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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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リングに吠えろ(2)

「はあぁー!」

「くうぅ!」


 サリエリの放ったビームランチャーのグリップエンドの打撃は、ヴァン・ブレイズの頭を地面と挟んで叩きつける作戦。頭突きできる構造があってもダメージはあるはず。それは決まったかのように見えた。

 ところが、ミュッセルはぎりぎりのところで首を傾けて躱していた。グリップエンドは地面を穿っている。そして、モニタいっぱいが赤い手に覆われた。顔面を掴まれている。


「んぅんおあぁー!」


 馬乗りになっている彼女のホライズンを押し戻して上半身を持ちあげるヴァン・ブレイズ。そのまま後ろのスティープルに叩きつけられた。


「んがっ!」

 背中も打って衝撃で息が抜ける。


 動けないところへミュッセルが掌底を鳩尾に添えてくる。確実に撃墜(ノック)判定(ダウン)させるために烈波(れっぱ)を放つ気なのだ。


(それで正解。かなりギリギリだった。こいつはもう、わたしをノックダウンさせることしか考えられない)

 身を犠牲にする戦法。背後に迫るユーリィの斬撃など頭にはないはず。


「うりゃあ!」

「……!?」


 弾んだ真紅の機体が背後に蹴りを放つ。黄色いストライプのホライズンの頭部を直撃した。地面に並行にまでなったボディで芯を作られる。


「そんな馬鹿にゃっ!」

「がふぅ!」


 凄まじい衝撃が襲いかかり、サリエリは一瞬にして意識を刈り取られた。


   ◇      ◇      ◇


「サリぃー!」


 吹き飛ばされながらユーリィはバディを見る。絶望的だった。上半身を跳ねさせた青ストライプのホライズンはそのまま崩れ落ちる。


「サリエリ選手、バイタルロストぉー! ノックダウぅーン! なんと、なんと、保たれてきた均衡が崩れてしまったぁー! フラワーダンス、ピぃーンチー!」

 アリーナからも悲鳴が聞こえる。


(マズいのに。マズいのに。一人じゃミュウを抑えられないに)


 乾坤一擲の詰め手を打ち破られてしまった。しかも無傷で。致命的である。


(負けられないのに。無理してでも、せめてダメージを与えないと駄目にー)


 立ちあがると一直線にヴァン・ブレイズを目指す。逃げるなど考えてもいない。無論、ミュッセルも真正面からダッシュしてきた。


「落ちてくれにゃん」

「可愛く言っても駄目だぜ?」


 左手のブレードを地面すれすれから跳ねさせる。ブレードスキンを削って抜けた。次撃を狙わず肩から当たりにいく。右手の突きをボディに隠すように密着した。


「攻撃は可愛くらしくねえじゃん」

「ふぎゃっ!」


 膝が打ちあげられている。ホライズンの上半身が跳ねてしまった。


「やめるのにゃー!」

「勘弁してやらね」


 肘打ち、両手突き、まわし蹴りとコンビネーションを決められる。目が回りかけていたが必死で意識を引き戻す。


「しゃあぁー!」

「うわ、怒った!」


 ブレードもそっちのけで掴み掛かる。形振りかまわず抱きついて動けなくさせようとした。


「行かせないに。おネムの時間だにゃ」

「誰が寝るかぁー!」


 ユーリィの目論見は叶わず、強烈な一撃を喰らってしまった。


   ◇      ◇      ◇


 時間は遡る。


 グレオヌスはビビアン、ウルジーとレイミンの猛攻を受けていた。相手に一人も剣士(フェンサー)がいないという難しい状態になっている。


(押し付けてくれたな、ミュウ。もたせておけば、そっちを崩すって意味か)

 無理をせずともいいというメッセージだろう。


 ビビアンの至近距離からの一射をブレードスキンで弾く。足元に向けて回転してくるスティックも足を上げて避けた。そのまま踏み込んでブレードを落とすも手首をウルジーに打たれて止められる。

 まわり込んだ赤ストライプのホライズンが脇にビームランチャーを突きつける。肘で押して筒先だけ逸らせた。あっけなくあきらめたかと思ったら、ビビアンが避けた位置の向こうへレイミン機が見えた。


(ブラインド!)


「くおっ!」

 狙撃をかろうじてブレードガードで受ける。


(これが上手いから堪らない。ビビはミンの視界が見えてるんじゃないかと思うよ)


 実際はチームリンクの射撃線を見て動いているのだろう。しかし、それだけでは語れないものがある。絶妙すぎるタイミングが敵手を苦しめるのだ。


「君たちの絆には本当に感服する」

「付き合いが長いからね。気も合うし」

「一心同体」


 有言実行ともいえる。ビビアンはショートレンジシューターに転向してからは、かなりトリッキーな動きもしてくる。ウルジーは元より神出鬼没だし、技の冴えも格段に上がった。

 その二人が変幻自在な攻撃をくり返してくるのだから骨が折れる。彼の神経を遠慮なく削ってくれる。一瞬たりとも気が抜けない。


「そろそろ落ちてくんない?」

「ご期待には応えられないさ。僕もそこまで紳士じゃない」

「こういうときこそ発揮してよ!」


 ノーモーションから背後を一閃。間合いを外したビビアンに抜けた剣先を返して跳ねさせる。察していた彼女は半身で躱した。

 腰を狙ったウルジーの突きは左の掌底でこすって逸らす。握り込んで引っ張ると機体ごとついてくる。十分鋭いと思われる蹴りをカウンターで放ったのに、彼女は同じく蹴りを合わせてきた。


(パイロットスキルの向上が素晴らしいね)


 その瞬間、突然両者が離れる。取って付けたように狙撃が挟まれたがブレードで斬れる正直なものだ。


(あっちの局面に変化があったか?)


 その影響だろうとグレオヌスは読んだ。

次回『リングに吠えろ(3)』 「決めるぅー!」

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