不運の本選
炎星杯開催から二週間。フラワーダンス、ツインブレイカーズともに再抽選となる三回戦までを終えて本トーナメントへと進出している。
「当たるとしても、また決勝なのね」
ビビアンは発表されたトーナメント表を映しだす。
「きっちり準備しとけよ? 次は絶対に負けねえ」
「そんな呑気なこと言ってていいの? あんたのブロック、四天王のうち3チーム入ってんじゃない。決勝まで苦しすぎない?」
「こっちに固まったのは計算外だけど、残るのは予想されてたしさ」
グレオヌスは涼しい顔。
テンパリングスターはじめ、ナクラマー1、ゾニカル・カスタム、フローデア・メクスの四天王チームは当然とばかりに勝ち残っている。企業力もあり、チーム運営にも熱心なメーカーは即座にイオンスリーブを搭載してきた。
逆に投資できず炎星杯を回避したワークスチームも少なくない。カスタマーチームやプライベーターに至ってはさらに輪を掛ける。その所為で今回はシード枠が多かった有り様である。
「残ってんのは大体見知った顔か。大手のパワーゲームが戻ってきちまったな」
シーズン通算獲得ポイント上位陣が顔を並べる。
「そう簡単には変わらないわよ。桜華杯が異常だったの」
「勝敗に関してはの話よ、ビビ。試合内容はミュウ好みに染められちゃってるじゃない。それこそパワーゲーム」
「やっぱりイオンスリーブ非搭載機では押し負けてしまうみたい」
サリエリとエナミがここまでの試合内容を分析する。
「スキルがあってだかんな。振りまわされずに使いこなしてる奴らが来てる」
「新参では、うちとギャザリングフォースくらいのものだな。あとは調整が上手くて試合慣れしてる古参チームが強い」
「ええ、整備士、パイロットともに腕のいい連中だけ」
レイミンも賛同する。
めっきり作戦会議と情報交換の場と化した公務官学校のカフェテリアのテーブル。銘々がランチを口にしながら状況分析する。
「それに、厳しいのは僕らだけじゃないしさ」
グレオヌスが別のパネルを立ちあげる。
「フラワーダンスは明日から女王杯・夢も開催される。スケジュールがタイトすぎないかい?」
「そっちはなんとか。試合数少なくて準決六回戦までには決まるから。乗り越えれば決勝には調整効く。もし、あたしたちがそっちの組だったら確実にアウトだったわ」
「特にエナが」
レイミンの視線を受けてエナミの目から光が消える。
「四天王チーム対策を毎週やるとか、私死んじゃう」
「エナが過労で倒れないよう、女王杯はできるだけ速攻で勝つ」
「勝つー」
ウルジーが平板な声音で力こぶを作る。
あながち強がりではない。彼女ビビアンはショートレンジシューターを完全に掴んでいるし、ユーリィも双剣が様になってきた。
サリエリとレイミンは接近しての打撃戦もできるようになったし、なによりウルジーの強化が大きい。単独撃破が可能になった以上、両トーナメント制覇も夢ではないと思っている。
「俺も最大の敵の年度末試験を撃破してやったかんな。集中できんぜ」
「そこでつまづくのはあんただけよ」
お陰でエナミはずっと忙しかった。
「補講に引っ張られるようだったら炎星杯辞退もあったから必死だったな」
「言うんじゃねえ。ちっとは余裕あったろ?」
「微妙」
女子全員で囃し立てると美少女顔が歪む。撮影の仕事など入れなかったら勉強時間に割けたものを自ら買ってでたのである。喜んだのは星間管理局興行部だけだろう。
「まず四回戦で当たんのは『ナクラマー1』か。四天王の中じゃ平均的なとこだな」
ツインブレイカーズの次の対戦相手である。
「デモリナス選手と対戦するのは楽しみかな。ハーザ家はわりと伝統ある武家なんだ」
「そうだった。お前とおんなじアゼルナ人がいるんだったな」
「翠華杯じゃビビ相手に遅れを取ったけど、今では砲撃戦に弱いって印象はないかも。ましてや砲撃手のいないツインブレイカーズだと重ための前衛だと思う」
エナミはすでに四天王を予習済みらしい。
「改修型ルーメットもいい具合にイオンスリーブと馴染んでやがんな」
「穴を期待するのは難しいかい?」
「追従良くなって生き生きしてやがる。反射神経の化けもんみてえな獣人種は合うと手が付けられねえ」
三回戦までの試合映像を観察していたミュッセルは難しい顔。四天王クラスとなると他の前衛も侮れない以上、グレオヌスを抑えられるのは痛いと感じているようだ。
「いきなり難関じゃない。大丈夫なんでしょうね?」
目標が失われるのはモチベーションに関わる。
「あー……。ま、なんとかなんだろ。ゾニカル・カスタムと違って初対戦だからな。俺たちの当たりの強さを知らねえ連中だ」
「あのね。翠華杯でゾニカル・カスタムを下してるのがナクラマー1じゃないの。危機感持ちなさいよ」
「それ言いだしたら、どこの四天王チームもお互い潰し合ってんだよ。どこが飛び抜けて強ぇってわけじゃねえじゃん」
楽観的だが一理ある。
「その横並びのトップチームに勝たなきゃ決勝まで行けないの。しっかりなさい」
「わかったって。撫で斬りにしてやんぜ」
「ブレードもなしに?」
「冷静にツッコむなよ、エナ」
彼女に揚げ足を取られてビビるミュッセルをビビアンたちは指さして笑った。
次回『ハードウェイ(2)』 「貴殿のそれはアゼルナンの剣ではない」