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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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決戦前の静けさと(4)

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 ゴングと同時にチーム『ガンズスラッシャー』は散開する。めいめいに障害物(スティープル)の森の中に身をひそませに行った。

 対するチーム『フラワーダンス』も直径200mのオープンエリアから下がっていく。相手の動きは予想のうちだろう。


「作戦どおり、ユーリィはレイミンと索敵。サリエリはあたしの援護。ウルジーは遊撃」

 ビビアンが二つ名のとおり指揮棒振り(バトントワラー)をする。

「了解にゃん」

「相対位置、気をつけて」

「ユーリィ、行って」

「お願いな、ウル」


 リング内ではレーダー等の索敵はできず全て有視界戦闘である。電波、光学ともにロックオンできなくされており、照準もマニュアルでするしかない。

 砲撃手(ガンナー)に不利に見えるかもしれないが追尾ロックオンも不可なので剣士(フェンサー)も自力で敵を追うのみ。パイロットスキルがすべての世界なのだ。


「見えたにっ!」

 ユーリィが第一声。

「追って。狙う」

「逃げるぅー」

「面倒なのに」


 ユーリィのゼムロンが敵機の影を追う。それに続くレイミン機がビームランチャーを抱えたまま走る様子が見える。コンビを追っているドローンからの映像だ。

 少し進んだところで散発的な狙撃をくり返しつつ後退していた敵機が転倒する。よく見ると、横合いからスティックが突き出されていた。


「ああ、なるほど。すごいな」

 先回りしてウルジーが足を掛けたのである。

「あれがフラワーダンスの戦術。なんだかんだでウルの機転が全て握ってるって言ってもいいぜ」

「どうして先回りできたのかしら?」

「ユーリィがお互いの位置を見ながら誘導してやがったんだ」


 追い方でウルジーのほうへ誘導するユーリィ。相手に覚られず仕掛ける場所を決めるウルジー。互いの連携が作り出した状況だ。


「いただきにゃん!」

 ユーリィ機が首を薙ぎながら通り抜ける。

「まず一つ」

 レイミンが胴体に二射をくわえて撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪う。

「ウル、行った?」

「もう動いてる。索敵注意」

「OK」


 ウルジーはもう次の目標に動いている。ビビアンたちが追っている敵の後方だ。


「思ったよりずっと繊細なのね」

「戦術はな。敵のタイプによって調整すっけど連携で決まる」

「すごく頭使ってる」


 エナミもただ乱暴なだけの試合ではないと気づいたらしい。見つめる目に熱がこもっている。


(これはハマったかもしれないな)

 グレオヌスはファンが一人増えたかもしれないと思った。


「行け」

「また決まる」


 今度はスティックが顔面を殴打。もんどり打って転倒したアームドスキンの足に、スティープルの上に張り付いて狙っていたサリエリのワンショットが決まって立てなくなる。駆けつけたビビアンが胴に一突き入れて撃墜(ノック)判定(ダウン)を取る。


「一度立て直す。下がって」

「違う! そのまま押し込め!」


 二機墜として有利になったので仕切り直しを掛けるビビアンの判断をミュッセルが否定する。しかし、彼の声は届いていない。

 ウルジーを真ん中に集結するフラワーダンス。そこへ走った光条が彼女らを襲う。咄嗟の回避場所がないウルジー機が胸に直撃を受けてしまう。


「しまっ!」

 撃墜(ノック)判定(ダウン)で倒れたゼムロンは試合終了まで動けない。

「散開!」


 狙撃者の影も確認できないままに散る。訓練の成果でペアに分かれているが、要を失い崩されてしまっている。


「集まったら駄目だったの?」

 エナミは目を丸くしてミュッセルを見る。

「誘いだ。有利になったところでリスタートすると読まれてた。動きが鈍くなると狙われる」

「うん、互いの位置を調整しながら畳み掛けるべきだったね。結果論だけどさ」

「そんな」


 戦術の巧みさが仇となった。ビビアンを中心に組み立てていると研究されていたのだ。一番油断するポイントを見定められてしまった。


「賞金稼ぎはこれをやるんだよ。最初の二人は死兵。集まりやすいよう、わざと近場にひそませてやがった」

 それで場を作られたと説明している。

「好きになれないな、味方が死ぬ作戦なんて」

試合(ゲーム)だからできんだよ。味方が死んでも賞金は入る。ほんとに死んだわけじゃねえし」

「これも作戦か」


 賞金を狙うプロの戦術。そういうものを見せられると気分が悪い。しかし、観客はそれに気づかず大逆転に盛りあがっている。

 レイミン、ユーリィと撃破され、サリエリも撃ち落とされて撃墜(ノック)判定(ダウン)。一人残ったビビアンが三機を相手に粘るも一機を道連れに討ち死にした。


「五回戦進出はチーム『ガンズスラッシャー』だぁー!」

 鳴り響くゴングが悲しく胸に届く。


 外に出てしばらく待っていると関係者出入り口からフラワーダンスの面々が力ない足取りで出てくる。全員が目を真っ赤にしていた。

 思わず駆け出したエナミが皆のところへ。六人が抱き合って、声をあげて泣いていた。彼とミュッセルは掛ける言葉もない。


(勘違いしてた。誰もがそれぞれの立場で真剣にクロスファイトというゲームに向き合ってる。実戦と違うとかそういうんじゃない。僕もルールというちゃんとした枠の中で彼らに向き合わないといけない)


 グレオヌスは真剣な面持ちで胸に誓った。

次回『グレイvsミュウ(1)』 「それが仕事です」

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