感がミュッセルの琴線に触れる。スティープルを縫いつつ走りつづける状態はあまりに似ていた。
「もしかして高速機動戦をやろうってのか?」
「最近では唯一、君たちに土を付けた戦術だからねぇ。改修型ルーメットと僕たちのテクがあれば、もっと濃密な戦闘になるだろうさ」
「そうかよ。なるほどな」
砲撃手二機は大きく動かずセンタースペースに残って狙撃に徹する様子。前衛の三機がスティープルを利用しながら彼ら二人の機動力を殺す気なのだろう。そこに勝機を作る作戦。
ミュッセルはルーメット三機を前にほくそ笑んだ。
次回『ハードウェイ(4)』 「希望的観測に期待するようでは負けが決まってしまいますよ」