奥まる願い(2)
ウルジー以外のメンバーが消沈している頃に予備機のホライズンに乗ったグレオヌスがやってくる。ミュッセルが事情を話すと彼は納得した。
「もっともな願いだな。ただ、具体的方法となると僕は持ってない」
理解を示す。
「訓練の中でなにか掴んでもらうしかないわよね。ウルをメインにして実戦形式で行く?」
「タイミング的に壊したくないんだけど背に腹は代えられないよね?」
「ヴィア主任も四肢や頭部にしてくれると助かるって。あ、外部装甲あたりも大丈夫みたい」
エナミがプロジェクトスタッフの意見を伝えてくる。
「そのへんはなんとかなるだろうぜ」
「じゃあ、組分けしましょ。経験値積むためにウルに単独で頑張ってもらう?」
「いーや、今回お前らは的だ」
不穏な意見を添える。途端に皆の顔色が悪くなった。彼がこういうことを言いだしたときはろくにことならないと思っているようだ。
「エナ、グレイのも含めてロックバーのバルーン圧をいつもの1.5倍に設定しろ」
一応の安全措置。
「するけど……、1.5倍?」
「おう。やれ」
「来た来た来た! 苦し苦し苦し!」
悲鳴が連続する。
「多かったか。しんどくない程度でいいぜ」
「他人で遊ぶなー!」
「なんだよ。気遣ってやってんのによ。痣が増えんの嫌だろ?」
「なにする気ぃー!」
非難が殺到するが知ったことではない。戦友の悩みを汲んでやらなかった罪を遠慮なく償ってもらう。
「方法だがそんなに難しいもんじゃねえ」
グレオヌスがついでに持ってきた予備のスティックを受け取る。
「そう?」
「要は俺がやってることをこいつでやるだけの話だ」
「ぼく、リクモン流使えない」
当然、修行などしていない。
「機体全部でやるんじゃねえ。こいつ一本でやる」
「んん?」
「考えてみろ。見たまんま一本の棒だろ?」
ウルジーが使っている棒術用武器は特別なものではない。単純な一本の鋼材丸棒ではないが、中間に補強用継ぎ手を入れただけの構造をしている。
「前にも話したが、リクモン流は力点・支点・作用点を一直線にして芯を作ることで攻撃力を増している。でもな、こいつは元々棒だから最初から芯は通ってる」
指さしながら説明する。
「本当」
「だから力点から力を通してやりゃあいい」
「ほー」
ミュッセルはヴァン・ブレイズの左手に逆手でスティックを握らせる。障害物の一つに先端を突きつけると尾端に狙いを定めた。
「もしかして?」
「こうだ」
尾端に掌底を叩きつける。すると自然と先端はスティープル表面に衝突する。かなり激しめの音がした。
「まんま腕の力だけで突きだすより破壊力は大きい。ただし、俺が芯を通すのと同じく予備動作がいる。繰りだすのにワンテンポのタイムラグができる」
問題点も同じ。
「そっか」
「やってみるか?」
「うん」
黒ストライプのホライズンが同様にスティープルに向けてスティックを構える。動作をなぞると、当然同じ結果が出て衝撃音がした。
「おー」
皆が感心している。
「ってな感じで、これなら誰でもできる。スティックの扱いに慣れてりゃの話だぜ?」
「なるほど。ウルジーならではね」
「だが、これじゃまだ不完全だ」
ミュッセルは言い添える。
「喰らってみろ。誰が的になる?」
「あ、あたしが。わかってあげられなかったリーダーの責任」
「いい覚悟だ。ウル、かましてやれ」
ビビアンはどんと来いとばかりに胸を差しだす。ウルジーがその真ん中にスティックの先端を突きつけた。尾端に向けて掌底を打つ。
「はぐぁっ!」
ビビアン機は打撃を受けて後ずさる。数歩たたらを踏むが持ちこたえた。ブレストプレートに施されたビームコートが砕けて散っているが、装甲そのものにはダメージはない。
「気絶するほどじゃねえだろ?」
パイロットへのダメージを訊く。
「なんとか。加減したでしょ?」
「ちょっとだけ」
「本気だったら?」
何度でも来いと言わんばかりに前に出てくる。しかし、彼はそれを制した。
「何遍やっても変わんねえ。大したことねえかんな」
「むぅ」
足りないと知ってウルジーは不満そうだ。
位置を変わってヴァン・ブレイズの左手を差しだす。そこに狙いを定めて同じ打撃を繰りだした。本気の一撃だっただろう。しかし、微動だにしない。
「逃がしたな。簡単にやってくれる」
グレオヌスは洞察した。
「まだ全然耐えられる」
「それがあるなら最初からしなさいよ!」
「まだ序盤だ。グレイ、代われ。できるな?」
ビビアンのクレームは無視して、同じことをしろと言う。
「たぶん。確実じゃないかもしれないけど」
「一発試しとくか。ウル?」
「うい」
もう一度、掌底撃を放つもグレオヌスのホライズンも左手を軽く揺らしただけ。容易に耐えられる結果に無口少女は頬をふくらませる。
「さあ、本番だぜ。よく見ろ?」
「うい」
スティックを立てかけたヴァン・ブレイズは、左半身姿勢のウルジーのホライズンの左に立つ。直接機体を寄り添わせた。口で説明するのは難しいので実践して見せるほうが早い。
「まずはこうだ」
「こう?」
ミュッセルがする動作をウルジーは真似てみせた。
次回『奥まる願い(3)』 「面白そうだから参加しようか」




