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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト戦国時代
300/409

上を向いて走ろう(4)

 五機のアームドスキンで構成されたチームリンク。それを通じて味方の照準を示す赤い攻撃線がモニタに反映されている。

 ステファニーは同士討ち(フレンドリファイア)を怖れず、その先へと自らのヨゼルカを平気で入れる。対峙するレギ・ソウルを射線に誘導するために。


(このへんのスティープル配置はヤコミナが索敵ドローンを飛ばして把握してる。通してくる)

 信頼なくしてできない戦術である。


 彼女が自機をひるがえす瞬間は癖から読み取る。ヤコミナやマヌエラはそれが当たり前にできる。メンバーの意思疎通の密接度がチーム『デオ・ガイステ』をリミテッドクラスたらしめていた。


「正面からは無理かも」

「了解した」


 何度かくり返すも、灰色のアームドスキンはブラインドショットの全てをブレードや力場スキンで弾く。反射神経を盾にする怖ろしいパイロットスキルである。まともではない。


(もしかしたら、わたしの癖まで見透かされているかもしれない)

 また弱気の虫が頭をもたげる。


 屈辱の敗戦を喫した女王杯・虹では使えなかった戦術。あのときばかりはフラワーダンスの戦術展開の速さにヨゼルカが追いついていけずに組み立てさえ適わなかった。

 しかし、構築さえできれば相手が四天王でも通用してきた戦術である。一度決まれば抜けだせないはずなのに、ステファニーの内には不安が芽生えた。


(連携テンポは上がってる。砲撃手(ガンナー)二人の移動が早くなってるお陰。問題はわたしだけ追いつけなかった場合)

 リーダーがテンポを乱す中心になってどうするという思いがある。


 圧倒的優位なだけに失敗はあり得ない。なぜならヤコミナやマヌエラが対戦チームの砲撃手(ガンナー)と探知戦をしながらではないのだから。

 狙撃に集中している状態で失敗するとしたら前衛(トップ)剣士(フェンサー)三人の落ち度である。具体的には彼女の動きが悪すぎて穴になったとしたら。


(そんなミスをするようでは、本当に引退するしかない)

 最新の注意を払う。


「どうしたんです?」

 狼頭のパイロットが話し掛けてくる。

「手足が縮こまってます。以前のような伸び伸びとしたところがありません」

「…………」

「トップチームなりの苦労があるのでしょう。だからって手加減してあげられませんけど」


 言うほど冷淡ではない。言葉で相手の集中力を削ぐ仕掛けではないのだ。彼女の攻撃を正面から受け止め、弾き返しているのだから。


「そのままじゃ際どい。もっと使っていいから」

「しかし、それでは君の負荷が……」

「今回は軽いの。ゲージ管理はこっちでする」


 狙撃を多めに挟む場面を作れとヤコミナは言う。彼女の目からも危なっかしく見えているらしい。動けない自分が恨めしい。


(情けない負け方をすれば吹っ切れるのだろうか?)

 そこまで考えてしまう。


「抜けるのは容易ではないですよね?」

 思いの外、柔らかい声音で諭される。

「君は……」

「僕も経験があります。ミュウではありませんが、一度身を捨てるくらいの心持ちでないと難しいですよ。いけないな。相棒に悪い影響を受けてる」

「抜かしやがれ」


 ステファニーは逃げる理由を作ろうとしていると気づいた。自分で選んだ道なのに、苦しいからと楽になろうとしている。その辞め方に後悔はないのかと問われているように思えた。


「君もお人好しだな」

「誰かさんほどじゃありません」

「お前、ケツに蹴り喰らいてえのか? ちっ、もう代われよ」


 横薙ぎの軌道からレギ・ソウルは後ろに身を投げだす。赤い背中に機体を乗せると、その場で器用に旋回してみせた。再び三連カメラアイと対峙する。


「腑抜けた戦い方しやがって。面白くもなんともねえじゃん」

「面白さで君の向こうを張るつもりはない。まるで曲芸だ」

「馬鹿抜かせ。ヨゼルカ(そいつ)が泣いてんぞ?」


(まさか)

 ステファニーは愕然とする。

(ヤコミナと同じことを言うなんて。今のヨゼルカはわたしを活かしてくれる? 枷ではない?)


 不用意にヴァン・ブレイズの機体を剣の間合いの内側に入れてくるミュッセル。狙撃に合わせようと回避する暇もなかった。

 これまでなら相手のパワーに押されまいと身を躱している。しかし、飛んでくる肘打ちに咄嗟にブレードグリップの柄頭を叩きつける。


「くっ」

「突っ切っちまうぜ?」


 引けば包囲を突破するという。そうなれば後衛(バック)二人が少年の脅威にさらされる。とてもではないが、慣れない白兵戦をさせていい相手ではない。


「させない」

「気ぃ入れろ」


 ブレードを消して左手をブレードグリップに添える。肘とグリップエンドで押し合いになる。押し負けるかと思ったがヨゼルカのパワーが下支えしてくれて耐えられた。


「リクモン流の教えを一つ伝授してやる」

「なにを?」

「小さく捨てて大きく拾え。足元ばっか気にしてたら、前に進んでるつもりでも進めてねえんだよ」


 ヴァン・ブレイズは無防備にも一歩いっぽ進みながら拳を打ちだしてくる。彼女は律儀にも両手で構えたグリップで叩き落としていた。ブレードを生みだして斬り掛かるなど考えてもいない。


(わたしはなぜこんなことをしている? スマートさの欠片もない戦い方を。付き合う義理もないのに)


 ステファニーはミュッセルの流儀に巻き込まれている気がした。

次回『上を向いて走ろう(5)』 「思いだせ。お前はなにをしたい?」

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