四天王ナクラマー1(1)
「第一試合を勝ち抜いたチーム『ゾニカル・カスタム』の次に登場する四天王はチーム『ナクラマー1』! 使用機体は『ルーメット』!」
ツインブレイカーズのコール終了に続き、代わって北サイドからリミテッドクラスのチームが入場してくる。ナクラマー社のクロスファイト仕様に薄紫色に彩色された五機のアームドスキンはアリーナの声援に応えつつ歩いてきた。
「やあやあ、ありがとう。愛してるよ、君たち」
先頭の機体はファンの女の子たちに投げキスまでしている。
「さっさと進め。あとが詰まる」
「そう言わないんだよ、ディーモ。これも人気商売さ」
「人気で強くなれれば苦労はない」
「応援の声が最後の一押しになるだろう?」
あいもかわらず軽いリーダーである。これで実力も軽ければ気にするまでもないのだが、剣士としての技量はクロスファイトでも二番か三番目に数えられるのだからタチが悪い。
「おなじみリーダーは『烈風剣』チェイン・ガーリラ選手ー!」
跳ねるように飛びだしてカメラドローンの前でサービスしている。
「続くは『閃光剣』デモリナス・ハーザ選手ー! そして紅一点『巧妙剣』フェレッツェン・ケインタラン選手ー!」
(3トップの剣士が揃って曲もんだからよ)
ミュッセルはルーメットの挙動を観察してパイロットとの馴染み具合を量る。
(普通に考えっと頭数揃えねえと対抗できねえ。ビビたちはよくもこんな連中陥落させたな。エナの誘導の上手さと、まだショートレンジシューターに不慣れだったところを利用したってとこか)
「後衛を締めるは『ミスターピンポイント』チマ・ドゴイネン選手ー! 加えて隙無し『ショットガン』シーヴァ・モモイネン選手ー!」
編成に変更はないように見える。後衛二人が走りださない保証はないが特にそんな気配はない。
「こうやって向き合うと、スッカスカで拍子抜けするってね」
チェインが指さしてくる。
「こいつが穴に見えんなら、てめぇの目こそ節穴だぜ?」
「もっちろーん、わかってるさぁ。あのテンパリングスターやゾニカル・カスタムに煮え湯を飲ませたんだからねぇ。ほんと愉快」
「余裕こいてっと泣かしてやんぞ。泣く前に昇天してっかもしんねえがよ」
頭のあたりで指をくるくる回してみせる。
「ま、ビームランチャーにコンバートしてこなかったとこは買ってやる」
「まっさかぁ。慣れないことしたって失敗するのがオチってね。可愛い子ちゃんたちに格好悪いとこ見せらんないよ」
「そうかよ。んじゃ、その可愛い子ちゃんたちに慰めてもらえよ。ぼくちゃん、負けちゃったってな」
軽佻な男ではあるが好悪の念はない。チェイン自身、天才と自負しているものの努力の跡はうかがえる。チームスタイルの継続には迷いもあっただろう。
「強気だねぇ。意地の強さじゃ君に敵うものはいないだろうさ」
挑発をスルーするのは自信の表れである。
「意地だけじゃねえと思い知れ」
「そう簡単ではあるまいよ」
「お、珍しく口出しすんのか?」
口を挟んできたのはアゼルナンの剣士である。
「少し残念に思っただけだ。自分は栄えある武門、アーフ家の者が参戦してきて心躍った。だが彼の剣を見るに、アーフの剣は断絶したのだと失望した」
「おや、そう見えましたか」
「貴殿のそれはアゼルナンの剣ではない」
これは挑発ではなかろう。デモリナスの声音は心からの失意を含んでいたからだ。
「父はアーフの剣を継いでいません。手ほどきを受けられる環境ではなかった」
相棒も珍しく過去を語る。
「ですが、相伝書の類は全て目を通したそうです。時間だけは幾らでもあったそうなので。その理由は伝統を重んじるあなたこそよく知っているでしょう」
「未だに改めたとはいえぬ悪癖ではあるが過ちは認めよう」
「僕は伝統などどうでもよく、実利のみを重視しました。その結果がこれです。父から受け継いだのは剣ではなく広い世界を見る目でした。劣っているとは思ってませんよ」
堂々としたものである。
「理解した。証明してくれ」
「喜んで。事情が許す範囲で、ですけど」
「うむ」
通信パネル内のグレオヌスの面持ちに怒りはない。以前デードリッテから聞いた家の事情は、彼の中に一点の曇りも落としていないのだろう。
「いけるな?」
「無論さ」
リンクで話す声はさっぱりとしたものだ。
「こいつらがなに仕掛けてくるかわかんねえ。これまでの傾向だとオープン系、分断系、包囲系ってとこだ。どれもぶっ壊してきたけどな。攻撃的スタイルからすっと分断系が濃厚か?」
「デモリナス選手が名指しで挑んできた以上、マッチアップを目論んだ分断系が確率高いかもな。でも、後衛がストレートなのはちょっと弱い気もする」
「だよな。分断に一工夫いる。マッチアップしくじれば即崩れんぞ。それほど単純な連中がリミテッド掲げてられっか。無理だよな」
一癖二癖あると思ったほうがいい。
「アドリブで受けに行くかい?」
「たまには突っ込んでみっか? お前との手合わせを熱望してるみてえだかんよ」
「威力偵察か。なるほど。悪くない」
「お互い、にらみ合いだー! 機は満ちたようです! それでは、ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」
リングアナが開始を告げる。
ミュッセルが手を振ると同時にグレオヌスはレギ・ソウルをダッシュさせた。
次回『ハードウェイ(3)』 「それは欲張り過ぎだね」