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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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リングに吠えろ(3)

 急に張りつめた空気にグレオヌスは耳を寝かせる。間合いが取れたのをいいことにヴァン・ブレイズの状態をσ(シグマ)・ルーン経由でチェックした。


(突進中? ターゲットはサリ? 仕掛けてたのか、仕掛けられたのか)


 ビビアンたちが反応したということはサリエリからの動きのはず。仕掛けられた可能性が高い。


(結果如何でこっちも強引に仕掛けにくる? 逆にチャンスがあるかもしれないな)


 焦る必要はない。極力クレバーに。どんな攻撃にも対処できる状態にしておくのが肝要。攻め手を残してしのぎきる。その先に活路がある。


(ここまで思える敵手と試合えるは幸せだ。楽しいなぁ)


 右横からのスティックの突撃は柄頭で叩く。距離の近くなったレイミンのホライズンを視界に残しながらビビアン機の姿を追う。左にまわり込んだ彼女からの一射をのけ反って回避。レイミンからの狙撃を右ブレードスキンで受け、反動を利用してバックスイングした。


「しっ」


 予想しにくかったはずの地を這う剣先からの逆袈裟の一閃の先にウルジー機はない。背中側に感じるセンサー情報に従って、すり足で前に出つつ反転する。鼻先をスティックが旋回して通り過ぎていった。

 今度こそ背後を目にしながらバックステップ。近づいたはずのレイミン機はジャンプして離れざまの一撃を残す。狙撃をサイドステップで躱した。ビビアンが駆け込んでくる逆方向に。


「んああっ!」


 地を蹴って強引な方向転換をする赤ストライプの機体。低くスライディングしながら砲口を向けてくる。

 試合時間も重ねてきて体力が厳しくなってくる頃合いの無茶な機動。勝負を懸けてきているのは明白だ。迫る光条を横一閃で斬り裂いた。


「まだか」

「ほい」


 スピンで後ろ重心になるレギ・ソウルの足元にスティックが走る。避ければ姿勢が崩れるのを危惧して踵で跳ねあげた。回転する鋼棒は背中を叩いたが耐える。

 掴みに行くどころではない。その頃にはビビアンがスライディングを終え、足のクッションを利用して立ちあがっている。


(素晴らしいコンビネーションだ。途切れがない)


 右足を地面に円弧を描くように滑らせる。上半身を折りたたんで低くターン。ビビアンからのビームが頭上を抜けたところへ切っ先を跳ねあげた。


「んくっ!」

「やっ!」


 のけ反った白い胸部装甲すれすれを剣先が抜ける。背中に向かってくるスティックは左手をまわして受けた。

 掴み取り、引っ張りつつ放った斬撃は届かない。ウルジーはスティックの一番端を握って間合いを取っていた。挟まれた狙撃にレギ・ソウルの機体を逃がす。


「サリエリ選手、バイタルロストぉー! ノックダウぅーン! なんと、なんと、保たれてきた均衡が崩れてしまったぁー! フラワーダンス、ピぃーンチー!」

 アナウンスが届く。


(サリが落ちた)

 俄然有利になると心の中で喝采する。


 動揺が走ってるかと視線を巡らすも、ホライズン三機は離れて立て直す気配もない。動きがない様子をみるとチーム回線で相談中か。


(位置は悪くない。ちょうどプレートを背負う場所)


 このまましのぎきればミュッセルが来る。ビビアンたちは焦燥に駆られているだろう。最も無理な仕掛けをしてくる可能性が高い。


(カウンターを取って一機でも落とせば勝負あり)

 グレオヌスはそう読んだ。どちらにせよ無理をする場面ではない。


「やー!」


 ウルジーが掛け声鋭く突っ込んでくる。珍しいこと。彼女のこんな大きな声を聞くのは初めてかもしれない。


「来い!」

 仕掛けてきたと思った。

「はっ!」

「ん?」


 両手で頭上にかかげたスティックを突きおろしてくる。あまりに単調な攻撃だった。


「なに……を?」


 当然のように躱すと、地面に突き立てた鋼棒に機体を乗せる。レギ・ソウルの頭上を棒高跳びの要領で越えていった。


「後ろはプレート……」

「はいっ!」


 ウルジー機はプレートに仰向けに足を掛ける。横向きのままスティックを一閃させてきた。躱そうにも目前にはビビアンのホライズン。


(ブレードを使えば攻め手を失う。ここは……)

 ビームを左手のブレードスキンで弾きにいく。


「二段ブラインド!?」


 瞬時にしゃがみ込んでスライディング体勢になるビビアン機。正面からレイミンの狙撃が来た。


「く!」


 ブレードを立てて剣身の腹で受ける。その時には回転したスティックが首に絡んでいた。ウルジーが背中合わせで両肩上にあたる部分を掴む。背中を押されて強制的に仰け反らされた。


(しまった。これは罠。プレートを背負っていれば後ろから攻撃されないと思って)

 油断があった。

(さっきから執拗に背中を狙ってきたのは布石か!)


 動けなければなにもできない。咄嗟に逆手に持ち替えたブレードを背後に突き立てる。向けられるビビアンの砲口を左腕のブレードスキンで受けにいった。


「な!?」

「決めるぅー!」


 彼女は撃たなかった。砲身を左手で握って回転させ、グリップエンドでレギ・ソウルの左手をかちあげる。そのまま右手の中でビームランチャーを旋回させて筒先を胸に押し当てた。


「ユーリィ選手もノックダウぅーン! これは勝負あったかぁー!?」

 そんなアナウンスを聞きながら胸部装甲でビームが弾けるのを見つめる。

「お見事」


 グレオヌスは彼女たち三人の類稀なるコンビネーションを褒め称えた。

次回『リングに吠えろ(4)』 「とりあえず仇は討ってやる。そこで休んでろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 接戦……! これは勝敗が分からないですね!(わくわく)
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