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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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リングに吠えろ(5)

「わたくしは確信しております、この一戦は時代を越えて語られるものになると!」

 リングアナのフレディはもう声をかすれさせつつある。

「しかし、その試合も最終盤に突入していると言っていいでしょう! フラワーダンス残り二機! ツインブレイカーズに至ってはヴァン・ブレイズのみ! 生き残りを懸けた世紀の死闘はもはや誰の想像も超えたものになっているぅー!」


 アリーナからの声を枯らしての応援も届かない。三人の集中力は異次元の領域に入り込んで、敵手のことしか認識できなくなっていた。

 リングに響いているのはたった一種類の音だけ。それは、アームドスキンの足が刻む、土を蹴る音とシリンダがスライドする音。


「ビぃービぃいー!」

「来なさい、ミュウうぅー!」

 ミュッセルの吠える声にビビアンが呼応する。


 牽制のビームさえ挟んでこない。彼女ら二人は、たった一射で蓄積するヒートゲージの重みを熟知しているのだ。決定的な瞬間にトリガーが押せるか否かを。


「スティープルの林であたしたちに勝てると思ってる? グレイだって落ちたわ」

「勝ってみせるって言ってんだー!」


 プレート型スティープルを通りすぎる瞬間にヴァン・ブレイズをスライディングさせる。抜けたところでコクピットにある高さをビームが貫いていった。

 鉤爪にした指まで地面に突き立てブレーキを掛ける。グリップを取り戻した足で蹴って急迫する。限界まで溜めていた拳を一直線に突きだす。


「うおらぁー!」

「んくぅ!」


 上半身を倒して踏み込み、紙一重で避けるホライズン。かすめた装甲同士が火花を散らした。彼の間合いなのに油断できない。グリップエンドが飛んできた。

 肩を上げてブロックする。そうしなければ横っ面を強打されていただろう。鳩尾に掌底を伸ばしていくが断念する。烈波(れっぱ)の蹴り足を振りあげないといけなかったからだ。


「なんでよぉ!」

「見えてっからだぜぇ!」


 背後を取っていたレイミン機の砲口を踵で蹴りあげている。ビームは上へと抜けていった。

 蹴り足の右を振りおろしつつ左の踵を飛ばす。両手を地面に突いてスピンして振り抜いた。


「んひゃあ!」

「避けやがる」


 決める気で前のめりになっていたのにレイミンは反応した。その動きはほぼビビアンのものに近くなっている。


(ただし、転向した頃のだ。今のビビはもっと進化してっからな)


 苦々しい思いである。自身が望んだとはいえ、急速に接近戦ガンナーとして成長した親友は最も強敵と化していた。


「うかぁーつ!」

「そうでもねえぞ!」


 背中を照準しているビビアン。ミュッセルは腕の力だけで逆立ちしたヴァン・ブレイズをスピンさせ前方にもまわし蹴りを放つ。

 筒先を蹴り飛ばし、次はもっと深く蹴り入れた。即座に姿勢を低くして腕を刈りに来るホライズン。さらに腕の力のみでジャンプした。


「うっそぉ!」

「こんのぉー、化け物めぇー!」


 当然、浮いた機体を狙いにくる二人。しかし、ジャンプした先にはアングル型スティープルがあった。鋼材の面に足を着けさらに跳躍。突きだした足刀の先から二機は逃げだしていた。


(ちっ、今のさえ読まれてっか)

 足刀が地面を穿ち、爆発的に巻きあがる土埃の中で思う。


 あの場面でビビアンもレイミンも発砲していない。彼が横にあるスティープルを利用するだろうと警告したのだ。誰あろう、彼女たちの後ろにいるエナミが。


「出来すぎだろうが、エナぁ!」

「めっちゃ集中してくれてるだけじゃない」

「そうそう、ありがたいことにねぇ」


 間合いを外しているが一足の距離である。ビームならば回避不可能といえるのに撃ってこない。ミュッセルがブレードナックルをかまえているからだ。


「ほれほれ、撃てよ」

「撃つか。弾液(リキッド)消費させる気が見え見えなのに」


 二人は弾液(リキッド)弾倉(カートリッジ)の換装タイミングが最大の敵だと知っている。それも彼が叩き込んだのは皮肉ともいえよう。


「楽しいじゃん」

「ええ、楽しいわねえ」

「ほんと、笑いが出そうになるくらい」


 すでに試合時間は四十五分を超えているか。持久戦に持ち込むのは本意ではない。先にベストパフォーマンスが失われるのはビビアンたちのほうであろう。


「勝負つけようぜ」

「レディファーストを思いだして譲る気になった? グレイに習ったでしょ?」

「お前らがレディなんて可愛らしいもんかよ」

「そんなんじゃ女性ファンなんてつかないんだから!」


 左右に割れる二機の白いアームドスキン。弱点であるほうの緑ストライプを追う。間合いに入れたと思ったときには間にプレートを挟んでいる。拳はその表面を打った。


(ここまで仕込まれてやがる)


 二人は回避コースまで頭に入れているのだ。それはコマンダーのエナミが設定して、予め戦況マップに反映されている。彼女の手の平の上で無駄な動きをさせられている。


(だったらよぉ)


 そのうえを行くしかない。決定機をどちらが先に作れるか、詰め手の勝負になると思った。意識スイッチを使って戦況マップまでσ(シグマ)・ルーンに吸わせる。


(うおぅ、こいつは長くはもたねえぞ)


 流入する情報量にミュッセルの頭はパンクしそうだった。

次回『リングに吠えろ(6)』 「この絶好機を無駄にするもんですかぁ!」

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