リングに吠えろ(6)
「その処置密度は限度を超えています。三分でカットします」
ミュッセルはマシュリの警告まで受けてしまう。
「おう、それまでに方ぁ付けてやらあ」
「反動で動けなくならないよう祈るべきでしょう」
「そこまでかよ」
本来は宇宙空間で実行するような処理だという。岩石帯やデブリ帯といえども実情はスカスカの空間に所どころ障害物が浮かんでいる程度。それならば感応処理も可能。
しかし、リングは違う。尖塔型障害物の離隔は広いとこでも50mほど。狭いとこなら10m程度しかない。アームドスキンではすれ違えないレベルの密度である。
(範囲を限ってるっても、その密度の情報を直接頭にぶっ込むときちぃ)
視覚情報と感応情報の同時処理で熱くなってくる。
「落ぉーちろぉー!」
「来いやぁー!」
まわり込んできたビビアン機は左手をポール型スティープルに掛けてまで急旋回。撃ってきたビームを左のブレードナックルで分解。コンビネーションの右拳はグリップで受け止められる。
ホライズンの左拳にもナックルガードが装着されて殴りつけてきた。左の掌底で横へ弾くとスピンして低い姿勢から浴びせまわし蹴りを狙う。
「たぁ!」
驚いたことにビビアンはヴァン・ブレイズの上を飛び越えていく。なんと、後ろにはスライディングしているレイミン機がいる。
蹴り足をすり抜けようとしているビームランチャーの砲身。咄嗟につま先をまわして横からコツンと叩く。発射されたビームはどうにか機体から外れた。
「なんてぇ!」
すり抜けざまに足を刈られるに任せる。前のめりに倒れながら胸の中央、コクピットに肘を落とそうとした。
レイミンは小さく悲鳴をあげながら横に転がる。地面に突き立てた肘を支点に、前宙返りをした。振り返ったビビアンが放ったビームをノールックの裏拳で破砕する。
「あんた、人間やめてない?」
「うっせ! 黙って喰らいやがれ!」
レイミン機を助け起こしたビビアンは慣性のまま二機でダンスを踊る。腕を繋いで回転しながら交互にビームを放ってきた。
(溜める隙もねえ)
間合いが取れれば絶風のモーションに入る気だった。なのに途切れなく攻撃が来る。ビームを弾き飛ばしつつ詰めるしかない状況。
(時間もねえ。ちっとばかし強引にでもいくか)
間合いに入る前には腕を離して両側に散るビビアンとレイミン。正面のポールを蹴ってターン。ミュッセルはレイミンの背中を追う。
「そんなに私のお尻に惹かれる?」
「おう、引っ叩いてやる」
「変態!」
(正面はアングル。右はポール。距離25。いける)
情報を読みつつ決める。
レイミンはアングルの角に追い込まれる。わざと大きなモーションで蹴りを始動。足裏をコクピットの高さで解き放つ。
ホライズンは予想どおりストンと腰を落とす。下から砲口を向けてきた。ミュッセルはアングルを叩いた足裏に重心を移動。蹴って跳びさがる。
「げ!」
ビームは残像だけを貫き、ヴァン・ブレイズは右のポールに着地していた。
「往生しろや!」
「ひゃっ!」
拳から突っ込むミュッセル。逃げ場を求めて上にジャンプするレイミン。それこそが狙いだった。
「浮いたなぁ!」
「やめ!」
拳は引いてしゃがみ込む。絶好の位置で芯を作った。落ちてくるレイミン機に向けてアッパーを放つ。
レイミンの闘志は失われてなかった。拳を躱せないとわかると回避も考えずにビームランチャーを向けてくる。
「ふげっ!」
「なに!?」
相打ちの格好。ヴァン・ブレイズの拳はブレストプレートの下端あたりに直撃。衝撃はコクピットを抜けているだろう。しかし、レイミン機が両手で支えていたビームランチャーはあまりブレず、放たれた光条が上から右膝を焼いていた。
「しまった!」
「最高よ、ミン!」
言葉は戻らない。レイミンのホライズンは落下すると同時にアングルに背中を預けるように崩れ落ちる。
ヴァン・ブレイズも直撃判定を受けて右脚が機能停止。ガクンとバランスを崩す。仕方なくビビアンからの攻撃をリフレクタで受けて反動を利用して飛び退ろうとした。
「この絶好機を無駄にするもんですかぁ!」
「だぁ!」
彼女は撃ってこなかった。代わりにタックルを受けて押し倒される。馬乗りになった赤ストライプのホライズン。
(右脚動かねえと跳ね飛ばすこともできねえじゃん)
絶体絶命である。
ビームランチャーを押し当てようとするビビアン。ミュッセルはさせじと砲身を握る。ギリギリ照準は外れたまま押し合いになった。
「降参しなさいよー」
「絶対にしてやるもんかよ」
両手を使って、胸に向けてビームランチャーを押しさげようとするホライズンと左手で握った砲身を押しのけようとするヴァン・ブレイズ。力は拮抗していた。
(残る手は一つだけか。どうにか芯を作って烈波を放り込んでバイタルロストを狙う。どうやって?)
全力で上半身を少し持ちあげる。重力波フィンナセルを立てるだけのスペースを作った。フィンを発生させて力点にする。
(ここでか)
戦況マップのσ・ルーン直結が切れていた。目眩がする。フィットバーを操作する腕が震え、赤い右腕が彷徨う。
「んぎぎぎ」
「くおぉ!」
ミュッセルは渾身の力を振り絞って奥義を放った。
次回『少年少女のエンディング(1)』 「タイミングは微妙です! 勝敗の判定をお待ちください!」




