ポールマスター(3)
ファウナがターゲットにしたのはフラワーダンスの『スティックハッピー』ことウルジー・ウルムカである。なぜか。それは至って単純明快。棒術使いはビーム攻撃に弱いから。
(長い間合いとブレードと干渉しない利点はあっても、両手を縛られる武器ゆえにリフレクタを咄嗟に使えないのは大きな欠点)
二刀流は同じショートレンジシューターで競ってもパイロットスキルで一日の長があるのを証明している。双剣使いは走りがちながらも持ち前の反射神経でリフレクタを使うしノックバックを小さくするパワーを持つ。
捉えにくい後衛の二人は論外。真っ先に落として数的有利を作るなら棒術使いを狙うべきという結論だ。
「ホンファイ、牽制は不要。一気に接近して追い詰める」
同じ攻撃的ガンナーの素質を示した戦友に説く。
「あーい、ゲージ大事」
「そう、私たちはヒートゲージが生命線」
「走ってくれるからいい感じでーす」
幸い、テレンキのアームドスキン『カイナム』はイオンスリーブと馴染みが良かった。機体重量が軽めで可動域の大きいボディは走行に適している。専用に設計されたと思われるホライズンほどではないにしても、よく走った。
(さすがに一対一で落とせるとは言わない。でも、ショートレンジシューター二機を相手にすれば厳しいでしょう)
防御で一段落ちる棒術使いであれば。
(フラワーダンスは成績が挙がっていることに目がくらんだ。自分たちの欠点を消そうとしなかった。それが間違い)
都合の良いことに彼らビーガ・テレンキは彼女ファウナとウェンカイという二つの指揮系統で動ける。片方が独自に動こうが統制は可能なのだ。
(一つ落ちると戦局は傾く)
黒ストライプを持つ白い背中が見えてきた。いつもどおり潜伏して位置取りをしようとしたのだろうが、すでに射程圏内である。
「左にまわって。私が右から行く。射線だけ注意」
「大丈ー夫、下から入る」
ショートレンジシューター同士のコンビネーションで怖いのは同士討ち。それを防ぐ手法も考案していた。できるだけ低く入って射線を上に向ける。そうすれば僚機は外れる。
「じゃ、始め」
両サイドに入り込む。
「ポール抜けたとこ」
「一発で決められたらよし」
「ねらーう」
ポール型障害物の向こうに腕が見えていた。接近に気づいて退避したのだろうがすでに遅い。両側から挟み込む。
「当たれ!」
「わお!」
二人のビームが交錯する。しかし、そこにホライズンの機体はない。下にスティックを突いた棒術娘は、それを支えにボディを逆立ちさせてポールを両脚で挟み込んで宙に止まっていた。
「エナ、釣れたー」
それはコマンダーへの報告か。
「なんてトリッキーな」
「すごーい」
「感心してる場合じゃない」
回避が難しい姿勢なのだ。ある意味絶好機である。ファウナは照準を上に向ける。しかし、筒先はスティックで打たれ、ビームは逸らされる。ホンファイも同様の目に遭っていた。
「くっ」
立て直す暇もなく今度は頭部を打ち据えられる。視界がブレて狙うのもままならない。その間にホライズンは着地して走りはじめている。
「油断も隙もぉー」
「追うですよ」
おっとりしたホンファイも焦りを見せる。
追走するも距離は縮まらない。走行性能ではカイナムが劣る。しかし、この場合、棒術娘は逃げるしかないのだ。
(どこまでいっても不利にはならない。必ず落とす)
ホンファイとの射線を調整して狙い目を絞り込む。アングル型スティープルを使って左への回避をできなくした。
リンクを使って僚機に右への牽制を入れさせ、ファウナはボディへの直撃を狙う。しかして、再び黒ストライプの機体は跳ねて消えた。
「なんで、そう!」
ジャンプしたばかりのアームドスキンは狙い目であるのにビームは避けられた。地面にスティックを突くと同時にアングルの面を蹴って回転している。上空で旋回すると着地し、こちらに突進してくる。
「距離十分」
囁きが聞こえる。
「もう援護はこない」
「なんですって?」
(もしかして誘導された? さっき、「釣れた」って言ったのはそういうこと? どこかから二刀流が来る?)
そんな懸念が浮かぶが、戦況マップにビビアン機のアイコンはある。ウェンカイが抑えていた。周囲にフラワーダンスのアームドスキンはいないはずなのである。
「いったいなにを……」
「落とすー」
フェイントにしてもお粗末だ。言葉に合わせて突進してくるのみ。棒術使いには二人を撃墜判定する術がない。
(だからフラワーダンス最大の弱点だった。彼女は単独では機能しない)
ゆえに切り離したのだ。
考えるまでもなくホンファイと呼応して両サイドへと滑り込む。これで詰みのはず。両側からのビームは防げない。
逆サイドからのビームをしゃがんで躱したホライズン。彼女の側へはスティックを振りまわす。牽制のつもりか。しかし、彼女はスライディングして、至近距離で砲口を突きつけている。
(決まった)
確信する。
「リクモン流掌底撃」
「は?」
スティックは振り抜かれておらず、ブレストプレートの真ん中を照準していた。反対の端をホライズンの左手が打つ。
「かはっ!」
とてつもない衝撃がコクピットを襲い、ファウナの意識を刈り取っていった。
次回『ポールマスター(4)』 「じゃあ、スティックに執着して?」




