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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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少年少女のエンディング(3)

 ミュッセルは再び少女の手を引きながら歩きだす。立ち止まらせておくと、一人で内に籠もって悪いほうにばかり考えが行きそうな気がしたからだ。


「な? 見たまんまの俺たちってそうだろ?」

 エナミに翻意を促す。

「いっつも走ってんだろ? 自分が得するためじゃねえ。誰かのためってわけでもねえ。走ってねえと気がすまねえだけなんだ」

「うん、一生懸命なの、わかる」

「向こう見ず同士が闇雲に走ってたらヤバいじゃん。俺とビビが彼氏彼女になんてなっちまったらどこに行っちまうかわかんなくなる」

 危険な感じだけはするのだ。

「だから俺はあいつを選ばねえ。繋ぎ止めてくれる誰かがいい」

「…………」

「さっき、俺が言ったのも嘘でもなんでもねえんだぜ?」


 少女はもう泣きじゃくってはいない。その足も立ち止まることはなかった。


「私のこと、好き?」

 改めて訊かれると恥ずかしくなる。

「お、おう」

「どんなふうに?」

「お前、そんな難しいことを!」


 自分と違って、人間関係に遠慮がちなエナミを完全に理解しているわけではない。しかし、答えないといけない質問なのはわかる。


「なんつーか、安定してるのがいい。笑ってるだけでホッとする」

 言葉選びが非常に難しい。

「内心はどう思ってるかわかんないよ?」

「思い知らされたばっかりじゃん。あんなに感情剥き出しで泣きだすとは予想外もいいとこだったぜ」

「それでもいいの?」

 質問が多いのは不安なのだからと思った。

「居場所がほしいんだろ? なってやるって言ったよな。あの約束を反故にする気はねえ。危なっかしく見えっかもしれねえが遠慮なく頼れ」

「うん。……私もあなたが好きです」

「うう……」


 いざとなると、どう対処したものか困る。単純に受け入れるだけでは彼女の不安は解消されないような気がした。


「ちゃんとするって言ったし」

「だ……、そ……、な?」

「ん?」


 夕暮れの道をゆっくりと歩く。あたりには誰もいない。それなのに照れくさくてどうしようもない。慣れないにもほどがある。


「お前が……ぴゅぴぱ」

「ぺ?」


 後半が聞き取れない高周波変換したような声になっていた。ぎょっとして足元を見る。


(しまった。このあたりもフォッサムチェリーの並木じゃん。花が全部散っちまって足元に溜まってやがる)

 想定外のことが起こった。


 メルケーシン名物のフォッサムチェリーの樹は非常に特異な性質を持っている。桃色の可憐な花を付ける樹なのだが、実は花びら一輪ずつが一つの花なのだ。

 そして厚みを持つ花弁は内部に軽い気体を閉じ込めて、根本に宿った種を風に乗せて遠くへと運ぶ。問題はその気体がヘリウムガスだということ。今のように踏み潰して歩いていればガスが声を変調させてしまう。


「ぴぴゃっぴゃ。ぴょぴょぴゃぴゃぺぱ」

「ぴょー、ぴゃーぴゃぴ」

 慌てて後戻り。

「ぴゃんぺぴょっぴゃ」

「ぴゃんぴょ……、ぴゅ、ぴゃぴゃぴゃ」

「ぴゅっ、ぴゃーっぴゃっぴゃっぴゃ」


 手を繋いで駆けていくと花びらが吹き溜まっているエリアを出る。そこでようやく顔を見合わせた。


「あははは」

「くそったれ。まったく締まらねえ」


 頭を掻くが後の祭りである。今の雰囲気で先刻のやり取りをもう一度する気にはなれない。


「もう大丈夫そうか?」

 尋ねるのが精一杯。

「たぶん」

「なんつったらいいのか俺にはわかんねえけどよ、ビビは許してくれる。スルーするのが正解なのか、気休めに一言謝るのがいいのか、女子ってそのあたりの折り合いどうすんのか知らね。任す」

「うん、きっとなんとかなる。親友だもの」


 妙な一幕が気晴らしになったか彼女は朗らかに笑った。その様子を見ているだけで色々なしこりが溶け消えていくような感じがする。


「好きだぜ」

「え?」


 ミュッセルが唐突に告げた言葉に戸惑うエナミを見ていると幸せな気分になった。


   ◇      ◇      ◇


「これが答えだ。わかったかい?」


 桜華杯決勝を観終えたレングレン・ソクラは彼のチーム『テンパリングスター』のメンバーへと目を移す。理解を示した者と眉をひそめている者が半々だった。


「答えだって言われてもな。壮絶な試合だったとしか言えないんだが」

 ワイズは理解できなかった組。

「なに見てたの? 寝てたわけ?」

「ちゃんと見てたって。でも、欠点とかわからないし」

「はぁーあ、これだもの」

 フェチネは呆れている。

「わかってるじゃないか。彼らのアームドスキンに欠点らしい欠点はない」

「だったらワイズさんが正解なんですか?」

「そう、正解だ」


 シュバルも苦い顔になる。ゼドは見守るように微笑んでいた。


「勝負を分けたのはなんだった? 機体の欠点じゃなかったとしたら?」

 一番年嵩の男はヒントを出す。

「そりゃ、腕の差だろ。最後は気合いで決まったみたいなもんだ」

「重要なのは機体性能ではなかった。そして、我らがフィックノスもイオンスリーブを搭載して性能ではそう劣らなくなる」

「最後にものを言うのはパイロットスキルだってか?」

「そのとおり。だったらどうなる? そう、ここからが本当の戦いだろう?」


 レングレンは不敵に笑ってメンバーの顔を見まわした。

次はエピソード『クロスファイト戦国時代』『表彰式にて(1)』 「素晴らしい試合を見せてくれた選手たちを拍手でお迎えください」

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