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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
念願のリングへ

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二つ巴高速機動戦(4)

「入れ替わりつつも拮抗する実力! 目まぐるしく変化しつつも流動的な戦局! いったいどんな結末が待っているのか未だ誰にもわかりません! ただ、間違いないのは、これが稀に見る素晴らしい試合ということだけです! わたくしでさえ見入ってしまいたい衝動を抑えきれません!」

 リングアナの実況もやや控え気味で観客の意識を削がないトーンになっている。


 開始当初は盛んに聞こえていたそれぞれのチームを応援する声や、ときに響くヤジも下火になった。開始から三十分以上、観客をも息をつかせぬ攻防が展開している。


(ただし、この事実に気づいている人は……)

 限られるだろうとレイミンは思う。


「ひっくり返された」

「やっぱり気づいちゃった?」

 誰にともなくつぶやいた言葉を拾う者もいる。

「エナ?」

「さっきからどうしようかと思ってる。でも、今の流れをさらに変えようとするとリスク高すぎてできない」

「ええ、誰か一人くらい落ちたとしてもおかしくない」

「そして、一人欠けるとたぶん致命的」


(身動きできなくなった。違う、身動きできなくされた)

 怖ろしくなってくる。


 紆余曲折あったものの、マッチアップを逆転されているのである。当初はミュッセルに彼女とビビアン。グレオヌスにユーリィとウルジー、サリエリがマッチアップしていたのだ。

 今はグレオヌスにビビアン、ウルジーと彼女レイミン。ミュッセルにはユーリィとサリエリが対している。動いてないのはウルジーだけで、前衛(トップ)後衛(バック)が入れ替えになっていた。


「マッチアップは悪くなかった?」

「たぶん。それをミュウは嫌ったんだと思う」


 最初のはコマンダーのエナミが計画したマッチアップ。他のチームであれば、まず目を付けるツインブレイカーズの弱点はミュッセルの間合いの短さである。格闘士(ストラグル)タイプは剣士(フェンサー)砲撃手(ガンナー)は与し易いと感じる。

 しかし、メンバーが危険視するのはそれではない。一発撃墜(ノック)判定(ダウン)の奥義の怖さでもない。ミュッセルの変化の多彩さである。臨機応変に動かれると手が付けられない。


(だから、先にグレイを落とそうと画策したのに)


 彼は格闘複合型とはいえ、剣闘技は基本を踏まえている。間合いの長さはあるが剣筋は真っ直ぐ。多数で攻めつづければ付け入る隙が見えなくもない。それなりのパイロットスキルは必須だが。

 ミュッセルを抑えるだけならば不可能ではない。狙撃とビビアンのヒット&アウェイで距離を取りつつであれば損害を出さずに時間を稼げる。考えたうえで導きだしたマッチアップだった。


「無効だと思わせたの偽装?」

「きっとね。内心では嫌がってたんだ」


 ブレードナックルを使い、距離を取りつつの砲撃戦法を無意味にしたと見せかけた。しかし、おそらくミュッセルは攻めあぐねていたのだ。ビームが怖くはなくとも二人を落としに掛かれるほどではない。


「仕組まれた」

「うん、リスクを抱えてもミンを強引に攻めていったのは、この二つ巴の高速機動戦に持ち込むため。ミンを深追いせずにリィにターゲットを変えたのも。動きまわってサリに姿を見せたのもマッチアップを入れ替えるためだと思う」

 怖ろしい結果にたどり着く。

「なんて狡猾な」

「考えてやってないかもしれない。彼の戦闘勘のなせる技」

「だとすれば?」

「ユーリィが危ないかも」


 ユーリィとサリエリはバディである。この組み合わせにミスマッチはない。だからこそ訓練でもさんざんくり返してきた対戦でもある。こちらが慣れているのと同じだけミュッセルも慣れている。やりやすい相手でもあるのだ。


「でも、今さらウルジーを動かすのは……」

「悪手」

 エナミは断じる。

「作戦どおりの目的を果たすしかないの。できるだけ早く」

「グレイを落とす」

「サリたちがもってるうちに」

 同じ結論に達した。


 話しながらもレイミンは走っている。視界に入れた戦況マップをほぼ無意識に読み取り、狭隘を見つけては足を緩めてレギ・ソウルを狙撃する。一射、せいぜい二射までにしてまた加速する。

 それでビビアンとウルジーがグレオヌスを攻めつづけるバランスが取れていた。一人でも外れると天秤は傾くと思われる。


(悪いほうに。それはエナも理解してる)


 ゆえに身動き取れないでいた。もし、この詰め手をミュッセルが最初から仕込んでいたとすれば、とんでもない策士である。しかし、そうじゃないと彼女もエナミも予想していた。

 あの赤毛の少年は戦闘に関しては天才的。その天性の勘が彼にささやきかけて実現した戦局なのだと思っている。


「ここが勝負どころ。いい?」

「私もそうだと思う」

「だったら強引にでもいく!」


 方針変更する。彼女が動かねば天秤は釣り合ったまま。だが、ほんの少し無理をしただけでこちらの勝ち目に傾く可能性は小さくない。

 お気に入りの緑のストライプが入ったホライズン。その進路を白兵戦をやっている三人に近づける。そうすればビームの到達はコンマの下に幾つかゼロを置いただけにしても早い。その差が有効なはずだった。


(落とす! 絶対に落とされない! でも落ちちゃうかも!)


 レイミンは葛藤と恐怖に後ろ髪を引かれながら疾走していた。

次回『リングに吠えろ(1)』 「あれ(・・)をやる。準備して」

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