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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト戦国時代
299/409

上を向いて走ろう(3)

「やれるものならやってみろ」

 ステファニー・ルニエは、睨んでくるカメラアイの向こうのミュッセルにそう言われているような気がした。


(リングアナは我らの風格を口にしたが、本当の王者の風格とはこういうものだろう。相手がなにをしてこようが受けて立ってやるという意思を感じる)


 事実、ヒートゲージを半ば度外視しての牽制のビームは彼がことごとく防いでいる。相棒の狼頭の少年の範囲もカバーして、だ。

 連続して突入していくモニカとロニヤの双子のブレードを警戒もしない。グレオヌスが相手してくれると信頼している証拠。届かないと思っている。


(続くわたしの攻撃など怖れるに足りないというのか)

 卑屈に思ってしまう。


 双子のアタックに合わせてビームが止む。威圧を込めたモニカの渾身の一撃はレギ・ソウルが下から振り抜いた大剣型ブレードによって大きく弾かれる。すぐさまひるがえって胴を薙ごうとした剣閃はロニヤが受け止めた。


(あれだけの長さがあるブレード。使うのは簡単ではない)

 ステファニー自身も剣士(フェンサー)だからわかる。

(自在に振りまわそうとすれば自機を斬ってしまいかねない。それなのに、わずかの狂いもなく斬線を刻んでくる。怖ろしい技量だ)


 モニロニの二人は踏みとどまり、入れ代わり立ち代わり斬撃を入れていく。改修前のヨゼルカでは不可能だった激しい足さばきで凄まじくテンポアップしている。

 攻めるほうも攻めるほうだが応じるほうも同じこと。怖ろしく素早い、そして緻密な重心移動で揺るぎない体幹を維持している。なのでグレオヌスの斬撃にブレはない。


「少しずーつ、少しずーつ」

「引き込むんよ」


 刃を交えつつ徐々に下がっていく双子。障害物(スティープル)エリアへとレギ・ソウルを誘導していく。そのために間際の位置まで押してから仕掛けたのだ。


(そのままではヴァン・ブレイズが動きだしてしまう)


 レギ・ソウルと背中合わせの赤い機体へと轟然と迫りブレードを振る。袈裟斬りの一撃は左の前腕の力場スキンに紫線を刻み、切り返しの一閃は右で上に弾かれた。上段の最も重量を乗せた斬撃などアッパーの拳で打ち返されてしまう。


「いい腕だ。強化前のホライズンでよくもまあこんなんに勝てたもんだぜ」

 拳の向こうからカメラアイで貫いてくる。

「ヨゼルカも強化されている。あのときとは違う」

「中身の問題だろ? 身体に染み付いてなきゃ自然に出るもんかよ」

「褒め言葉と受け取っておこう。わたしも動作プロトコルとともに成長してきた」


 ヴァン・ブレイズは斬撃に合わせて後退していく。彼女の攻撃に負けているのではない。後ろの灰色のアームドスキンとの距離を保っているのだ。まるで張り付いたように等距離で移動していた。


「ガイステニア社は、少なくともお前んのとこのワークスチームは認めてるはずじゃん。なのに、この迷いはなんなんだよ」

 力場をまとった拳がブレードの軌道を叩く。

「皆、助けてくれている。わたしの落ち度でしかない」

「俺相手に弱音を吐くほどか」

「虚勢など礼を欠くだけ。君みたいな強者の前ではな」


 口先で誤魔化す気になどなれはしない。そうでなくとも、ミュッセルが下がっていくのをいいことに飛び込むタイミングを何度も逸している。強引に前に出られない逡巡は剣筋に表れていることだろう。


「いい女だって言ったのを取り下げなきゃなんねえか?」

「せめて、それくらいは守りたいものだ」

「んじゃ、捨て身で来い」


 言った途端にジャンプする。背後の僚機の肩に両手を乗せて逆立ち。眼前に舞い降りると続けてバク天しつつ両脚で双子のヨゼルカを蹴り飛ばす。


「うっひゃあ! 突然はらめぇ」

「びっくりするんよ」


 泡を食ったが、モニカもロニヤも咄嗟にガードして後ろに跳んでいた。衝撃は最低限に抑えられている。

 しかし、ステファニーの状況は変わらない。相手が振り返った狼頭の貴公子に変わっただけである。


「女王杯決勝のときの気概に満ちた剣筋はどこに置いてきたんです?」

「言わないで。今のわたしは自分のポジションを見失いかけている」

「せめて邪魔にならないように、ですか。そんな剣ですね」


 左の腰に定めたブレードグリップに左手を添える。彼女の最大の威力を誇る斬撃を放った。それなのに、刃先はレギ・ソウルの大剣力場の上を舐めていくのみ。機体が流れてしまう。


「く!」


 絶体絶命の隙になる。本当ならそこで落ちていようが、彼女にはバックアップもいた。背後左右からのビームがグレオヌスを襲い、追撃の一閃を許さない。彼の両腕は防御に費やされる。


「なんと言われようと形はできた。さあ、逆襲のときよ」

 ヤコミナの声音は弾んでいる。

「デオ・ガイステの本領、存分に味わってちょうだい」

「上等だぜ。来いや!」

「とくとご覧あれ」


 とうとう包囲したままスティープルエリア内に引き込んでいた。前のめりなミュッセルのお陰で移動は加速している。周囲には無数の障害物。その向こうにはヤコミナとマヌエラの砲撃手(ガンナー)コンビが控えている。


(こちらの意図など見透かされていたかもしれない。引き込んだつもりで引き込まれていなければいいが)


 ステファニーの不安は胸中を塗り固めていった。

次回『上を向いて走ろう(4)』 「誰かさんほどじゃありません」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 自分の良さを見失ってるのか。 いいじゃん? 一人くらい喧嘩上等なモデルがいてもw
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