表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト戦国時代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/409

ポールマスター(1)

 炎星杯はすでに幕が開いている。桜華杯の準優勝のツインブレイカーズと優勝チームのフラワーダンスはオーバーノービストーナメントでもさすがにシード枠だ。二回戦からの登場となる。


「別に出たっていいじゃん。斡旋受けて一回戦パスとか背中痒くなんだよ」

「そう言うもんじゃないな。桜華杯の決勝を観て、一回戦から僕たちと当たりたいなんてチームがどこにいるんだい?」

「そんくらいの気概がねえとクロスファイトじゃ生き残れねえぜ」

 グレオヌスが宥めてくるが、ミュッセルは顔をしかめたままでいる。


 今もまだ一戦もしないままブーゲンベルクリペアでアームドスキンの準備に費やす日々。いいかげん、することもなくなってきて暇になってきた。下半期の一斉点検も山を超えて父のダナスルの仕事も落ち着いていれば手伝いもない。


「幸い、今夜はフラワーダンスの初戦があるんだから応援しようよ」

 言われなくても観る気ではある。

「相手、どこだっけか」

「『ビーガ・テレンキ』って名前のチームのはずだ」

「あん? テレンキだと? あそこ、チーム運用してなかったんじゃねえのか」

 聞き覚えのある社名だ。

「知ってるのかい?」

「ソロ時代にな。なかなか腕の立つテストパイロットがいる。ソロで選手登録して出てた。結構さっぱりとした良い奴だったが最近名前は聞かねえな」

「じゃあ、チームを揃えたとしてもおかしくないな。アームドスキン開発競争も新駆動機で拍車が掛かってソロじゃ時流に取り残されそうだ」


 アームドスキンメーカーの考え方としては正しい。だが、テストパイロットも兼務できるほどの優秀な選手は数に限りがあり、奪い合いの環境にある。


「メンバー次第じゃ、あいつも日の目を見ることになるか。でもなぁ、二回戦からビビたちと当たるとか運がねえ」

「大いに同意するけどさ」


 どちらに転ぶかわからない展開だったとはいえ、彼らを下したチームである。初戦からつまづいたりしない。


「三連覇なんて嘗めた真似させねえ。雪辱果たしてやんぜ」

「その前に、どこのワークスもイオンスリーブを搭載してくると思っていい。群雄割拠のトーナメントになるんじゃない? ここも搭載機だって言ってる」


 すでに呼び込みは始まっている。リングアナのフレディ・カラビニオが名調子で(サウス)サイドからの入場チームを紹介していた。


「ワークスでノービス2だから新生チームだろうね。リーダーは知ってる人?」

「おう、このウェンカイって奴。いい腕の剣士(フェンサー)だぜ?」

「試合してみたかったな。まあ、そのうち当たる機会もあるか」


 粛々と入場するアームドスキンはテレンキ社の『カイナム』である。そこはミュッセルが知っているものと変わりなかった。


「待て。この癖とこの動き、この名前」

 なにかが繋がっていく。

「オッチーノ・アバランにいたあいつらじゃねえか」

「確かに聞き覚えがある。印象薄いのはその所為か」

「だとしたら微妙じゃん」


 ミュッセルとグレオヌスはクロスファイトの中継映像パネルに齧りついた。


   ◇      ◇      ◇


「続いての登場はチャンピオンチーム!」

 呼び込みが始める。

「桜華杯の死闘を制し、二連覇の偉業を成し遂げた今最注目のスクール生女子! どこでも一緒の花摘み乙女の集い、チーム『フラワーダンス』!」

「あんた、匂わせたわね!」

「別に匂うところとは申しておりません!」

「言ってるようなもんよ!」


 冒頭から飛ばしてくるが、今日はミュッセルがいないのでビビアン一人でツッコまなければならない。違う意味で消耗するのでメンバー紹介の続きを促した。


「シードチームの入場にアリーナも湧いております。対するは、新生チームとはいえ実績は遜色ない選手たち。季節が夏に移り変わって、リング内も熱くなってまいりました!」


 センタースペースで対峙する2チーム。剣呑な雰囲気ではないが試合前の緊張感はある。


(エナが調べたとおり。『ビーガ・テレンキ』のメンバーって、あのエレインの下で戦わせられていた人。暴力で縛られていたのかもしれないし)

 不憫だとは思うが自由意志でもある。


「まさか、こんな形で再会とはね」

 一応、探りを入れる。

「調査済みなわけ?」

「うちのコマンダーは段取り屋なのよ」

「事前調査は万端なのね」


 ひっそりとデビューしていたテレンキ社のワークスチームは平場、つまりマッチゲームを重ねてクラスを上げていた。相手を新参と侮った対戦相手はことごとく辛酸を嘗めさせられている。そうしてノービス2での炎星杯出場だった。


「エレインは赤毛の坊やのお陰で病院送り。私たちを繋ぎとめていたメリルちゃんもいなくなってアバランワークスにいる理由なんてなくなったのよ」

「あの暴力女には平伏して、こっちには言いたい放題のマネージメント担当の相手なんてまっぴら」

「賞金配分が悪くないから我慢してたけど、もう限界」

 メンバーは口々に不平をもらす。

「そんなときにウェンカイが声掛けてくれたから渡りに船って感じ?」

「君たちにも因縁はあるだろうが僕の顔に免じて許してくれないか? 彼女たちも苦しんでいたのだ」

 リーダーの男が口添えしてくる。


 以前は問題ばかりのチームだったが、ビビアンは耳を貸す気になっていた。

次回『ポールマスター(2)』 「君の望んだとおりになってしまったわけだな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ