決戦前の静けさと(3)
「連れショングループみたいに言うなぁ!」
「おっと、これは失礼」
(さすがに悪意あるな)
リングアナの盛り上げ方に癖があるとグレオヌスも思う。
「金華杯チームトーナメントでは屈指の人気を誇る女子スクール生チームが四回戦第九試合に登場です!」
反省の色も見せず続ける。
「華やかな見かけによらず巧みな試合展開は玄人も唸らせるほど。今日もレンタル機『ゼムロン』で戦います」
ナンバリングされた同じ型のアームドスキンでオープンエリアに向かう。ベースは白でところどころに入れられた差し色で見分けられるようになっていた。
「レンタル機って?」
エナミは疑問に思ったらしい。
「開発チーム所属のテストパイロットでもなく、自前のアームドスキンも持ってない選手はクロスファイト運営が用意してるレンタル機を使うらしいんだ。このゼムロンがそうらしいね」
「こいつらもな、そこそこテクもあって参入メーカーから所属の誘いもあるらしいんだがよ、頑なに断ってんだ。誰かの紐付きになって自分らのしたいことができなくなるのが嫌なんだとよ」
「らしいかも」
彼女もフラワーダンスメンバーの開けっぴろげな空気に心許しているという。
「一試合ごとにレンタル料取られるし、保険代も預けなきゃなんねえから面倒くさいのによ」
「ブーゲンベルクリペアで安く組んであげれば?」
「そんな話もあったんだがな、うちに置いとくわけにもいかねえから結局倉庫がいるって頭抱えてたぜ」
整備は頼むにしても、保管と移送にもお金が掛かる。そこが悩ましいところだという結論に至ったらしい。
「もうちっとコンスタントに稼げるようになったら金回りも良くなるんだろうが、今みたいにアンダーエーストーナメントで年に一勝くらいじゃよ、ちと厳しいぜ」
学生では試合数にも限度がある。
「彼女たちが納得できるいいメーカーからお誘いがあればね」
「そいつがベストかもしんねえな。ま、そのうち合同訓練で鍛える約束あんだがな」
「ビビたち、どこまで本気なのかしら?」
エナミにはアームドスキン戦闘で覚える興奮と勝利の喜びが今ひとつ理解できていないらしい。女の子がという少々古い発想が邪魔しているのだろう。
「25番機での登場はバトントワラー、ビぃービアーン・ベラぁーネ選手ぅー! 続いて26番機、元気な猫娘、ユぅーリィ・ユクぅル選手ぅー! さらに27番機、狭隘の魔手、レイぃーミン・ラぁーゼク選手ぅー!」
メンバー読み上げにも力が入る。
「28番機は空飛ぶトリガーガール、サぁーリエリ・スリぃーヴァぁ選手ぅー! 締める29番機はスティックハッピー、ウぅールジぃー・ウぅールムカ選手ぅー!」
最後に入場したウルジーの姿にグレオヌスは瞠目する。アームドスキンの頭を大きく超える長さのスティックを携えていたからだ。
「棒術?」
彼も知識でしか知らない。
「面白えだろ? あいつ、棒使いなんだぜ」
「格闘術のジャンルでならわかるけどもアームドスキンで?」
「実戦じゃあり得ねえな。使えねえし。でも、クロスファイトなら使い道がないわけじゃねえ」
考えてみるもピンとこない。
「棒で叩くだけで勝てるの?」
「そういうわけじゃねえんだが一応剣士タイプに入ってんだ、エナ。まあ、観てろ」
説明を聞いているうちに相手チームの紹介も終わっている。チーム『ガンズスラッシュ』はその名のとおり全員が砲撃手という変則的な構成だった。
「フラワーダンスはビビとユーリィのダブルトップだね」
二人が前衛に配置する。
「ガンズスラッシュはトップを置かずに包囲戦をするかな?」
「平地や宇宙ならそうなるんだろうがよ、ここはリングだ。障害物で戦術はとんでもなく広くなるもんだと思ってろ」
「都市戦を想定してみたんだけどさ、スティープルは破壊できるわけじゃないから勝手が変わる。多対多だとどうにも想像つかないんだ」
通常の建造物ではビームやブレードの攻撃に耐えられない。宇宙空間での大型デブリも同様。しかし、リングでの障害物は非破壊設定だから視界だけでなく攻撃も防いでしまう。
「実戦とかけ離れさせているこの状況がイマイチ受け入れづらくてさ」
意味があるのかと思ってしまう。
「ここでの経験をそのまま戦場に持ち込むのは無理じゃねえか。でもな、アームドスキンのスペックを引き出すのにはうってつけの環境設定だと思うぜ」
「なるほど、そういう意図のもとに設定されてるんだな」
「ま、限定された空間で武器の違いによるハンデをなくしてゲームを面白くするってところが一番なんだろうが」
主眼はそこだと結論づける。
「急に生まれて途端に人気が出たのはそういうところがウケたんだろうね」
「他のレースゲームとかより熱いっつーのもあるぜ」
「まあね。普通は実機格闘ゲームなんてお金掛かって仕方ないだろうし。ギャンブルを絡めたのが正解だ。星間管理局の上の人はさすがに頭がいい」
星間管理局興行部肝いりの企画だったともっぱらの噂である。実際のところはどうだか知らないが。
グレオヌスは開始のゴングの気配を感じてエナミにリングを示した。
次回『決戦前の静けさと(4)』 「違う! そのまま押し込め!」




