二つ巴高速機動戦(3)
「突如として始まった追いつ追われつも、フラワーダンスが巧みな立て直しを図り、再び膠着状態を作りつつあります! ツインブレイカーズは彼女たちの戦術に翻弄されて分断されたまま追い詰められていくのか? はたまた、巻き返しを図った彼らがフラワーダンスに逆襲を試みるのか? 試合の帰趨はまだまだ読めない状態です!」
実況に困るような目まぐるしい状態は脱したものの、リングアナも解説を加えられるほど単純な状況ではない。言葉に窮しながも継いでいるのはプロの仕事か。
(スティープルマップをコンプリートした今、最も動きやすい状況が作れた。冷静にグレイを詰めていくべき)
サリエリはアナの例え話の前者を成功させる方法を模索する。
コマンダーのエナミから戦況マップに障害物間隔の狭いルートが提示されていく。間合いの広いレギ・ソウルが戦いにくくなる場所を選ぶように。
「後ろ50右。左20プレート」
エナミが訥々とナビをする。
「こっちが勝負?」
「うん。リィが抜けたの痛いけど、あっちをビビに任せても良くなったし」
「厚くなったもんね。ウル、見極め、よろ」
「うい」
ルートとスティープル離隔がナビされると俄然ウルジーは動きやすくなる。グレオヌスが思いどおりに誘導されてくれるとはかぎらないが、幾つかあるルートの一つへと流れが決まっていった。
(いい感じ。このままわたしが背後を取れれば有り)
次に取り付くスティープルを決めてジャンプする。ホライズンの機体をホールドするとともにレギ・ソウルに照準を定めて一射。それはまだ本命ではない。常に脅かしている意識を与え、プレッシャーを強めていく。
(なんて精神力。ここまで圧掛けても足捌きに不安定なところがないとか)
苦い思いが広がるも、あきらめるには至らない。
ウルジーに狙い所を作ることができないのは忸怩たる思い。繊細な作業にエナミが消耗するまでに場を整えたいというのに、だ。
(なにかきっかけが欲しい)
渇望する思いが胸に湧きおこる。
新たなスティープルに取り付いたところで視界の端になにかが映った。印象的なそれは真紅の欠片である。
(遠いけどヴァン・ブレイズが見通せる?)
サリエリの頭が高速で働きはじめる。
(クレバーなグレイは簡単に動揺しない。でも、ミュウに窮地を作ったらさすがに?)
一瞬の気の迷いだったと思う。反射的に動いた腕が赤い標的をターゲッティング。自然なアクションでトリガーを押し込んでしまった。
「それ、駄目!」
「え?」
「ミュウから見えたら!」
エナミに指摘されて頭を巡らせるも、すでに手遅れだった。レギ・ソウルが一気に反転してダッシュしている。彼女に向けてまっしぐらに。
(しまった。ウルの仕掛けもなく、一射も入れずに居場所を知られた)
彼らの相互リンクに捕まった。
ビームはヴァン・ブレイズの腕の一閃で弾かれたのみ。逆に窮地に陥ったのはサリエリのほうだ。速度を緩める狙いの連射も全てブレードで斬り裂かれた。
「ヤッバぁ!」
「サリ、逃げ!」
「はーやーくー」
さすがにウルジーも追いついてこれない。気にする暇もなくヒートゲージがいっぱいになる。スティープルを使って三角跳びをしたレギ・ソウルが目前に現れた。
「君にしては迂闊だった」
「言うなぁ!」
ブレードがスティープルの表面を舐める。サリエリは手を放して落下するしかない。ヒートゲージの復活を今か今かと待つが遅々として進まない。
(これまで?)
全身に汗が吹きだす。
「決めさせてもら……」
「どーん!」
空中で端子突起を効かせたグレオヌスが追いすがる。そこへギリギリ間に合った黒いストライプのホライズンが背中から体当たり。どうにか撃墜判定は免れる。
「君か!」
「ぼくと遊ぶ。サリ、逃げー」
「愛してる!」
我が身を省みず突進してくれたウルジーに感謝しつつ地を蹴る。しかし、そこも地獄だった。さらに手遅れだったのである。
「捕まえたぜぇ!」
「ひぃやっ!」
100mを切る距離に迫ったヴァン・ブレイズに変な声が出た。
「いただきだ!」
「させるか!」
「しつこいぞ、ビビ」
「引けるわけない!」
らしくなく、ヒートゲージを無視した連射で時間を稼いでくれるビビアン。そのフォローに駆け込んでくるユーリィ。牽制の狙撃を狙うレイミン。皆が交錯して隙間ができた。サリエリは命からがら逃げだす。
「ホッとしてる場合じゃない!」
「たーすけてー」
一方的に攻められているウルジーが取り残されている。
「サリはリィのフォロー! あたしとミンでウルを助けに行くから」
「ごめん。よろ!」
「任されり」
すでに加速しているビビアンとレイミンのほうがフォローが早い。心を決めて再びスティープル上方へとジャンプして取り付く。意識をユーリィとミュッセルのほうへと切り替えた。
「よくもやってくれたわね? 覚悟!」
「なんだ? 漏らしたか、サリ?」
「このセクハラ小僧ぉー!」
どうにか回復したヒートゲージを気にしながら狙撃を挟む。ユーリィが猛攻を仕掛けているので角度をつけたビームで足元をさらう。途端にミュッセルも攻めにくそうに間合いを取った。
(あれ? 既視感?)
サリエリは戦い慣れた感覚に不安の芽を胸に芽生えさせた。
次回『二つ巴高速機動戦(4)』 「やっぱり気づいちゃった?」




