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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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リングに吠えろ(4)

「おーっとぉ! こちらでは、なんとなんとダブルノックダウぅーン!」

 リングアナの実況もピークのトーンだ。

「ウルジー選手、グレイ選手と続けて落ちてしまったぁー! これで残るはビビアン選手、レイミン選手にミュウ選手の二対一となったぁー! まだ試合の趨勢はわからないままぁー! 凄まじいまでの激戦は終わることを知りません!」


(どうしよう)

 エナミはがっくりと項垂れる。


 緻密に計算した戦法でグレオヌスを撃墜(ノック)判定(ダウン)まで追い込む。しかし、ウルジーを失ったのは誤算だった。


「せめて三対一なら……」

 打つ手があったかもしれない。


 レギ・ソウル撃破にも三機を使ってぎりぎり。ヴァン・ブレイズを落とすのにビビアンとレイミンだけではあまりに厳しい。不可能に近い。


「あきらめてはいけないわ」

 背中に手を感じる。

「ヴィア主任」

「だってビビたちはあきらめてないのでしょう? だったら、あなたはなにをすべきなのかしら」

「そうだよ。まだギブアップするには早いんじゃないかい?」

「そうでした」

 決然と顔を上げる。


(私にできるのは勝てる戦法を教えることじゃない。ビビとミンが勝てそうな場作りをすること。それはまだ終わってない)


 エナミは急いで現在の相対位置を頭に叩き込んだ。


   ◇      ◇      ◇


「すまない、ミュウ。してやられたよ」

 グレオヌスが伝えてくる。

「いいってことよ。あいつら三機相手にしてウルを道連れにできたんだろ? 上出来じゃん」

「もう一機、刺し違えられれば君の勝ちを確定させられたのにさ」

「ばーか。最後に一機でも立ってられたほうが勝ちなんだ。そいつが俺ならお前も勝ちだろ?」

 まだ負けていないと言ってくれる。

「まあね。祝われても嬉しくないくらい滅茶苦茶悔しい勝利だけど」

「とりあえず仇は討ってやる。そこで休んでろ」

「よろしく頼む」


 ヴァン・ブレイズの足を緩める。急いだところで仕方なくなった。


(さてと)

 ミュッセルは考える。

(言ったものの、どうしたもんかよ)


 ビビアンとレイミンのバディも訓練で数知れないほど当たってきた。対戦成績は悪くない。それなのに、どこか引っ掛かる。


(グレイだって同じだ。あの三人とだって当たってる)

 その組み合わせも少なくない。

(なのに、試合のガチモードのレギ・ソウルを落としやがっただと? 侮りゃ足元を掬われる。まともに来るはずがねえ)


 せめて息を整えるくらいの準備は必要だ。ヘルメット内部の酸素濃度はバイタル状態から若干高めに自動調整されていた。深呼吸して全身に行き渡らせる。

 口元のストローに吸い付いてドリンクを飲む。冷却された液体が喉を落ちていく感触がとてつもなく気持ちいい。過熱していた頭の中が冷めた。


(ビビとミンか。俺ならどうする?)

 試合冒頭の彼が嫌ったマッチアップである。

(いや、この考え方はヤベえな。グレイだってそう考えてバトってたはずだ。なのに裏をかかれてる)


 はたと気づいた、大きな間違いに。相手が眼の前にいる選手だけと考えるから失敗する。戦闘に集中しすぎて、最も怖ろしい相手を忘れてはいけない。


(ヤベえヤベえ。忘れちゃなんねえ)

 コクピットに座ったビビアンとレイミンのイメージの後ろにエナミの姿が重なる。

(要は位置取りだ。グレイもそれでやられてる)


 ヴァン・ブレイズの一次メモリに保存されたレギ・ソウルのガンカメラ映像を覗く。そこには有利に思えて、いつの間にか不利な状況に追い込まれていたグレオヌスがいた。


(三人だった)

 苦笑いする。

(あいつらの要石を忘れてどうする。最っ高に厄介な要石を)


 フラワーダンスメンバー個々人の絆は純粋にすごいと思う。さらには中心にエナミを置くことでより強固になってしまった。

 例えば相関図を描く。メンバーだけなら五角形にしかならないのに、真ん中にエナミがいるだけで、それぞれに繋がり線の数は倍に増える。そのうえ、エナミの意識は個々の間にも張り巡らされている。そうなると線の数は一気に増えて網となる。


(捕まったら逃れられねえ網だ)

 空恐ろしい。

(たぶん、どこのチームもフラワーダンスの本当の怖ろしさに気づいてねえ。あいつら、たった二機でも確実に網を張ってきやがるぜ)


 周囲の状況はミュッセルにも見えている。マシュリがチューニングした障害物(スティープル)の自動マッピングは極めて優秀。相対離隔をcm単位まで瞬時に計算して、σ(シグマ)・ルーンで感覚的に伝えてくる。


(やれる)

 落ち着きを取り戻した身体状態を感じながら徐々に歩行速度を上げた。


「いいぜぇ。来やがれ」

「あんた相手に騙し通せるわけないわよね」

「こいつの勘はほとんど獣レベルだもん」


 好き勝手言われて腹を立てる暇もない。赤と緑のストライプに彩られた白い機体がスティープルの影から飛びだしてきた。ホライズンは二機とも猛然と加速する。


「やっぱりそう来るかよ!」

「普通の方法で落とせるなんて考えてない」

「目をまわしてぶっ倒れなさいよ!」


(こっからはショートレンジシューター二機を相手にすると思え。そうじゃねえと終わっちまうぜ)


 ミュッセルは再びフィードペダルベタ踏みの状態に突入した。

次回『リングに吠えろ(5)』 「来なさい、ミュウうぅー!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 片方でも墜としたなら大健闘かな?
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