奥まる願い(3)
「浮気ー」
アームドスキン越しにミュッセルがウルジーに密着した体勢に茶々が入る。
「しょーもねえこと言うな、エナ。バイクのケツのほうが密着してんだろうが」
「どうかなー?」
「乗り換える?」
変なところに乗ってくる無口少女のホライズンの頭部を一つ小突いて続ける。スティックを支える左手を逆手から順手に持ち替えさせた。
「狙いはつけづらい。が、慣れろ」
「うい」
もう一度掌底撃を放たせるも当然威力は変わらない。受け手に使われているグレオヌスもまだ余裕がある。
「次はこうだ。左手を絞れ」
「ほ?」
支える手を絞る、つまりねじる動作をさせる。それと同時に掌底を打ち込むよう促した。
「ねじりつつ打つ。タイミング合わせろ」
「うい?」
最初は慣れなかったが何度かくり返すとタイミングが合ってくる。ぴったりと合ったとき、レギ・ソウルの手が大きく跳ねた。
「お?」
「これがリクモン流掌底撃の棒術版だ」
ウルジーは目を丸くしている。
「なるほど錐揉み、要するにコークスクリューショットだな? それで威力と直進性を上げていると」
「まあな」
「面白い」
「これをやるには逆手だと難しいしブレが出やすい。だから順手でやる。身体に憶えさせろ」
螺旋の破壊力。それに併せてスティックを回転させるときのジャイロ効果で直進性が上がる。物理弾体をスクリュー回転させて集弾性を上げるのと同じ考え方。意外と理論的なのだ。
「試合の中でできるようにしろ。コクピット付近に直撃させられるようになればノックダウンが奪えるようになる。誰か受けてみてえ奴」
フラワーダンスメンバーは首をふるふるしている。
「ったく、同じなのによ。これから乱取りするんだから」
「ぎえ」
「全員スティープルの中に入って勝負だ。お前はどうする、グレイ?」
親友をうかがう。
「面白そうだから参加しようか」
「わかった。じゃあ、ウルは俺が後ろについて誘導すっからサバイバルだ。受けたくなかったら先にウルをノックダウンしろ」
「マジ?」
とはいえ、訓練で本当に気絶させるのは忍びない。スティックには両端に弾性キャップを取り付け、各機の接触判定をミュッセルが加わったときと同じ「一定レベル以上の衝撃」で撃墜判定とするように設定した。
「気にせず行け」
「ついてくる?」
皆がスティープルエリアに消えてから訊いてくる。
「おう。どんな姿勢でも使えるように鍛えろ。できればどっちの手でも使えるのがベストだ」
「やってみるー」
「接近だけ知らせてやる。まずは打てるのと当てるとこから始めろ。使い方は数こなしゃ身体が憶える」
(サリとミンはすぐ撃ってこねえな。隠れていられるほうが有利だ。仕掛けてくるとすりゃ残り三人)
予想する。
グレオヌスは参加するとは言ったものの一歩引くか。チーム内のことと考えている可能性が高い。最後の関門として控えているだろう。
(リィかビビか。どっちが怖がってる? あるいは……)
別の可能性。
走るウルジーのホライズンは速い。そして静かだ。あまり足を持ちあげず滑らせるように運ぶ。彼女が神出鬼没とあだ名される所以である。
「来るぞ。左」
「うい」
まず動いたのはやはりビビアンだった。リーダーとして、そして友人としてメンバーの苦悩を推し量れなかった責任を胸に秘めている。おそらく本当に気絶させられたとしても文句一つ言うまい。
「ビビ」
「勝負!」
ビームランチャー装備である。スティックの間合いの外側からでも撃ってきた。ギャザリングフォースのウィーゲンのように、今後はそういった敵手が現れることも想定している。
「ほい」
「まったくぅ」
ウルジーは走りながらも上半身を揺らすウィービングを使う。足元を狙ってきてもスティックを地面に突いて機体を滑らせて躱す。チーム内でも一二を争う器用さを誇る二人の戦いである。
「なら避けれない距離!」
「あいな」
一気に距離が詰まる。ビーム光をくぐって入り込む無口少女。ビームランチャー持ちには厳しい間合い。しかし、それはビビアンの誘いである。
「来るってなら」
わかりきっているとばかりに突きだされるスティックの先端をグリップエンドで横に叩いた。改めて照準する。
ところがウルジーは反動のままに回転させ、反対の先端で砲身を下から打つ。跳ねた筒先が光を吐きだした。普通ならそこから突きに変化しても、伸びた腕はそれほどの力を生まない。
「げ!」
「やっ!」
順手の右手がスティックを絞る。ためていた左手が手元の先端に叩きつけられる。破壊力を伝達する武器はスライドして脇腹に直撃。赤ストライプのホライズンは跳ねくり転げた。
「痛いじゃないのよ!」
「バイタルロストするほどじゃねえだろうが」
「あんたも喰らいなさい」
「やなこった」
自分なら受け流せるとは言わない。
(最初から左手でも打てるかよ。こいつの器用さも大概だぜ)
驚かされる。
ユーリィも仕掛けてくるが、剣士が一対一であれば分が悪い。双剣の手数も間合いで相殺されて踏み込めない。いら立って強引に仕掛けたところで顔面に先端が押しつけられていた。
「ほい」
「ぅにゃう!」
首が跳ねて転倒する。
着実に精度を上げるウルジーにミュッセルは舌を巻いた。
次回『奥まる願い(4)』 「頭入ってんな?」




