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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
クロスファイト戦国時代

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変化する暮らし(1)

「素晴らしい活躍でしたね、お孫さん。おめでとうございます」

 副局長のアレン・アイザックが話し掛けてくる。

「ありがとう。なかなかの戦果ね」

「メジャートーナメント二連覇では足りませんか?」

「そっちのこと?」


 ユナミ・ネストレル本部局長は視線で促す。アレンは降参とばかりに口元を緩めた。


「ゼムナ案件の少年を射止めたほうが評価が高いですか」

 彼は肩をすくめている。

「そうねえ、上出来かしら」

「厳しいのですね」

「幼い頃から欲しがらなかったあの子が、初めて自分から欲しがったものを手に入れたんだもの。褒めてあげたくもなるでしょう?」

 人間的成長の話である。

「利用なさるおつもりはないのでしょうけど」

「彼の協力が欲しいなら自身で動きます。エナミは自分が欲しいものを彼から引きだせばいい。その運命に付き合うほうがわたしに利用されるより大変じゃないかしら」

「やっぱりお厳しい」


 干渉するつもりはない。まだ子供といえる年齢でも、そろそろ自分で選んで責任を持つことも憶えなくてはならない。


「局長は放任なさる考えでも、放っておけない大人は少なからず」

 副局長は声をひそめる。

「軍務部が彼ら、ツインブレイカーズやフラワーダンスとお孫さんを軍務科に転科させるべきと画策しているようですが」

「困ったこと。少し釘を差しておかないといけませんね」

「取り計らっておきます。局民の自由を保証するのも我らの責務です」


 アレンがその気なら自ら動く必要はないとユナミは思った。そこまで強引な手段は執ってこないだろう。


「ところでマグナトラン社の件なのですが」

 調査指示をした件の報告。

「情報部に調査をさせておりますも、未だ明確な証拠は出てきておりません」

「ガードの固いこと。尻尾を掴まれるのは危険だと承知のうえであれば悪質ですのにね」

「ガナス・ゼマ社に無理をさせるほどの権限のある取引先はあそこしかありません。状況証拠としては甘いですが」


 ガナス・ゼマ社はヴァラージを流出させてしまった企業である。(たね)の入手経路を探るも過去のV案件に関わった形跡はなし。結果として、親会社に近いマグナトラン社が捜査線上に挙がっているのだが捜索を入れられるほどの証拠がない。


「内偵も進めておりますが深部にはいたっておりません」

 進まない捜査に焦れている様子。

「相手は民間、そう強引な手法は無理です。他国籍の企業でもありますし」

「時間が必要かと。誰か呼ばれますか? 内偵が得意となると『ロングレッグス』あたりが適当だと思われますが」

司法(ジャッジ)巡察官(インスペクター)の独立性を無視するのは避けたいですわ」

 いくらV案件でも越権が過ぎる。

「必要ならファイヤーバードがリークでもするでしょう。こちらはこちらで進めます。それでいいですわね?」

「承りました。また進展がございましたら」

「いつでも言って」


 赤毛の少年の悔しそうな顔を忘れられない。これで済むとは考えにくかった。少年少女を危険にさらさないですむよう取り計らいたいところ。大人の役割である。


 ユナミはため息を一つ残して別の案件に意識を切り替えた。


   ◇      ◇      ◇


 一見すると爽やかに笑っているように見えて、親しい者が見れば少しぎこちない笑顔である。それが彼女たちの精一杯だろうとミュッセルは思った。


「走れて撃てて力強い! あたしたちのホライズン!」


 純白に赤ストライプのフィットスキンを着たビビアンがアームドスキンの立っている後ろを示す。自然に見える程度にメイクを施し、健康的な肢体が鮮やかに映っていた。


「飛行性能も含め全ての場面で機動性を保証します! わたしたちのホライズン!」

 サリエリもコピーしたようなポーズ。

「頑丈さもすごいのにゃ! あちきたちのホライズン!」

「ヘーゲルだからこその安定感! 私たちのホライズン!」

「わりと安心。ぼくのホライズン」

 最後はウルジーなので力が抜けている。

「マッスルスリング搭載のセカンドバージョンは受注販売受付中! 詳しくはカンパニーページの下のほうを見てね!」

「「よろしく!」」


 五人の少女がそれっぽく可愛らしいポーズを取ると、後ろのホライズンは武器を構えて勇壮な駆動をしてみせた。続いてヘーゲルのロゴとエンブレムがバックに合成されて終了する。


「恥ずかしいぞ、お前ら」

 正直な感想を述べた。

「言うなー!」

「パットの入ってないピッチピチのフィットスキン着てよ。親御さん、泣くな」

「泣くか! ちゃんと許可出てるわ!」


 ミュッセルは自身の携帯端末で映した小パネルに爆笑する。ビビアンは顔を真赤にして静止画になったパネルを打ち消そうと手で遮っている。


(ほんと放任主義だよな、こいつらの親。娘がアームドスキンでバトるの許すくらいだから当然っちゃ当然か)

 以前から思っていた。


「一般のハイパーネット放映に乗るようなCMじゃないの! カンパニーページに載せる、国軍とか企業とかのビジネス向けのCMなんだもん」

 必死に弁解している。

「誰でも観れんじゃん、ページ行けば。実際、お前ら取りあげたニュースページには普通に動画貼ってあんぞ」

「どうして拡散しちゃうのよー」

「されないと思うほうが不思議だけどさ」


 グレオヌスは苦笑している。有名人を家族に持つだけに、こういう物事には通じているらしい。


 ミュッセルも面白おかしく取りあげられるのは仕方ないと思った。

次回『変化する暮らし(2)』 「自慢になるんだったら次は考えちゃおうかな」

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[一言] 更新有難う御座います。 恥じらいは【地平線】の彼方に置いてきたCM撮影?
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